6話 「離せない手」
「りゅ、リュウト!?」
ある意味いつもどうりといえばいつもどうりに、リュウトが豪快に倒れる。何度見ても慣れない光景、慣れたくはない光景。それも今回は・・・
「レミー! 頼む、リュウトを・・・」
「う、うん! 任せて!」
返事だけを聞けばいつもと同じ。でも、レミーの動きが遅い? ま、まさか、あれは・・・
「あ、あれ~?」
リュウトに近寄ろうと歩き出したレミーがふらつき尻餅をつく。間違いない、レミーのエネルギーがつきかけている!
「くっ!」
突然のうめき声にそちらを見ると、あのアシュラすら片膝をついている。な、なんで!? なんでみんなそんなに消耗してるの!? わ、私は疲れてはいるけどそんなには・・・
「どうやらリュウトの奴はオレとレミーから集中的にエネルギーを持っていったようだな。確かにあの方法なら受ける側がその量のコントロールができる。よほど、お前の力は使いたくなかったと見える。」
な、なんで!? い、いえ、リュウトが使いたくなかった理由はなんとなくわかる。でも! 私の力が残っていたってリュウトは救えない! 私は・・・回復の力は使えない。なんで? 何でなんだろう? なんで私はこういうときにいつも無力なんだろう?
「りゅ、リューくん・・・ちょっと待ってね。今、治すから・・・」
レミーが必死に無いエネルギーを振り絞って治療しようとする。でもあれじゃあ消耗の方が大きくて治せない。それにあんな状態で治療してたら・・・レミーも死んでしまう! だというのに、もう無理だからやめてなんて私には言えない。私は・・・私はいったいどうすればいいの?
「そうね~、ここは私に任せてちょうだい♪」
不意に聞こえたそんな能天気な声。でもとても優しい声・・・なんかレミーが一瞬びくぅってしてあたりをしきりに見回している。
「はいはい、レミー? そんなわけでそこをどきなさい。まったく、エルファリアに遊びに行ったきりで帰ってこないと思ったら、こんなところにいたなんて。」
まるでそこにいるのが当たり前のように自然に姿を現した人。いえ、あれは本当に人なのかな? こんなときに不謹慎だと思うけど女の私ですら見惚れてしまいそうなぐらい綺麗。まさかレミー以上の美人に出会うなんて思ってもいなかった。それにあの人、言葉の上ではレミーを責めているけど・・・なんだか嬉しそう。
「ごめんなさい・・・レーチェル様。」
れ、レミーがちゃんと名前で! しかも様付けで呼んだ!? あれ? レーチェルってどこかで聞いた覚えがあるような?
「まぁいいわ。事情はわかっているしね。本当は行く前に報告に来て欲しかったところだけど、リュウトくんをほっぽってたらそっちの方が怒るところだわ。・・・さて、で状態は・・・出血多量にエネルギーの枯渇、それに左腕の喪失ね。ああ、左腕はあんなところに落ちてるじゃない。無くても大丈夫だけど折角だから使わせてもらいましょ。」
す、凄い! レーチェルさんって言う人一瞬でリュウトの腕を引き寄せた。あんなに正確ですばやい転移魔法を使いこなすなんて!
「あーちゃん、大丈夫だよ? レーチェル様はわたしよりも回復うまいんだから!」
「そりゃ、あなたに教えたのは私だからね。まだまだあなたに負ける私じゃないわよ。」
集中力が必要なはずの高位な回復魔法をそんな軽口を言いながらも的確にこなしていくレーチェルさん。うん、私から見てもこの人がとんでもないってことはわかる。私はレミーほどの回復の使い手は知らなかったけど、そのレミーと比べてもレベルが違いすぎる。リュウトの顔色がどんどんよくなっていく。
「ん、これで良し。後はしばらくすれば気がつくわ。一応念のために半日ぐらいは無理に手を動かすなって言っておいてね。」
「す、すまない。なんて礼を言ったらいいのか。」
あまりに突然な事態に頭がついていけていないけど、本当に私はなんてこの人にお礼を言えばいいのだろう。
「いいのいいの、お礼なんていらないわ。私にとってもリュウトくんは助けたい子だしね。」
「えっ!?」
こ、この人、なんかリュウトと関わりがある人なの? こ、こんな美人が!?
「あ、勘違いしないでね。関わりはあるって言えばあるんだけど面識は無いわ。少なくてもリュウトくんにはね。・・・まぁ、この話は今度にしましょ。リュウトくんが起きている時に話すわ。本当はレミーがもう話してるかと思ったんだけどね。」
「あれ? 話してなかったっけ?」
・・・聞いてないわ。話の内容からして、おそらくこの人がレミーがお仕えしてる神様なのだろう。なんでそんな人がリュウトと関わっているのかわからないけど、いまさらレミーから聞き出すよりは本人から聞いたほうがいいわね。それを望んでいるような気もするし・・・。ただ、レーチェルさん? ぼそって呟いた、『このお調子者はどうしてくれましょうか?』っていうのは凄く怖いです。まるで、お姉ちゃんみたいで・・・
「あ、そうそう・・・アキちゃん・・・だったわね。」
「う、うむ・・・」
な、なんだろう? 私とも関わりがあったりするの?
「あはは、そんなに堅くならないでよ。ただ一言言いたかったの。リュウトくんを離したら駄目よ? こういうタイプの子はね、ほうっておくといつの間にか誰の手にも届かないところにいってしまうものなのよ。」
一瞬、ほんの一瞬だけレーチェルさんの表情に浮かんだ寂しげな顔。きっと、この人にはその届かない場所に行ってしまった大切な人がいるんだ・・・。
「離しません。絶対に! もし、彼がそんな場所に行くときは・・・私も一緒です。」
それは私の覚悟でもあり、弱さだ。もう、彼のいない世界は本当に嫌だから。お姉ちゃんやエルフのみんなには悪いとは思うけど・・・
「ん、いくときは一緒か・・・本当は止めるべきなんだろうけど、置いていかれてしまった身としては羨ましい言葉ね。んじゃ、私は帰るわ。これでも結構忙しいのよ。」
あはは、と照れたように笑いながらレーチェルさんは溶けるように消えていった。本当に凄腕の転移・・・ううん、水の属性の使い手ね。
・・・本当にありがとうございます。私は健やかな寝息を立てるリュウトの顔を見ながら心からそう思った。
久しぶりに本編に登場したレーチェルさん。彼女はこの時点ではまさに最強クラスの実力が実はあるのです。
レーチェル「ん~、そこまで褒められるとちょっと照れるわね。本当のことだけど。」
どこが照れてるんですか・・・。レーチェルとリュウトの関係は一応まだ秘密ですが・・・
レーチェル「そうね、ここまで読んでくれた人ならわかるでしょうね。ヒントを言うと1部5章2話や2部1章1話を読むとわかりやすいかしら。」
他にキャラクター図鑑を読むっていうのも手段でしょうね。勿論、レーチェル=フランの項を。あ~、根本を言うなら1部1章4話もですね。・・・ではそろそろ次回予告を。
レーチェル「ええ、今日は気分がいいからね。残るは最後の魔王城となった今、彼らは何を語り何を思うのかしら? それぞれが思い思いの言の葉を告げ、深まりあう思いたち。そして、とうとうあの2人にも進展が・・・。次章、竜神伝説第2部12章『思い束ねて』女神の抱擁もつけてあげましょうか?」