何も変われないまま、俺は死んだ
死んだ。
……たぶん。
いや、正確に言えば——
「やっと終わった」
そう思った。
最後に覚えているのは、
コンビニ帰りの信号だった。
夜。
少し雨。
コンビニ袋の中には、
安い弁当と、9%の缶。
いつもの帰り道。
いつもの疲れ。
ただ今日は、
少しだけ胸が苦しかった。
息が浅い。
でも。
不思議と焦りはなかった。
むしろ——
少し安心していた。
疲れていた。
仕事にも。
人生にも。
未来にも。
頑張ろうと思っても続かない。
変わろうとしても戻る。
金の不安。
身体の不安。
このまま何者にもなれない焦り。
「いつか変わる」
そう思っていた。
でも結局——
何も変われなかった。
信号が青になる。
歩こうとした瞬間。
胸が、
ズキッと痛んだ。
「……っ?」
息が詰まる。
視界が揺れる。
足に力が入らない。
「え……な、何これ……」
しゃがみ込む。
呼吸が苦しい。
心臓が、
嫌な音を立てる。
頭の中を、
いろんな言葉がよぎった。
疲れか?
ストレスか?
太ったから?
病気?
いや、
まだ大丈夫。
そう思ってたのに。
9%の缶が、
コンビニ袋から転がった。
雨に打たれる。
遠くで、
誰かの声が聞こえた気がした。
でももう、
動けなかった。
ぼやける視界。
冷たい地面。
スマホの通知。
未読。
支払い。
仕事。
どうでもいい。
最後に浮かんだのは、
後悔だった。
もっと痩せればよかった。
もっと頑張ればよかった。
もっと——
変わりたかった。
でも。
もう遅い。
何も変われないまま、俺は死んだ。
⸻
気づくと、
白い場所にいた。
天国。
……にしては、安っぽい。
真っ白な空間の真ん中。
なぜかパイプ椅子が一個。
そして——
そこにいたのは、
ジャージ姿のジジイだった。
缶コーヒーを飲んでいる。
しかも、
めちゃくちゃくつろいでいる。
「……は?」
するとジジイは、
こっちを見て言った。
「死んだぞ、お前」
「え?」
「人生終了。お疲れさん」
軽っ。
いや待て。
もっとこう……
神っぽいの想像するだろ普通。
後光とか。
羽とか。
威厳とか。
俺が固まっていると、
ジジイは鼻で笑った。
「何期待してんだ」
「お前、そんな大層な人生じゃねぇだろ」
「……っ」
地味に傷つく。
俺は少し黙った。
でも——
少しだけ安心してしまった。
もう頑張らなくていい。
仕事も。
金も。
将来も。
全部終わり。
そう思った時だった。
ジジイが、
深いため息をついた。
「ただなぁ」
「お前みたいなの見ると、毎回思うんだよ」
「……?」
空気が変わる。
初めて、
ジジイの目が、
まったく笑っていない事に気づいた。
そして。
ジジイは言った。
「漫然と生きて」
「後悔だけ抱えて終わる奴、多すぎ」
ムカついた。
死んだあとに説教とか、
最悪だ。
俺が顔をしかめると、
ジジイは立ち上がった。
そして——
真っ直ぐこっちを見て言った。
「——もう一回、生きるか?」
空気が凍る。
「ただし」
ジジイは続けた。
「次の人生は、地獄よりキツい」
「それでも行くか?」
その時の俺は、
まだ知らなかった。
この世界では——
勇者たちが、折れすぎていた事を。




