2話 「小手調べ」
睨み合う俺とアシュラ。お互いに手の内は知っている。同時に攻撃の予想がつかない。これがアキならば初手はまずファイヤボールの連撃だろうし、レミーならウォータショットの確率が高い。だが、俺やアシュラには決まった攻撃の型はないのだ。
フッっと軽く息を吐くようにアシュラの体から一瞬力が抜ける。かと思った瞬間に、奴は俺の視界から姿を消した!
ガキーン! と響く金属音。高速で横移動をし、俺の視界から消えたアシュラは当然のように次の瞬間には俺に攻撃を仕掛けていた。勿論、俺もそれを黙ってくらうようなまねはしない。金属音はアシュラの爪と竜神剣がぶつかり合った音だ。
「ふん、さすがにこの程度の攻撃には動じぬか。」
アシュラにとってもこの結果は織り込み済み。いや、この程度の結果が出せないようなら話にならないってことだろう。
「当然だ・・・ろ!」
俺は力任せにアシュラを大きく吹き飛ばす。・・・もっとも俺の力を利用してアシュラがいったん距離をおいたという形だろうか。
俺とアシュラの戦法はよく似ている。ならば、優位となる自分の距離も同じと思われがちだが実は違う。同じ近距離に見られがちだが、俺は剣。剣は密着されては使えない。
アシュラは拳、拳は技術さえあれば密着状態でも十分威力を発揮するのだ。・・・そしてアシュラにその技術があるかどうかなど考えるまでもない。ゆえに俺はアシュラを必要以上に近づけてはいけないのだ。
緩やかな動きをずっとしていたのは俺。それは動きに緩急をつけるため! 一気に速度を上げて真正面から斬り付ける! が、アシュラが一瞬早く俺の腕を掴み・・・これは背負い投げ!? いや、って投げの途中で手を入れ替えて頭から地面に叩きつけるってありか!? 俺はとっさに風の力で空気のクッションを作って衝撃を和らげる。
「やるな!」
「そういうお前こそ!」
お互いにニヤリと笑い合う。だが、どちらもわかっている。お互いにまだ本気などではないと言うことを・・・。
一瞬一瞬の攻防。その度に体が熱くなるのがわかる。そうだ、オレはこの戦いをずっと待ち望んでいた。魔界の深層部なら今のオレが使っている力と渡り合える奴などそれこそ腐るほどいるだろう。だが、奴との戦いはそんな次元ではないことをオレの本能が感じ取っている。理由はこの際必要ない。この戦いが心から楽しい。その事実さえあればそれでいいのだ。
オレの投げを風の力でほぼ無効化したリュウトはそのまま風の力で大きく後方に飛び・・・
「竜神流! 竜爪閃!」
奴お得意の風の刃を撃ってくる。竜神流の掛け声はさらなる言霊の力を受け、以前の技とは比べ物にならない威力になっていた。・・・ふん、リュウトはオレと同じタイプだと思っていたが、どうやら万能タイプに進化したらしい。
威力を向上した三本の風の刃をまともに受けてはオレといえどもダメージは否めない。奴を投げたときの勢いを使って斜め前方に飛び込むように刃を避ける。だが!
「かかったな!」
そこにはオレの行動を読んでいたリュウトが先回りをしていた。しまった! そう思う前に体はすでに防御に動いている。体制は悪かったがリュウトの剣を辛うじて爪でいなす。衝撃で少々体にダメージはあるが、この程度なら問題はない。
「やるようになったではないか! リュウト!!」
「そういうお前こそ、相変わらずのセンスだよ。」
目の前で繰り広げられている超高速の攻防。音速を遥かに超えた彼らが動く度に発生するソニックブームが周囲を切り刻んでいく。・・・はっきり言えば、低級の魔物だったらこのソニックブームだけで勝負はつくと思うの。
私は強くなった気だった。この百年の間、リュウトの役に立つ為に特訓を繰り返してきたの。でも、もし・・・彼らの戦いに私が参入したとして何が出来たかな? あんなに高速で動く敵に私の技は当たるだろうか? あんな攻撃を私は避けることができるだろうか? 答えはどう考えても無理としか言えないわ。
思えば、以前からそうだった。私は・・・リュウトが前線で支えてくれなければ何にも出来ないの? リュウトは私がいなくてもあんなに強いって言うのに・・・。
それに私にもわかる。リュウトもアシュラもあんなに凄いのに、まだ全然本気なんかじゃない。これはあくまで小手調べ。お互いの成長を確かめるだけの・・・本気の戦いに移行する前のほんの準備運動。
戦いはまずは小手調べから。とはいってもかなり高レベルな小手調べです。
リュウト「う~ん、本人たちはそんなに高レベルなつもりはないんだけどな。」
まぁ、これから魔王と戦おうって言うのだからこれぐらいじゃないといけないんだろうけどな。・・・特に前衛は。
アシュラ「そのとおりだ。この程度で参るようでは奴らとは戦えん。・・・前衛が駄目では後衛は生きんのだ。」
ふむ、アシュラがチームワークを口にするとは・・・。
アシュラ「な!? ま、魔王と戦うなら当然だ。奴らにはオレとて単独では勝てん!」
・・・後衛、特に羽のある女の子を守る為と言う意図は?
アシュラ「知らん!」