年上の婚約者が可愛すぎる!!
大きなシャンデリアに照らされたホールには、煌びやかに着飾った紳士淑女がいる。
ご令嬢は素敵な殿方を見て頬を染め、ご令息はダンスの相手を密やかに探す。
建国祭に開催されたこの舞踏会で、今まさに、断罪劇が繰り広げられようとしていた。
「エレン・ポーラン侯爵令嬢!貴方の行いに、もう我慢できない!今ここで第一王子マティアス・ヨークとの婚約を破棄する!」
賑やかな雰囲気を切り裂いたのは、そんな声だった。
ホール中によく響く声が、参加者たちの視線を釘付けにした。
静まり返ったホールでは、参加者たちは息を呑んで、次の展開を待っていた。
そんな周囲の視線も思惑も綺麗に無視した私は、その顔に優雅な笑みを浮かべていた。
「あらまぁ、マティアス様。一体どうなさったの?何のことかしら?」
「惚けるな!いいだろう。貴方の罪を教えてやろう!四月十二日、下級生に対して暴力を振るったな!」
「それが何か?だって、マティアス様に蛇をけしかけようとしたんですもの。当然では?」
マティアス様は蛇が大の苦手。
それに第一王子に対しての無礼な行動は、許せません。
これが蛇でなくナイフなら、今頃ケガをしたかもしれないわ。
イタズラでは済まされない行為よ。
当然、家ごと潰しましたが何か?
「……っ!それからっ!五月三日、お茶会でご令嬢にお茶を浴びせかけたな!」
「えぇ。お茶会に下剤を持ち込んでおりましたので、お茶ごと返して差し上げましたわ。」
私の開催したお茶会に、下剤とはいえ毒物を持ち込むなど許しません。
私以外に、高位貴族がたくさん参加していたのです。
主催者として、参加者を守るのは当然のことよ。
当人は、二度と社交会には出て来れなくしたわ。
「……五月二十三日、下級生の教科書を破いたそうだな!これはどうだ!?」
「ありましたわね。某国への密書を暗号化して記してあったので、破いた後は跡形もなく燃やしましたわ。」
どうやら某国と下級生の家が不正に取引していたようで、学園なら連絡が取りやすいと思ったようね。
勉強のメモに見せかけた暗号だったわ。
もちろん、国にも報告したわ。
国家反逆罪として、一族郎党処刑が決まったのよ。
「あと、あとは……そう!六月七日、学園で使用許可のない攻撃魔法を使っただろう!」
「ご存じでしたの?私もまだまだ修行が足りませんわね。えぇ、マティアス様を襲おうとした暗殺者がいたので、お掃除させていただきましたわ。」
騒ぎにならないように、学園に感知されないよう魔法を使ったのですが、バレてしまいましたね。
あの時は六人もいたから、マティアス様の方に行かないよう片付けるのは、少し大変でした。
だって、マティアス様がもう少しであそこの通路を通るところだったんですから。
「…………んで……」
あら?
マティアス様のお元気がなくなりましたわ?
どうしたのかしら?
「……なんで!なんで!なんで!なんで、頼ってくれないんだよぉーーー!!!」
叫んだマティアス様の目には涙が浮かび、唇を噛み締めていた。
もうすぐ十九歳になる青年とは思えない可愛らしさである。
思わず慈愛の笑みを浮かべても仕方がないだろう。
「いつもいつも、なんで僕に相談しないんだ!?夫婦になるんだったら、相談するのが当たり前だろ!?エリーは美人で、賢くて、強くて、かっこいい!それに比べて僕は弱くて賢くもないし……でも!僕だってエリーを守りたいんだ!!」
………………あぁ、もう!
なんって、可愛らしいのぉぉぉぉーーーーー!!!!
何あれ、何あれ!!
頬を真っ赤にして、膨れっ面で!
プリプリしているのに、私の反応を気にしてチラチラこっちを見るなんて!
本っ当に、可愛すぎるわ!!!
「あら、まぁ。でも、婚約破棄、なさるのでしょう?」
可愛い子には、ついつい意地悪したくなるわ。
「そうだよ!?婚約破棄して、今すぐ結婚してよ!!」
何かに耐えきれなくなったマティアス様は、私を抱きしめて……いや、縋りついてきた。
耳元では、グスンと鼻を鳴らす音まで聞こえる。
流石に、肩に頭をグリグリしてくるのは可愛いが、少し痛い。
「あらあら。」
もう、どうしてくれようかしら、この可愛い子は!!
(((結局、惚気かよ………………)))
約二名以外の参加者の心の声とため息が、一致した瞬間だった。
「皆さま、ちょっとした痴話喧嘩で、お騒がせして申し訳ございませんわ。引き続き、舞踏会をお楽しみくださいませ。」
マティアス様が背後霊化しているが、騒がせた謝罪はしておいた。
背後霊のせいで、あまり格好はつかなかったが。
さて、こんなことをするようマティアス様を唆した方は、一体どなたかしら?
私のマティアス様を泣かせたんですもの。
覚悟なさってね?
もう二度とできないようにして差し上げわ。




