きらきら 〜花火を見ていた石のはなし〜
冬の夜空に咲き、光り輝く花火。
それは、雪で真っ白に染まった平原を色鮮やかに照らしては、また夜の闇へと戻していきます。
光が消えたあとの平原には、しーんという音だけが残っているような気がしました。
遠くその光景を見つめながら、ぼくはいつか自分も輝きたいと、ずっと憧れていたのです。
ぼくは石っころ。
ただの、どこにでもある石っころだ。
道ばたに転がって、学校へ行く子どもたちに蹴られたり、投げられたりして。
ときには道路わきの側溝に落とされることもあった。
それを拾ったカラスが、「アホー」と鳴きながら、ぼくを知らない場所へ連れていったこともある。
そんなふうに、少しずつ、少しずつ動かされて――
気がつけば、ぼくはこの花火が見える場所にたどり着いていた。
長い旅のあいだに、体は削れて、ずいぶん小さくなってしまった。
もとの場所と比べると、どうやらここは、かなり寒い場所のようだ。
冬になると、霜が体を覆い、
春になると、雪解け水がひんやりと流れていった。
動けないぼくにできたのは、ただそこにいて、
時間が過ぎるのを待つことだけだった。
毎年、平原が雪で真っ白になるころになると、きれいな花火が打ち上がるんだ。
ヒュールルルルル……ドーン。
体にしびれるような音と振動。
花火の光は雪の上でいくつもに分かれてはね返り、
まるで地面まで空になったみたいだった。
赤や黄色、青や緑――
輝くたびに世界はきらめき、けれどその光は、すぐに消えてしまう。
そのたび、胸の奥が少しだけ、きゅっとなった。
いいなあ。
ぼくも、いつかあんなふうに輝きたいな。
ある年の花火の日。
いつものように、輝いては消えていく光を見つめていると、たくさんの妖精たちがやってきた。
「こんにちは。いつもここから、ぼくたちのことを見ていたね」
「空から、きみのことが見えていたよ」
それは、花火を輝かせるために集まってきた、光や火、いろんな色の妖精さんたちだった。
ぼくは言った。
「いいな。みんなは、あんなに輝いていて」
「ぼくも、いつかきみたちみたいに輝きたいんだ」
すると、妖精さんのひとりが、にこりと笑って言った。
「きみは、もう輝いているじゃないか」
えっ?
思わず聞き返した。
「ぼくが……輝いている?」
妖精さんは、やさしくうなずいた。
「気づいていなかったのかい?」
「花火の光が空に咲くたび、ぼくたちは、光を受けて輝くきみをずっと見ていたんだよ」
「ほら、きみの体。欠けているところが光っているだろう?」
言われて、はじめて気がついた。
長いあいだ、蹴られたり、投げられたり、雨や風にさらされたりして、
だんだん小さくなっていたぼくの中に――
キラキラと輝く、きれいな石が眠っていたんだ。
妖精さんたちは言った。
「きみは、自分をただの石っころだと思っているかもしれないね」
「でも、割れたり、削れたりするうちに、石だって輝き出すんだよ」
そっか。
ぼくは、きみたちへの憧れだけを見ていて、
自分のことを、ぜんぜん見ていなかったんだね。
「そうだよ」
「ぼくたちときみとでは、輝き方が違うだけなんだ」
「この世界に、輝けないものなんてないんだよ」
そうだね。
輝きは、ずっとぼくの中に眠っていたんだ。
「ありがとう、妖精さんたち。これから、ぼくはもっと輝くよ」
「うん」
「きみがぼくたちを見てくれていたように、ぼくたちも、ずっときみを見ているよ」
やがて、その年の花火も終わってしまいました。
人の声も足音も遠ざかって、
雪原には、風の音だけが残っています。
空は静かで、月がひとつ、やさしく平原を照らしました。
そして――
月明かりに照らされてキラキラと輝く雪の結晶たちの中に、
その石も、静かに輝いていたのでした。




