4話 「生きるために」
「竜神流剣術・・・刹那!」
タイムリミット(リュムの力解放は長時間は使えない)がある状態で強敵との戦い。おまけに相手は3人となれば小手先の小細工は通用しない。ここは一気にけりをつける! ・・・そう思い繰り出した剣はあっさりと空を斬る。
「確かに速い。だが俺を捕らえるには遅い!」
狙った相手は蝿の王ベルゼブブ。俺の最速の技さえも遅いと言い切るようにその動きを追うのだけで精一杯な高速移動で俺を翻弄する。
「きゃあ!」
アキの悲鳴に慌てて振り向くと、アスモデウスの攻撃を受けていた。そうか! 俺たち前衛が他の相手に気をとられていたから・・・アキが魔王との接近戦は無理に決まっている!
「ちっ!」
俺はとっさに竜神剣を思いっきり投げつける。
「ふむ、思い切ったことを・・・。」
だが、その一撃は容易に避けられ、僅かな動揺さえも生み出せない。
「剣を手放すとは馬鹿め!」
その隙にベルゼブブが突撃を行ってくるが、こちらはむしろ俺の予想どうり。竜神剣には『形状』という概念はない。ゆえに『位置』という概念も無効化される。・・・つまり俺が望んだ場所にその存在を具現化させる。だから容易に手元に引き寄せられるのだ。
「はぁ!」
完全に虚をついたはずの必殺の思いを込めた一撃・・・しかし、それはまたしても容易に避けられる。
「おーおー、まさかそんなことも出きるとはな。おっかねぇ、おっかねぇ。」
何の脅威も感じていないとばかりにあざけ笑うベルゼブブ。そして
「くっ!」
「アーくん! 大丈夫!?」
アシュラとレミーもまた残ったもう1人の魔王レヴィアタンに追い詰められている。アシュラの毛がところどころ赤く染まっているのはアシュラ自身の血なのだろう。・・・くっ、気がそらされる。これが並の相手なら万の大群だろうと勝つ自信はある。だが、1人1人が俺たちよりも強いという実力者が3人というのがこれほど戦いにくいとは・・・普段とは逆の立場に立たされているってことなのだろうか?
「・・・ウェイブ。」
レヴィアタンが放った水の基本魔法ウェイブ・・・巨大な津波がアシュラたちだけでなく俺やアキも押し流す。ちっ、こんな格好な隙を見せては
ザシュッ・・・次の瞬間に俺の耳に届いたのは擬音化すればこんな感じの音だろうか。ついでやってきたのは鋭い痛み。
「りゅ、リュウト・・・?」
アキが青ざめた顔で俺の腕を見てる。正確には俺の左腕があった場所・・・かな? おそらくはベルゼブブの放ったエアブレイドの魔法だろうそれは・・・俺の左腕を綺麗に切り落としていた。
「・・・っぅ!」
痛みもある。喪失感もある。だが今はそんなものを気にしているときじゃない。アキには悪いが俺は着ている服をリュムで切り裂いて(リュウトの着ている服はアキとメイから貰った丈夫な特別製の服)傷口にまきつけて血止めをする。・・・よし、これでまだ戦える! しかしまだ左腕でよかったな。利き腕を落とされていたら目も当てられなかった。
「竜神流!? ぐぅ!」
痛みをこらえ、撃とうとした技もベルゼブブの突撃により中断される。こちらの回復に来ようとしたレミーもアスモデウスに阻まれてこれないようだ。
突撃によって吹き飛ばされた体を縦に回転させるようにバランスをとり、着地する。だが、予想外に着地の瞬間にバランスを崩しふらつく。・・・左腕がない分バランス感覚が狂っているのか。これは相当まずい事態かもしれない。
「リュウトよ、このままでは負けは必然だ。」
内容の割には冷静に話しかけてくるリュム。・・・何か策でもあるのだろう。
「で、なにか逆転の手段があるんだろう?」
「手段となりうるかはわからん。だが、一時的に我の能力の一部を強制解除してやろう。・・・だが、わかっているな。まだそなたにこの力は早い。長時間使い続ければ・・・これは賭けだ。」
賭けね。いや、それしか手段がないなら、それは賭けではなく細くも確かな希望さ。
「それでいい。代償など何でも持って行け。・・・俺の命までならな。」
やっぱり俺は馬鹿だ。あんなに思い知ったはずなのに・・・俺が傷つくことで俺以上に傷つく奴がいることを。そいつのことを心から大切だって思っているのに。結局、俺は俺を守りたいんだな。そいつが傷つくところ見たくないから、だからわかっていても自分を賭けてしまう。俺は・・・最低だな。
「りゅ、リュウト・・・駄目。そなたは・・・約束した。約束・・・守って。」
ごめん、出来る限り守るつもりだけど、守れないかもしれない。でも、心は無理でも体だけは必ず守るから。はは、俺もコクトのことどうこう言えないな。
「竜神剣・・・特別モード、強制解除!」
切り落とされたリュウトの腕。自滅の可能性を知りながらも使う竜神剣の新たな能力!
メイ「うっう・・・女王様お可哀想に・・・」
そこで可哀想なのはアキなのですか? っていうかその言葉遣いは似合ってませんって♪
メイ「それはどういう意味でしょうか? それに可哀想なのはリュウト殿ではなく女王様ですよ。」
まぁ、たしかにそうともいえますが、一応先にリュウトの心配をしてあげて欲しいと言うか・・・。
メイ「ああ、女王様はリュウト殿の・・・愛しい人の手料理を楽しみになさっているのに! 片手では作れませんわ。これでは女王様がお作りになるしかないのでしょうか。」
・・・って料理の話なんですか!? それだと最終的に可哀想なことになるのはリュウトなんじゃ・・・。
メイ「そのようなことは知りません、存じません。」
あなたがある意味元凶なんですけどね。・・・では今回はこの辺でお開きです。