6話 「VSイエティ」
普通に考えれば逃げるのが得策だろう。だがここは雪上・・・身動きでも向こうが上と見るべきだ。
さらに言えばあいつは明確に俺を狙っている。どこまで逃げても無駄の危険性も否めない。・・・戦うしかないな!
俺に武器はない、魔法も使えない。ならば、危険であろうとも接近戦以外に戦う術はない! ならば俺はただイエティに突っ込んでいく。あまり頭の回る様な奴ではないから・・・奴の取るだろう行動は!
「オレ セッキンセン ツヨイ。オマエ バカカ?」
誰がだよ!しかし俺の予想どうりに真っ直ぐ俺に対して突きを突き出してくる。これを避けてカウンター気味に一撃を・・・!? 当てたのだが、まるで分厚いゴムを叩いたかのような感触にはじかれてしまう。アレでは大して効いていないか!?
さらに突然吹き荒れた風が雪を舞い上げ、俺の視界を奪う。しまった!? 奴を見失ってしまったか!
一瞬俺の視界に映ったちらつき。本能が告げるままにガードを固めた場所へ痛烈な一撃が入る。
その一撃に大きく吹き飛ばされながらも辛うじて体制を立て直す。
「・・・ガハッ」
今の一撃で折れた肋骨が内臓にでも刺さったのか、大量の吐血が雪を赤く染めるのが見える。
だが気づけば、先ほど急に吹いた風は今はやんでいる? いや、あれは自然の風じゃない!? 奴の拳が生み出したものか!?
はっ!?・・・再び感じた危険の予感に俺は横に大きく跳ぶ。次の瞬間にはイエティの拳は今まで俺がいた場所にあった氷の塊を粉々に打ち砕いていた。
っ!? 今のはいったいなんだ?奴が氷を砕いたのを見たときに浮かんだビジョン。
風の動き、雲の動き・・・俺には手に取るようにわかる。一体ナゼ? 疑問は尽きないが、今はそんな理由を考えている場合じゃない!
足元に転がっている奴が砕いた氷の中にはそれなりの大きさのものもいくつかある。これを利用すれば・・・。
「くっ!邪魔だ!!」
俺はイラついたように氷を投げ捨てていく。・・・ちょっと演技が下手だったかな?
さて、これだけでは勝てない。俺がもう一つ手にしなければならないものは・・・アレだな。
考えなしに俺に向かい拳を突き出してくる奴をうまく誘導して・・・俺はとある巨木を倒させる。そこまでしなくてもよかったんだが・・・まさか、一撃であの木が倒れるとは・・・。
さて・・・そろそろ時間だな。
その予想どうりに雲の隙間から姿を表したものがある。・・・太陽だ。
俺が投げ捨てた氷の中には高台に乗ったものもいくつかある。その氷に増幅された光がイエティの視界を一瞬だけ奪い
「マブシイ!ヒカリノリュウ コウケイシャ ドコダ!?」
これだけでは勝つことが出来ない。俺に必要なのはあいつを倒せる武器だ。そして今、俺の手の中には今この瞬間だけならば俺が使っていた剣よりもよほど鋭い自然の作った槍がある!
もはや、小細工はいらない! ただ突き進んで・・・! 野性の本能によるものかまだ見えていないはずのイエティは俺の方へと拳をうってくるのなんて関係ない! そして
イエティの拳は俺の額の1cmほど前で止まっていた。そして俺の一撃・・・イエティの倒した巨木にさがっていた長いツララはイエティの心臓を貫いていた。
ふぅ、何とか倒せたな。心臓への一撃はさすがに効いたらしく、静かに倒れたイエティの横に座り込む。
しかし、こんなに早く刺客を送り込まれるとは思わなかった。戦っていくには、やはり武器が要るな。
だが、俺の財布の中はこの雪山以上のブリザードが吹き荒れている。はっきり言うと、限りなく空っぽに近い。
「ん?これは何だ?」
イエティが落としたものだろうか、足元に転がっていた拳大の大きさの燃えるような赤の真球の宝石を拾う。
ふむ、俺はしげしげとその宝石を鑑定する(そんなスキルはないけど)。俺の判断によるとこれはただ綺麗なだけの宝石だ!特別な魔法のアイテムだとかという重要なアイテムではないと見た! 誰がなんと言おうが俺がそう決めた!
・・・と言うわけで町に着いたらさっさと売ることにしよう! まともな武器が買える値段がつくといいな。