三歳の誕生日①
僕は、外を見るのが好きだ。
お日様が出ている日は、なんだかポカポカして安心する。
雲が流れていくのも好きだ。
ゆっくりだったり、速かったり、形が変わったりする。
雲は自由だなって、いつも思うんだ。
雨も、嫌いじゃない。
屋根を叩く音は少しうるさいけど、なんだかじっくり聞いてしまって、いつも眠くなる。
でも、雷は嫌いだ。
急に光って、大きな音がして、胸の奥がびくっとする。
大きい音は、本当に苦手だ。
いつだって、静かなほうがいい。
雪が一番好きだ。
白くて、ふわふわしていて、光が当たるとキラキラする。
それが、とても好きだ。
今日は曇りで、少し雪。
でも、なんだか落ち着かない。
椅子に座っていると足がぶらぶらして、胸の中がくすぐったいみたいだ。
寒くなり始めた頃、お父さんとお母さんは、
「冬は寒いから、あまり好きじゃない」
って言ってたけど僕はそうは思わない。
だって、冬になるとイギルさんが遊びに来る。
イギルさんは商人さんで、この町で一番大きい店を持っている人だ。
僕の服は、どれもイギルさんのお店で買っている。
毎年冬になると、たくさんお土産を持ってきてくれてお父さんも
「今年も任せたぞー」
って、笑っている。
イギルさんは、雪がひどくなったときにみんなを助けられるように、たくさん準備してくれているんだって、お父さんが言ってた。
イギルさんはすごい人なんだって。
いつも忙しそうな人だなって思ってる。
今日はローズが朝から忙しそうだ。
廊下を行ったり来たりして、布を運んだり、指示を出したりしてた。
僕の誕生日、そんなに盛大にしなくてもいいのに。
でもお父さんは言った。
「領主の長男の三歳の誕生日はな、ちゃんとやらないといけないんだ」
よく分からないけど、大事なことらしい。
でも今年は、雪がひどくなるみたいだから、
外には出ないで、家にいるみんなで誕生会をするんだって。
それはちょっと残念で、でも少し安心だった。大人数は苦手だ。
あちこちで、人が歩く音や、お皿を置く音がする。
些細な音だけど、なんだか落ち着かない。
お母さんは、奥の部屋で休んでいる。
お腹に赤ちゃんがいるからだ。
最近はお腹が大きくなってきて大変みたい。
僕はお父さんと一緒に寝ている。
僕の弟か妹は、春頃に生まれるらしい。
弟がいいな、と思う。
理由はないけど、そう思った。
暖炉の薪が、パチリと鳴った。
部屋は暖かい。
窓も閉まっていて、風の音もしない。
なのに――
なぜか、
胸の奥が、ひんやりしている。
寒いわけじゃない。
怖いわけでもない。
変な感じ。
僕は、寒いのも冷たいのも平気だから、嫌じゃない。
ただ、不思議だった。
外を見ると、ポツポツと雪が降り始めていた。
小さくて、軽くて、まだ積もるほどじゃない雪。
それを見た瞬間、理由もなく窓際に移動した。
どうしてだろう。
でも、雪を見ていると、なんだか落ち着く。
「……」
そのとき、廊下の向こうから声がした。
「――おぼっちゃまー」
ローズの声だ。
はっとして、僕は振り返る。
そうだ。
誕生会が始まる。
みんなが待っている。
もう一度だけ、窓を見た。
雪が差し込んだ光を反射して、キラキラと輝いている。
なんだか、雪が応援してくれているみたいだ。
――大丈夫。
そう思った。
僕は、扉へ向かって歩き出す。
ーーーーーーー
扉を開けると
「お誕生日おめでとうございます!」
一斉に声が上がって、びっくりして肩が少し跳ねた。
広い部屋だ。
家族と、近しい人たちが一緒にごはんを食べられるくらいの大きさで、十人くらいが集まっている。
机の上には、いろんな色の料理が並んでいた。
赤いもの、黄色いもの、茶色いもの。
どれもおいしそうで、目が忙しい。
その中でも、すぐに分かった。
大きなお皿の真ん中に、どーんと置かれたローストビーフ。
つやつやしていて、いいにおいがする。
僕の一番好きなやつだ。
机の真ん中には、二段になったケーキがあった。
白くて、きらきらしていて、なんだか宝石みたいだ。
部屋に入ってすぐのところで、お母さんが座っていた。
「こっちへおいで」
そう言って、手招きしている。
お母さんの横にはローズがいて、その奥にお父さんがいた。
僕が母さんの横に座ると、ローズは静かに立ち上がって、扉の近くの席に移った。
みんなが席につくと、お父さんが立ち上がる。
「ヴァイス、三歳の誕生日おめでとう。」
お父さんは、僕を見て笑った。
「ヴァイスはな、喋るのも歩くのも早かったし、あまり泣かない強い子だった。パパもママも、いつも助けられているよ」
みんなもうんうんと頷いている。
なんだか少し、くすぐったい。
「今日は大好きなローストビーフをたくさん用意した。お腹いっぱい食べなさい」
それから、少し声を大きくして言った。
「それでは――乾杯!」
グラスが鳴って、誕生会が始まった。
みんなで料理を食べた。
ローストビーフは、やっぱりおいしかった。
ケーキも甘くて、口の中が幸せだった。
気がつくと、窓の外が明るくなっていた。
さっきまでポツポツ降っていた雪は止んでいて、夕焼けの光が、部屋の中に差し込んでいる。
赤くて、やさしい光だ。
冬になると空が赤くなったらすぐ夜になるんだよね。
お腹がいっぱいになって、少しぼーっとしていると、お父さんが声をかけた。
「そういえばヴァイス、おじいちゃんから誕生日プレゼントが届いているよ」
おじいちゃん。
「おじいちゃんも誕生会に来たかったみたいだけど、今年は雪がひどいくなりそうだからね。今度、会いに行こうか。」
そう言って、お父さんは細長い箱を一つ、僕に渡した。
わくわくして、すぐに箱を開ける。
中には、きれいな石のペンダントと、一通の手紙が入っていた。
石は冷たくて、透明で、
まるで氷みたいだった。
お父さんに手紙を読んでもらう。
「――ヴァイスへ。お誕生日おめでとう。おじいちゃん、誕生会に行けなくてごめんね」
僕は、じっと聞く。
「ヴァイスは雪が好きだって、お母さんから聞いているよ。箱には、雪の魔法が入ったきれいな石を入れておいた」
雪の魔法。
胸の中が、少しひんやりした。
「ヴァイスが大きくなったら、その石で魔法の杖を作ってもらいなさい。きっとヴァイスのためになる」
氷のワッペンを胸につけてもらい。
読み終わった手紙を、受け取った。
「良かったな。魔法が使えるようになったら、これを杖にしよう。それまで大切にしておくんだぞ」
僕は、大きく頷いた。
外は、すっかり暗くなっていた。
窓の向こうで、ぽつりぽつりと雪の結晶が落ちていくのが見える。
静かな夜だった。




