1話 「愚かな旅人」
俺は竜神の洞窟から最寄の町である港町ウィルを訪れていた。
ん? 怪我はどうしたって?? 町に着く前に痛みはなくなったから治ったんだろ?・・・たぶん。
世界でも有数の港町であるウィルは同時に世界最大級の商人の町でもある。ここでならイエティ戦で手に入れた宝石を売ることが出来るはずなのだが。内心期待でワクワクしながら町の中央部で大きな宝石店を見つけて入ってみると。
「いらっしゃいませ! お客さんは冒険者だね、魔法石でもお探しかい?」
この世界では宝石は綺麗な服飾品というだけでなく、むしろ様々な力を増幅することが出来る特殊な石、魔法石と呼ばれるものの方がメインだ。ゆえに顧客は俺たちのような冒険者が多い。負けず劣らず女性も多いには多いがな
「いや、今回はこれを買い取って貰いたくてな」
別に馴染みの店と言うわけではないのだが、この手の店になれているように見せないと足元を見られるかもしれないからな。
「では拝見を・・・っ!?」
拝見も何も一目見た段階で驚愕の表情で固まる店員。一体どうしたんだ??
「まともな冒険者ならこんな品物は売ったりしない。・・・これはいい鴨だな。この品だったらこれぐらいの金額で買い取れますが?」
・・・よく聞こえなかったが、はじめにぶつぶつ言っていたのが少々気になったのだが、提示された金額は俺が思っていたよりもずっと高額だった。
「♪♪♪~♪」
俺はついつい鼻歌が出るほどの上機嫌だ。俺の財布の中は今までの中で一番温かい状況だ。
で、問題はこれからどうするかだな。俺の目的は、邪竜神を打ち倒すこと。つまり、居城と思われる空中城に行かなくてはいけない。その方法としては船で行くか、陸路を迂回していくかだ。
船ならばおおよそ一週間ほどでつくが、如何せん金額が高い。べ、別に(一番安い部屋なら)乗れないわけじゃないぞ! ただ、このルートで行くと素手で邪竜神と戦わなければいけなくなると言うだけだ。
陸路を行くとなると馬車で1ヶ月ほどかかる。勿論、船に比べれば大分安いのだが・・・こちらには迷いの森がある。特殊な磁場の影響とかで方向感覚が惑わされ、道も存在しない為にエルフ族の案内なくしては抜けることが出来ない。道がないのは、その森の中にエルフ族の首都があるからだという噂もあるが・・・どうなんだろうな。
俺もここに来る時に案内を頼んだが、こちらも結構な額を取られる。馬車代と合わせると残るのは・・・ナイフぐらいしか買えない金額だな。ナイフ一本を持って邪竜神と相対する俺・・・駄目だ、勝てるとは思えん。
となると・・・徒歩で行くしかないのか。まぁ、仕方あるまい。剣士が丸腰じゃ話にならないからな。
そして街を歩き回ること半日、なんと俺は案内代を除いた全財産を使って極普通の剣を買うことが出来た。
ああ! 剣士として一度はこんなまともな剣を手にしたいと思っていたが、こんな形でかなえることが出来るなんて!
俺は感激で涙が出そうになるのをこらえながら、邪竜神を討つべく町を後にしたのだった。