夕焼け空のトラ兄ちゃん
夕暮れの路地裏、空腹で震えていたボクの耳がビクンと揺れた。
「おい、そこのチビ。腹減ってんのか?」
縞模様が立派で、ボクよりも大きくて、堂々とした猫が足音もなく現れた。オレンジ色のトラ兄ちゃんだった。
「人間からもらったエサは食うなよ。裏切られるぞ」
低く唸るようなトラ兄ちゃんの言葉に、うん、と頷く。
「でも、この前、公園でおじいちゃんがパンくれたよ?」
「それが罠だ。あいつらは捨てられる側の気持ちなんか、考えてないんだ」
野良猫暦が浅いボクは、トラ兄ちゃんの言葉を忘れないように、注意深く町を歩くようになった。
なのに。トラ兄ちゃんは姿を消した。噂では、老夫婦に拾われて飼い猫になったという。
「トラ兄ちゃんが人間に……?」
信じられなかった。人間も信じられないけれど、トラ兄ちゃんも信じられなくなるなんて。
夕暮れの空を見上げても、光がボクを避けていくような気がして、1人でじっとうずくまった。
数週間後、夕日が沈む頃、トラ兄ちゃんがひょっこり現れた。
「よお、チビ! 元気か?」
新しい首輪がキラリと光るのを見て、胸がドキドキした。
ボクは、鼻の上に皺をいっぱい作りながら言った。
「人間は信じるなって言ったのに、トラ兄ちゃんの嘘つき!」
トラ兄ちゃんはニヤリと笑って、ボクの頭を軽く舐めた。
「俺は今でも信じてねぇよ。でも、俺のことを信じてくれる人間がいたんだ。家の中でいたずらしても怒らないし、いっぱいエサをくれるいいやつらだ。チビ、お前もいつか、そんな人間に出会えるさ」
隣に座ったトラ兄ちゃんの温もりが、ボクに伝わってくるぐらい近い。
「綺麗だな」
艶々の毛並みに、夕日が反射する。
「ここでまた会おうな、チビ」
まぶしくて目を細めながら、ボクは顔を上げる。
まっすぐ家に帰るトラ兄ちゃんの背中を見守りながら、ボクは心の中に夕日みたいな温かい光が溢れてくるのを感じていた。
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