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異世界少年少女は空をゆく −撃墜の城と空飛ぶ魔術−  作者: 谷 風汰
第5章 魔族の村編

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第41話 「塔へ」

「死者の塔の鍵だから」


 リンは言った。


「あれが? 鍵?」

「そう」


 何の変哲もない砂時計。

 いや、魔道具という変哲があった。

 さらに鍵という変哲も?


 というか、そうか。

 なるほど。


「ぼくたちが入れないように、黙ってたってこと?」

「そう」


 リンは言った。

 申し訳なさそうだった。


「やった!! じゃあ入れるじゃん!!」

「いや、今はそういう話じゃなくて⋯⋯」

「なんで?」


 死者の塔に入れるのは嬉しい。

 あそこに空の書がありそうだから。

 

 でも、今はそれよりも、色々とややこしいことがある。


「えっと、つまり、砂時計は『死者の塔の鍵』であり、『アンデッド抹殺装置』でもあるってこと?」

「まっさ⋯⋯まあ、そうなるわね」

「だけどリンは、鍵の役割しか知らなかったと?」

「そう。鍵のことは、人族がたくさん来たときにお父さんが使っていたのを見てたから」


 不思議な魔道具だ。

 二つの、それも全く異なる機能がついてるなんて。

 相当高度なものなんじゃないか?


「そもそも砂時計をどこで?」

「お父さんがずっと大切そうに持ってて、亡くなったあとで勝手に私が貰った。

 形見にしようと思って」

「だから肌見放さず持ってたんだ」

「うん」


 リンは恥ずかしそうに頷いた。


「それで、お父さん⋯⋯が、ぼくの前に現れて、砂時計のことを教えてくれた」

「ええ。伝えたかったんだと思う。お父さんは誰よりも村のことを考えていたから、最後に助けてくれたんだ」


 リンは言った。

 嬉しそうな顔をしていた。


 いくつかの疑問は解けた。

 そもそもこんなものをどうやって作ったのか、なぜここにあるのかなどは、きっと知らないのだろう。

 ずっと奥、歴史の奥に消えてしまった。


 リンのお父さんの願い、本当に成し遂げられたのだろうか?

 家族や村のことを思い、無念の死を遂げた。

 ぼくは託された。 


 重いものが、肩に乗った気がした。


「それよりさ! 死者の塔、行っていいの??」

「ええ、鍵のことも言っちゃったし、どうせあなたなら無理矢理にでも奪いにきそうだし」

「もちろん奪いにいくよ!!」

「それに、生前お父さんも言ってた。

 『この村には歴史がある』って。

 お父さんが人族を受け入れるのに好意的だったのは、もしかしたら、お父さん自身が何か疑問に思っていたからかもしれない」


「だったら、私も知りたい」


 リンはこちらを見た。

 ぼくもロイと目を合わせ、頷いた。


 小屋を出た。

 

 空を見上げると、あと少しで満ちそうな、月が出ていた。





 翌日の昼、ディーンさんのところへ行った。

 報告をしなければならない。


「⋯⋯というわけです」

「なるほど」


 ぼくが今までのことを話し終えると、ディーンさんは黙り込んだ。

 顎に手をやり考え込んでいる。

 何だか迫力があり、話しかけることができなかった。


「それ以外は?」

「⋯⋯いや、これだけです」

「そうか。よくやった」


 ディーンさんは笑った。


「やったね」

「よし」


 ぼくらは顔を見合わせる。

 ちょっとした達成感。


「あと、ぼくのことですが、どう思いますか?」

「ああ、リンの父との件だね」 


 再び考え込む。


「正直分からない。

 ただ、体内に強烈な魔素を溜め込むことで、何かしらの異常な体質になるものはいる」

「へえ」

「多くの者では気付かないほどの微細な魔力に敏感になったり、相手の感情の機微を深く察したり、だね。  

 それに近いのかもしれない」


 うーん、よくわからないけど、不思議体質ということか。


「とにかく、そうと決まれば行動だ。

 すぐにでも調査を始めよう」

「はい!!」


 ついに、死者の塔へと向かう。





 その日の夜。

 スアンさんの家に向かっていた。


「リン、怒ってたね」

「『急過ぎる!!』だって」


 ぼくらは笑った。

 

「仕方ないよね。行きたくなったんだし」

「仕方ない」

 

 村を飛び回っているリンに話したのだ。


「もう大丈夫だと思うけど、村も」

「リンも頑張ってたしな」


 見渡すと、村人たちが活動を始めていた。

 日常だ。

 ゆったりとした時間の流れが流れている。

 これが、魔族の村・レイモールだった。


「あれ、ディーンさん?」

「ほんとだ」


 ロイが指差す方向、物干し竿に逆さまでぶら下がっている彼がいた。

 ちょうど膝の裏を引っ掛けている。

 

 上半身を起こした。

 それから、一定の速さでまた体を下ろし、起こしを繰り返している。

 一切のブレがなく、精密な動きだった。 


「訓練だ!」


 ロイが走っていった。

 ぼくもついていく。


「おお、君たち」

「俺もやる!」


 ロイも竿にぶら下がった。

 

 ディーンさんは再び訓練を開始する。 

 ロイも中々で、彼ほど精密ではないが、元々の力で何とかついていっている。


「研究員なのに、なんで訓練をしているんですか?」


 地面に座り込んでぼくは聞く。


「私は世界を飛び回るからね。体力が必要なんだ。

 ときには魔物と戦うこともある」

「へえ、じゃあ魔術も?」

「ある程度はね」


 凄い。

 研究をするほど頭もいいのに、魔術も身体能力も凄いのか。

 どれほどの研鑽を積んできたのだろう。


 ぼくも感化されて、腕立て伏せをすることにした。

 十数回でバテた。

 走り込みで体力はあるけど、筋力はだめだめだ。

 でも魔術師だし、まあ別にね。


 とりあえずもう一度だけやる。

 三回でバテた。


 その間、二人は体を折りたたんでは開いてをまだ繰り返していた。

 おかしな人たちだ。


「負けたあ」


 ロイが竿から降りた。

 ゼーゼー息をしながら地面にへたり込む。


「まだ序盤だよ」


 ディーンさんは見せつけるようにバッタンバッタンしており、もうぼくは見飽きたので瞑想をすることにした。

 

 アマラさんとの特訓から思い出してはやっていたけど、サボることも多かったので良い機械だ。

 実践の上でやるのは慣れてきたし、日常でも忘れないようにしないと。


「私もやろう」


 ディーンさんも降りてきた。

 ぼくの前に立つ。


 彼は、足を肩幅に広げた。

 両手のひらを合わせ、ゆっくりと呼吸する。

 左足を後ろに出す。

 右足を前に出す。

 それから川の流れのように両手・両足を動かしていく。


 え、なにこれ。


 ぼくは訳が分からず、その動きを見つめていた。


 ディーンさんは十分ほど体を動かし、一旦止まった。


「瞑想ですか? それも」

「そうだ。最近、帝国で流行りのトレーニングメソッドでね。

 その名も『運動瞑想』。 

 体に流れる魔力に合わせて体自身も動かす。

 そうすることで、より魔力もより滑らかになる」

「へえ」


 やはり、帝国は最先端をいっている。

 何かが流行ったと思ったらまた何かが流行る。

 でもそれって普遍的なものじゃないからじゃ?

 とは思いつつ、乗り遅れないようにしないといけない。


 真似してみる。

 立ち上がり、ゆっくり体を動かす。

 瞑想と基本は似ている。

 呼吸に意識を向け、集中する。

 魔力の流れと、体の流れ。

 ぴったりと合わせていく。

 

 数秒後、体が温まる感じがしてきた。

 

「き、効いてます!!」

「だろう?」


 それからロイも混ざり、奇っ怪な踊りを小一時間続けた。





「準備はいいか?」


 ディーンさんは言った。


 翌日、ぼくらは塔の前に立っていた。

 空は青く澄んでいる。


「大丈夫です」


 ぼくの言葉に、ロイとリンも頷く。

 

 食べものなどは、ディーンさんが豊富に持っていた。

 数日は潜るのだ。

 魚だけじゃ無理みたい。

 そりゃそうか。


 その他も荷物もリュックに詰め込み、準備万端。


 リンは砂時計を取り出し、扉に近づけた。

 穴が空いているところがあり、そこにすっぽりはまる。

 かすかな光が漏れ、ガチャリ、という音が鳴った。


「開いたわ」


 その言葉を聞き、塔を見上げた。

 先が見えないほど高い。

 空を刺すように伸びている。


 ぼくは、リュックの紐をぎゅっと握った。

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