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第十五話 岸井先輩登場



 翌日。

 俺はCの学習のために、早めに部室へと入っていった。

 扉を開けると、そこには二人の少女が待っていた。


 一人は言うまでもなく立花先輩。自分のPCの前に座ってキーボードで打ち込んでいる。

 もう一人は――ツインテールの髪の大人びた表情の少女だった。こちらは立花先輩の横に立って、机の上に自前のノートパソコンを開いている。

 あれは――Macだ。


「あっ。イツキくん、こんー」

 手をひらひらと振るので、俺はようやく相手が誰であるかを悟った。

「お久しぶりです。岸井先輩」

 軽く頭を下げる。

「あーっ、それって嫌味? どうせ私は部にはあまり来てませんよー」

「い、いえっ……決してそういう意味では」

 岸井ユカ先輩は、ころころと笑った。どうやら、からかわれたようだ。

 この先輩……どうも苦手なんだよなぁ。


 岸井先輩は、立花先輩と同じクラスで、仲がいいのか悪いのか、いつもつるんでいるのだ。

 一応、電算部部員ではあるけど、幽霊が頭につく。あまり部には姿を見せることはない。

 あと、特筆すべきことは、彼女は大のMac好きで、WindowsなんてダサダサOS見たら目が腐るー、なんて言ったりする人だ。

 一説には、それが原因でWindowsが並ぶ部室には来ないらしい。


「イツキくん、今日は早いねー」

 立花先輩は、キーボードをカタカタと打ちながら答えた。

「ええ。Cの勉強を早めにしようと思って」

「へぇ。あんた達、そういうのやってんだー」岸井先輩が驚いた様子を見せた。

「まあねー。イツキくんに、一週間でゲーム作らせようと思ってさ」

「うわっ。酷い事やらせてんのねー。ナマのCで? ゲームエンジンとか使わせずに?」

「そういうのより、基礎をまず固めさせようと思ってねぇ」

「それでも、今時、Cは無いでしょうに。今は21世紀よ? 70年代じゃないの。たかが文字列使うのにcharの配列弄くらせるようなセコい言語なんてほったらかして、もっとスタイリッシュな言語使いなさいよ」

「ゲームエンジン?」と俺。

 はて、なんぞや?

「あっ、イツキくん知らないんだ」と岸井先輩。「今日び、どこのゲーム会社もゲームエンジンを使ってゲーム作ってるのよ。自社製なのか他の会社から買うかはともかく」

「へぇ。そうだったんですか」

「アカネ、あんたみたいな低水準言語オタクの趣味に下級生を巻き込まないでよねぇ。フリーのエンジンでも、UnityとかUDKとかあるでしょーが」

「ユカ、あんたみたいなゲームエンジンオタクになったら、イツキくん、それしか使えなくなるでしょ。何事も基礎が一番大事なの!」

「わかってないわねー。時間の大切さを。忙しい現代人には、悠長に車輪の再開発してる暇なんて無いの。ま、今時Ubuntuなんて糞OSにハマっているあんただもんねー」

「煩いわね、アップルの拝金主義者の手先が」

 へぇ、先輩のOS、そういう名前なんだ。

 勿論、俺は知らない。

「Linuxなんてタダが売り物のフリーウェア共産主義貧乏OSにハマってる奴の言いそうなセリフね。リポジトリ乞食ばかり群がってて見てらんない。いいこと? アップルに金が集まるのは、それが圧倒的に正しいからよ」

「なにそれ?」

「資本主義じゃ意義ある価値を創造できた集団に金が集まっていくのよ。今は時代がアップルを抱えているわけ」

「くだらなー。ただのバブルバブル。Macなんて弄くり甲斐のないパソコン、つまんないしー」

 うーむ。先輩達はいつしかOS戦争を始めたようだ。

 ま、Windowsしか使えない俺には、どうでもいいか。

「才能のある者は、Macを理解する! まあ、あんたみたいな土臭いUbuntuオタクには、Macの洗練された価値観も機能美もわからないでしょうけどねぇ」

「えぇい、痛いMac信者め。さっさと帰った帰った」

 しっしっ、と立花先輩は手を振る。

「そうねぇ。じゃ、今日はお先にー」

 岸井先輩はMacノートを片づけると、俺にウィンクした。

「あんまりアカネの言う事、真に受けない方がいいわよ? こいつ、相当な変態プログラマーだからさ」

「ユカ!」

 立花先輩が怒ると、岸井先輩はくすりと笑って部室を出ていく。

「じゃ、イツキくんもまた」

「あっ、はい、先輩」

「そのうちさ、キミにもObjective-CでiPhoneアプリを作る方法、教えてあげるわね」


 そう言い残すと、岸井先輩は部室から出て行った。


「まったくもぅー。ユカもイツキくんを惑わさないでよねぇ……」

 ぶつくさ言いながら、立花先輩はPCを閉じて行った。

「先輩、仲が良さそうだったけど」

「どこがー! あいつとは、幼稚園時代からの腐れ縁よ。たまったもんじゃないわ」

 そう言っているうちに、再び扉が開いて、今度は西原さんが姿を見せた。

「こんにちはー。あれ? イツキくん早いんですね」

「あ、西原さんも来たわね。じゃ、再びCの勉強を始めるわよー」



 ともあれ、こうして三日目の授業が始まったのだ。

この話を書いた頃、MacOS X Lionが発売された記念に、林檎娘を出したんだっけ(ほんとはもうちょっと先で出す予定だった)。


そういえば、appleの四半期分の収益がアメリカ政府保有資金を上回ったというニュースもあった。どこまで林檎は儲けるつもりだw

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