1話 「変わらぬ朝?」
夜が明け、決戦の朝がやってくる。辺りには自然と緊迫した空気が漂よ・・・わないんだよなあ。
「ム~? ねぇねぇ、あーちゃん! 昨日何かいいことあったの~?」
「えっ? いや、何も無い。うむ、何も無いぞ。」
普段のきりっとして凛とした顔と比べると幾分ふやけたような顔をしていたアキがレミーに問い詰められる。・・・理由を知っている俺でさえなんとなく違うなって言う程度の差のはずなんだが?
「嘘だぁ~! だってあーちゃん、幸せラブラブ光線出てるよ?」
「し、幸せ? ら、ラブラブ!? そ、そのようなものでていない!」
・・・レミー、それは本当に何か見えているのか? それとも当てずっぽう? レミーらしくもない推測とかしてるのか?
なんにせよ、あながち間違っていないからなぁ~。下手に突っ込むと薮蛇になりかね無いし。
「ム~? リューくんからも幸せラブラブ光線感じるよ~?」
「な・・・に? い、いや、そんなものは知らないぞ。」
「うむむ、これは絶対昨日2人でなんかあった! ひょっとして! ひょっとしてどっちかが告白とかしたの~?」
ほんの一瞬固まる俺とアキ。あ、アキ、その真っ赤な顔はしたって言っているようなものだぞ。・・・俺は平気だよな?
「おっ? 2人して顔真っ赤? ってことは名探偵レミーちゃんの推理によると、2人して告白して晴れて恋人になった!」
これが漫画やアニメなら背後にズガ~ンと雷が落ちそうな勢いでレミーが指を突きつける。・・・レミーが名探偵になれるなら誰しもが名探偵になれそうだが、今回ばかりはズバリと当たっているのでなんともいえない。
「い、いや、そんなことは無いぞ? なぁ、リュウト?」
「あ、ああ、昨日はただ決戦の意気込みを語っただけだったよな?」
俺とレミーは昨日会っている。おそらく(いくらレミーといえども)アキと会っていないといったら嘘だとばれる危険性が高い。だから誤魔化すのなら、その内容・・・
「りゅ、リュウト!? それでは会ったと言っているような・・・!?」
あ、アキ・・・キミがこういう事態に弱いのは知っているけど、会って秘密の会話をしてたってばらしたのはキミだぞ?
「そうだよね~? だって昨日あーちゃん、リューくんに会うって言ってたし、リューくんもあーちゃん探してたもんね~?」
やっぱり、さすがのレミーにもこの程度の判断力はあったみたいだな。しかし、アキ・・・キミもレミーに会っていたのか。焦るとこういうボロが出るところも可愛いと言えば可愛いけどなぁ。
「・・・あぅあぅ~。」
さすがのアキも自分の失言に気づいたようで涙目で困惑してるが、それは俺に(抱きしめたいという)無駄な衝動を起しているだけに過ぎないぞ。っていうかここまでして隠さなければいけないことだったんだろうか?
「ふぅ、レミー・・・降参だ。キミの言うとおりお互いに告白して恋人同士になった。だが、それだけだぞ?」
どう考えても死力を尽くすことになる決戦の朝には思えない。緊張しすぎよりはずっといいが、このなんとも疲れる状況からは早く逃げたい・・・。
「うわ~、リューくん、あーちゃん・・・おめでとう!」
ニパって笑うレミーは本当に心からの笑顔で・・・さすがにこの笑顔には勝てないなと思う。
「あ、ありがとうレミー。」
アキも観念したようで真っ赤な顔をしながらレミーに礼を言っている。うん、これで平穏な朝が帰って・・・
「あれ~? 恋人になっただけ? なんか怪しい! なんでリューくん、そんな強調するの?」
平穏な朝は帰っては来なかった。空気が再びピキーンと凍りついた音が聞こえたのは俺だけだろうか。どうして・・・どうしてレミーは今日に限ってこんなに鋭いのだろう?
「な、何のことかな?」
冷や汗がだらだらと流れる。戦闘中でもこんなにかくことは珍しいぞ・・・。
「う~ん、なんか良くわからないけどなんかおかしいって気がするの~。」
あ~、そうかレミーの野性の本能を甘く見てた。頭使って無い分、直感で生きてきてたんだもんな・・・。
「あ~! わかった! ねぇねぇ、あーちゃん・・・レモンの味って本当にした?」
ボンってまさに音がするぐらいの勢いで真っ赤になるアキ。・・・倒れたりしないよな? これから決戦だって覚えているよな、2人とも・・・。
「そ、そういうそなたこと今日は随分テンションが高いではないか! そなたも何かいいことが・・・。」
「えへへ~♪ わっかるぅ~♪」
うん、とりあえず興味の対象から俺は外れたらしい。アキ、キミを残して逃げる俺を許して欲しい。どう考えても今日のレミーには勝てそうも無い。
おまけ
「ふぅ、疲れた~。」
「ふん、情け無い奴だ。」
「アシュラもあの雰囲気に飲まれればわかるさ。しかし、いつも以上に華やかな朝になったな。」
「下手に緊張などするよりはずっといい。あれがあいつの強さだからな。・・・オレにはマネ出来んことだ。」
されても困るが、たしかにそのとおりだな。レミーがいるから俺たちは戦えるのかもしれない。俺たちのムードメーカーは伊達じゃないってか。・・・しかし、もう少し手加減して欲しいなぁ~。
決戦の朝の緊迫した空気・・・なんて微塵も残っていませんね。まさに『レミー恐るべし』っていうところでしょうか?
レミー「ム~、わたし怖くないよ? 可愛いよ?」
自分で言うんじゃない。たぶん、キミを可愛いっていう人はいないと思うぞ。行動はともかく・・・ね。
レミー「え~!? なんで~~!!」
ほら、これを読んでみるように・・・ほら、この部分。(レミーにキャラクター図鑑を渡す。)
レミー「えっと、『顔はアキが言うには百人いたら百人とも美人と言うというほどの美形』えへへ~私、美人?」
少なくても黙って立っていればそうなんだろうけどなぁ~。御馬鹿で天使で美人でムードメーカーでトラブルメーカー・・・自分に害が及ばなければこれ以上なく近くにいたら楽しい奴だけど・・・。
レミー「これからもわたしは頑張るからね~♪」
とりあえずリュウトたちに合掌して、今回はお別れです。