表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/37

第五話 新たな出会い


 立花先輩はPCの電源を切ると、俺に向かって言った。


「じゃあ、イツキくん。今日の部はこれでおしまい。お疲れ様ね」

「お疲れ、先輩」

 俺も椅子から立ち上がると、帰り仕度をし始める。

「じゃ、明日までに宿題を出しておくわ」

「しゅっ……宿題!?」

 俺はぎょっとして振り返る。

「そう身構えないでよ。簡単なことよ。近くの書店で、『プログラミング言語C』って本を買っておいて。著者はブライアン・カーニハンとデニス・リッチーよ」

「プログラミング言語C、ですか?」

「そ。この本は、別名を著者二人の頭文字を合わせたK&Rって言って、私たちC使いにとってバイブルだからね。著者の一人のリッチー様こそ、このC言語の作者なのよ」

「へぇ。このリッチーとかいうおっさんがねぇ」

「こら、誰がおっさんよ。リッチー様と言いなさい」

「は、はぁ……」

 先輩がマジで怒っているので、俺は慌てて訂正する。どうも先輩はこのおっさんの信者みたいだ。

「じゃ、大きな本屋さんには売ってると思うから、よろしくね」

「はいはい。わかりましたよ」

 俺はそう言うと、出口へと歩いて行った。




 そんな訳で俺は帰りに書店へと寄ってきたのだ。

 駅前のこの店は、うちの地元でも最も大きな書店だ。

 俺はその店の中の、コンピューター関連の棚へと歩いて行った。

「本屋なんて漫画以外じゃ使ったことないなー」

 ぶつぶつ言いながらも、ようやく棚を見つけて、本を探し始める。


「プログラミング言語C、だったな。どれどれ――」

 しばらく見渡していると、結構な数のプログラミング言語があることに気づく。

「PHPやJavaが多いな……」

 そう呟きつつ、ようやく本を見つける。

「あ、これか」

 俺は手を伸ばした。

 すると、隣の人も手を伸ばしていたようで、お互いに手をぶつけてしまった。

「きゃっ」

「あ、ごめん」

 俺は隣の人の顔を見る。女の子だった。制服を見ると、同じ学校のようだ。

 髪の長くて今時珍しく清楚な雰囲気の少女。俺はどきりとした。

(か、可愛い――)

「い、いえっ。こちらこそ、すみませんでした」

「えっと。君、うちの学校だよね? 俺、1-Aの京塚イツキ」

「あ、あの……私、1-Cの西原ミオって言います」

「西原さんか。さっきはごめんね」

 そう言いながら、俺は本を手に取る。

「あ、あの……京塚くんも…」

「イツキでいいよ」

「あ、はい。イツキくんも、プログラミングに興味あるんですか?」

「うん。俺、ゲーム作ってるから」

 一応、これから。

「凄い……。尊敬します」

「西原さんもゲーム作ってるんだ?」

「ええ。一人で。でも、わからない所だらけですよね。どの言語を使えばいいのかとか」

「そうだねえ、ならCがいいよ。基本中の基本だからね」

 ああ、先輩の受け売りだ。

「そ、そうですか? 私、いまC#(Cシャープ)使ってますけど」

「へえ。ま、そっちでもいいとは思うけどね」

 よく知らないけど。C#? Cとは違うのか? C♭なんてのは流石に無いよな?

「え、イツキくん、C#も出来るんだ。凄いーっ…」

 憧れの視線を受けて、俺はつい勢いに任せてしまった。

「ははは。ま、これくらいの言語はどれも軽く使えるけどね。そうだ、西原さんも、うちの部に来てみるといいよ。電算部」

「電算部?」

「そこのPCで俺、ゲーム作ってるんだ。もう一人、立花アカネって二年の先輩がいるけど、部員が少なくてさぁ。ちょっと見学くらいはしてこないか?」

「そうですね……一度、おじゃまさせて頂きますね。ところで、イツキくんは、どんなゲーム作ってるんですか?」

「え、えーっと……すっ、3DでオンラインでMMOなRPGさ。ま、俺くらいになると、これくらい簡単すぎてね。立花先輩に、逆に教えているくらいだよ」

 すらすらと口から出鱈目が出る事に、俺自身驚いている。

「す、凄すぎるーーっ」

「まったく、あいつも物覚えが悪くて教えるのに苦労するよ。はっはっはっはっ」

 俺は豪快に笑った。もう、どうにでもなれ!

「そうなんだー。じゃ、私もイツキくんにプログラミング教えてもらおうっかなー」

 俺はぎくりとした。早くも嘘がバレるぞ、おい。

「えっ。えっー、と……それは、また今度で、いいかな…。立花先輩も、基礎くらいは出来る娘だから、彼女に教えて貰うといいよ」

「私、これでも基礎くらいはマスターしてますので、イツキくんに……」

「いやっ。あ、あの……あ、ちょっと用事があるんで、これで失礼するよ」

「あ……はい。今度、楽しみにお伺いしますね」

 俺は本を手に取ると、レジへ逃げるように走って行った。



 あぁ。可愛い女の子の前では、つい見栄を張るこの性格、なんとかしないと――。

 そう思いつつ、俺は新たな女の子との出会いに、胸をときめかせていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ