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努力する天才剣士の成長録――氷剣で己が道を切り拓く  作者: 文ノ陽


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9/10

夢の中で。

足の裏が、ふわり、と沈む。

雪の上を歩いているのに不思議と冷たくない。踏むたび、音がしそうで、でも音はしない。代わりに、光が薄く弾けて、足跡の形だけが一瞬浮かんで消える。


息を吸う。

空気がすごく綺麗だ。水みたいに澄んでいる。


冬の夜空の中にいるみたいだ。


「こっち、こっち」


僕を呼ぶ声がする。

ふり向くより先に、背中をツンツンと押される感覚がある。誰かの指先。触れた場所だけ冷んやり冷たい。


振り向くと、精霊さんたちがいる。

たくさん。どこから現れたのかわからないのに、最初からそこにいたみたいに笑っている。髪の色も、輪郭さえも少しずつ違っていて、でも全員が同じ青白い光をまとっている。


初めて会ったはずなのに、なんだか懐かしいようなそんな感じがした。


「追いかけっこしよう!」


誰かが言った。次の瞬間にはもう走り出している。


僕の足も前へ出る。身体が軽い。

地面を蹴る感覚が、いつもよりずっと軽い。


風が頬を撫でる。


精霊さんたちは、笑いながら逃げる。

僕が追いかける側だ。

速い。速いのに、遠ざからない。僕が手を伸ばせば届きそうな距離を保って、わざと捕まらないように、わざと楽しませるように――くるり、と跳ねる。


「ほら、もうちょっと!」


「がんばれ、ヴァイス!」


僕も楽しくて笑っている。


走って、走って、いくら走っても苦しくない。

いつまでも走っていられそうだ。


……けれど。


ふっと、風が止まる。


精霊さんたちの笑い声が少し遠のく。消えるわけじゃない。ただ、音が薄い膜を一枚隔てて聞こえるようになった。


僕は足を止める。

止めた瞬間、周りも止まる。


「……あ」


粉雪みたいにふわふわ跳ねていた子が、小さく息を飲む。


そして、ほとんど同時に――あちこちから、残念そうな声がこぼれる。


「もう終わり?」


「えー……まだ遊びたいのに」


「はやいよ……」


その言葉は、鈴の音のように響いた。

彼らは、もうわかっている。終わりの時間が来たことを。


小さな氷の精霊さんたちは、僕の周りに寄ってくる――でも、途中で止まる。

名残惜しそうに僕を見る目が、きらきら揺れている。


そのとき、前方の景色が歪む。


氷の精霊さんたちが、自然に左右へ退く。

残念そうに唇を尖らせながらも、道を作る。


「……来ちゃったね」


誰かが、ぼそっと言う。

その声に、周りの精霊さんたちが同じ気持ちで頷く。


そして、現れる。


大きな氷の精霊さん。

その人が一歩踏み出すたび、足元に薄い氷の輪が広がって、音もなく溶けて消える。


「ダメでしょ勝手に連れてきちゃ。」


そう言って小さな精霊さんたちに注意する。


とっても綺麗な精霊さんだ。


最初に目を奪われたのは、髪だ。

月明かりを束ねたような白銀が、肩から腰へ静かに流れている。一本一本が細い氷の糸みたいに透けていて、揺れるたび、かすかな光の筋が生まれる。


顔立ちは、息をのむほど整っている。

肌は雪そのもののように白い。輪郭は柔らかいのに、凛としていている。


すごく優しい目をしている。

淡い水色の瞳だ。見つめられると心の奥まで見透かされている気がする。


目の前に現れた大きな氷の精霊さんは、僕を見るなり、ほんの少しだけ目を細めた。

驚いているような、そんな顔だった。


「まだ小さいのに、こんなに大きな魔力があるのね。」


そういうとコツコツと僕の一歩前まで歩いてきた。

精霊さんは、少しだけ真剣な顔をした。


「黙って連れてきちゃう気持ちがわかったわ。」


そう言って、精霊さんはそっと僕の胸に手を当てた。


ひやり、とする。

でも、ふしぎと落ち着くような感じがした。


指先が触れた場所から、じんわりと何かが広がっていく。

胸の内側に何かが流れる。音はしないけど確かに“通った”とわかる。


流れてくる精霊さんの魔力と僕の中の魔力が混ざり合う。

胸の奥に眠っていたものが、きゅっと形を整える。散らばっていた氷片が、ひとつの結晶になるみたいに。


「……これでよし。」


そう言うと、精霊さんは胸から手を離した。

離れたはずなのに、ひんやりとした優しさが、まだ胸の真ん中に残っている。


「会えて嬉しいわ。」


次の瞬間、柔らかい指が僕の頭を撫でた。

氷の指なのに、髪が凍ることはない。むしろ、心が落ち着く。


「それじゃ、送るわね。」


精霊さんは静かに立ち上がった。


そして、空中に指先を伸ばす。

何もないはずの場所に、氷の魔力の線が生まれた。


細い線が、すうっと伸びる。

伸びた先で折れて、また伸びて、曲がって、輪になって――

空気の中に、透明な彫刻を作るみたいに、美しい幾何学が浮かび上がる。


線は光り、淡い青を帯びていく。

氷の結晶のように規則正しいのに。


精霊さんは、描きながら僕の名を呼ぶ。


「ヴァイス。……あなたが正しく魔法を使う限り、私はあなたの力になる。」


その言葉が、僕の胸の中に触れた。

さっき流れ込んできたものが、そこで“約束”として固まる。


精霊さんが最後の線を結ぶと、魔法陣がふっと脈打つ。

次の瞬間――


ぱっと、周りが明るくなった。

僕の目の前をやわらかな光が満たしていく。


「またね...。ヴァイス。」

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