5話 「継承したものは」
ヒュゥォォォオオ・・・吹き荒れる冷たい風に身をさらしながら考える。
あいつは自分が封印しか出来なかったからと言った・・・つまりはあいつが・・・
「何が光の竜は滅んだだ!しっかり生きていたじゃないか!!」
冷たい風雪も俺の誰に向けたものかもわからない怒りを覚ましてはくれなかった。
伝説の戦いからどれだけの年月が過ぎ去ったのだろう? 途方もない時間をあいつは・・・竜神はこの暗い洞窟の中でただひたすら自身の力を継承するものを待ち続けたのだろうか?その結果やって来たのは俺と言うわけか。
本当に俺でよかったのか? つい漏れかけた言葉を俺は慌てて飲み込む。
力を求めたのは俺、譲ることを決めたのはあいつだ。ここで俺が疑ってしまうことは・・・最大の冒涜以外の何者でもない。
「ありがとう、かって世界を救った英雄よ。あなたの名前は・・・竜神の名前は俺が引き継ぎます」
守らなければならないものがもう一つ増えたな。いいさ・・・いくらでも何でも守ってやる!
どどどどどどどどどどどどどど・・・雪山でいきなり聞こえてきたこんな音。俺の予想が正しいならば、それは死神の声以外の何者でもないだが
恐る恐る振り向いた俺の視界に映ったのは白一色。俺は声をあげる暇さえもなく雪崩に飲み込まれた。
「オレ、ヒカリノリュウ、コウケイシャ、タオシタ。オレ、リュウジンサマニ、ゴホウビ、モラエル」
通常、雪崩に飲み込まれ雪中に埋まったならば自力脱出は不可能である。ところが、この場合埋まったものが本人は自覚していないとはいえすでに人間の範疇からは逸脱しているものであった。
つまり・・・30分ほどで雪の中から自力で這い上がってきて
「ふぅ・・・巻き込まれたときはどうなるかと思ったが聞いていたよりは大したことはなかったな」
俺はまずは自分の体の状態を確認する。結果、肋骨が1、2本折れていることがわかったが内臓に傷をつけているわけでなし、とりあえず町までは問題ないだろう・・・そうこのときは思った。
そうして下山を始めて少々経ったころ、突然がけの上から飛び降りてきたもの・・・それは
「オマエ、ナゼイキテル?・・・オレ、ゴホウビ、モラエナイ」
3M近い巨体と白い毛に覆われた猿・・・たしかイエティとかって言う魔物か。
さきほどこいつが言ったことを考えると、どうやら俺はすでに邪竜神にマークされているらしい。
で、こいつが最初の刺客というわけか・・・察するところさっきの雪崩もこいつの仕業だな。
「そう簡単にやられてやる気はない!」
啖呵を切りつつ剣を構え・・・そういえば剣は折れていたな。
ならばせめてナイフを・・・ひしゃげているな。
元々戦闘用ではなく、食材やロープなど切る為のものだからな。竜の石像に刺さっただけでも奇跡だったか。ならば他に武器になりそうなものは・・・探すまでもなくそんなものは持っていないな。
俺とイエティの体格を見比べる・・・どう見ても肉弾戦で勝てるとは思いにくい。さてどうするべきかな