5話 「勝敗の行方」
ピリピリとした心地よい緊張感と睨み合い。さぁ、リュウトよ・・・どう出る!
ゆらりと空気が揺れる。リュウトの姿が霞む?・・・そうか! 陽炎、オレが雷に身を隠すように奴は空気の層に身を隠すのか!
考える前に、感じる前にオレはバックステップを取る。その直後にオレのいた場所を刃が通り過ぎる。そうだ、これでこそ面白いと言うものだ!
攻撃の後には必ず隙ができる。オレたちのレベルならばそれは得てすれば致命傷になる。・・・渾身の一撃は突然現れた壁、いや盾に阻まれる。
「むっ! それは・・・そうか、竜神剣か。」
「竜神剣は精神剣。その姿は剣にこだわる必要はない!」
ピシッ! という乾いた音を響かせてオレに襲い来るは一本の鞭。再びバックステップでかわしたオレに槍の連撃・・・そして最後は剣だ。
「ふっ、それでも基本は剣のようだな。」
「当然だ。俺は剣士だからな。」
無数の道が見える。その一本一本が可能性の道。・・・思考が研ぎ澄まされる。零コンマ数桁の一瞬の攻防。その僅かの間に俺のとるべき行動がわかる。
槍に鞭に斧に弓に・・・あらゆる形態を使いこなして戦うのが竜神剣の本来の姿。俺の技術が追いついていないのが悔しいところだがな。これからは剣士だなんてこだわっていないであらゆる武器を使いこなすべきなのかもしれない。おっと、今はこの戦いを征しないとな。
変幻自在の竜神剣の攻撃の中を縫うように突撃してくるアシュラ。さすがだな・・・だが、この盾を甘く見ないで・・・何!?
「修羅・・・雷鳴撃!」
雷を込めた爪の一撃・・・本来、精神剣である竜神剣には材質なんていうものはない。が、逆に言えば俺の認識が特性を決めると言ってもいい。アシュラが攻撃に雷を使ってくるなんて思いもしなかった俺は特に耐電性は考えずに盾を作った。・・・つまり、通常の金属同様に雷を通すのだ。
「くぅ!」
痛みと言うよりは痺れで動きの悪くなった俺にさらなる追撃が襲い掛かる。だが!渾身の力を込めた一撃はアシュラの爪のガードを切り裂き、喉元に剣を押し付けた。
「・・・オレの負けか。」
淡々とそう認めるアシュラ。だが、俺もそれを認めるほど恥じ知らずじゃない。・・・俺が切り裂いたアシュラの爪は左手。攻撃を行っていた右手の爪は俺の剣と同様に喉元に押し付けられていたのだから。
「何が負けだ。・・・引き分けだろ。」
「ふん、オレが負けを認めたのだ。それでよかろう。・・・先に進む権利はくれてやる。だが、今日はここで休んでいくといいだろう。」
やれやれ、初めからそのつもりだったんだろ? 俺が気づいていないとでも思ったか?・・・お前が本気なんかじゃ戦っていないってことに。
「だが・・・ママナ、お前はここに残れ。」
続けてアシュラが発したこの言葉がまた問題を引き起こす・・・いや、事前に問題を回避する為だったと言うべきか。
「ちょ、ちょっと! 唐突に何よ! なんで私が・・・」
「わからぬか? お前では力不足・・・足手まといだと言っているんだ。」
初めはアシュラにくってかかったママナだが、続く言葉に顔色を変えて・・・
「そ、そんなこと・・・わ、私だってわかって・・・わかって・・・う、うわあああああああん!」
泣きながらこの場から逃げていってしまった。
「ちょっとアーくん! 今のは酷いよ~! まってよ~、まーちゃん!」
ママナを追いかけていくレミー。そして何を考えているのか丸わかりな立ちすくんでいるアキ。
「後の始末は頼む。」
面倒なところは俺任せか?・・・いや、これは本来俺がやるべきことだったのかもな。
「すまんな・・・アシュラ」
「何がだ?」
わかっていないはずはない。だが、奴がわからぬ振りをするならそうとってやるべきだろう。
「いや、お前の爪をな。」
便宜上、爪と言ってきているが実際は普通の爪ではなく第二間接あたりから生えている鋼鉄の刃と言うべきなのかもしれない。しかも、戦闘中以外は収納できる便利なものだ。
「こんなものは1時間もあれば生え変わる。」
ぶっきらぼうに、だがにやりと笑った笑みは俺の意図を理解したってことだろうな。・・・さて、じゃあ俺は誰から問題を解決して回ろうかな。
さて、とりあえずは戦いは終わって、めでたしめでたし?
リュウト「いや、なんか俺に面倒ごとが増えていないか?」
そりゃ一応は主人公ですから問題を解決してもらわないと。
アシュラ「それぐらいは貴様の義務だな。」
リュウト「・・・俺の味方ってホントいないんだな。」