第41話 「塔へ」
「死者の塔の鍵だから」
リンは言った。
「あれが? 鍵?」
「そう」
何の変哲もない砂時計。
いや、魔道具という変哲があった。
さらに鍵という変哲も?
というか、そうか。
なるほど。
「ぼくたちが入れないように、黙ってたってこと?」
「そう」
リンは言った。
申し訳なさそうだった。
「やった!! じゃあ入れるじゃん!!」
「いや、今はそういう話じゃなくて⋯⋯」
「なんで?」
死者の塔に入れるのは嬉しい。
あそこに空の書がありそうだから。
でも、今はそれよりも、色々とややこしいことがある。
「えっと、つまり、砂時計は『死者の塔の鍵』であり、『アンデッド抹殺装置』でもあるってこと?」
「まっさ⋯⋯まあ、そうなるわね」
「だけどリンは、鍵の役割しか知らなかったと?」
「そう。鍵のことは、人族がたくさん来たときにお父さんが使っていたのを見てたから」
不思議な魔道具だ。
二つの、それも全く異なる機能がついてるなんて。
相当高度なものなんじゃないか?
「そもそも砂時計をどこで?」
「お父さんがずっと大切そうに持ってて、亡くなったあとで勝手に私が貰った。
形見にしようと思って」
「だから肌見放さず持ってたんだ」
「うん」
リンは恥ずかしそうに頷いた。
「それで、お父さん⋯⋯が、ぼくの前に現れて、砂時計のことを教えてくれた」
「ええ。伝えたかったんだと思う。お父さんは誰よりも村のことを考えていたから、最後に助けてくれたんだ」
リンは言った。
嬉しそうな顔をしていた。
いくつかの疑問は解けた。
そもそもこんなものをどうやって作ったのか、なぜここにあるのかなどは、きっと知らないのだろう。
ずっと奥、歴史の奥に消えてしまった。
リンのお父さんの願い、本当に成し遂げられたのだろうか?
家族や村のことを思い、無念の死を遂げた。
ぼくは託された。
重いものが、肩に乗った気がした。
「それよりさ! 死者の塔、行っていいの??」
「ええ、鍵のことも言っちゃったし、どうせあなたなら無理矢理にでも奪いにきそうだし」
「もちろん奪いにいくよ!!」
「それに、生前お父さんも言ってた。
『この村には歴史がある』って。
お父さんが人族を受け入れるのに好意的だったのは、もしかしたら、お父さん自身が何か疑問に思っていたからかもしれない」
「だったら、私も知りたい」
リンはこちらを見た。
ぼくもロイと目を合わせ、頷いた。
小屋を出た。
空を見上げると、あと少しで満ちそうな、月が出ていた。
⋯
翌日の昼、ディーンさんのところへ行った。
報告をしなければならない。
「⋯⋯というわけです」
「なるほど」
ぼくが今までのことを話し終えると、ディーンさんは黙り込んだ。
顎に手をやり考え込んでいる。
何だか迫力があり、話しかけることができなかった。
「それ以外は?」
「⋯⋯いや、これだけです」
「そうか。よくやった」
ディーンさんは笑った。
「やったね」
「よし」
ぼくらは顔を見合わせる。
ちょっとした達成感。
「あと、ぼくのことですが、どう思いますか?」
「ああ、リンの父との件だね」
再び考え込む。
「正直分からない。
ただ、体内に強烈な魔素を溜め込むことで、何かしらの異常な体質になるものはいる」
「へえ」
「多くの者では気付かないほどの微細な魔力に敏感になったり、相手の感情の機微を深く察したり、だね。
それに近いのかもしれない」
うーん、よくわからないけど、不思議体質ということか。
「とにかく、そうと決まれば行動だ。
すぐにでも調査を始めよう」
「はい!!」
ついに、死者の塔へと向かう。
⋯
その日の夜。
スアンさんの家に向かっていた。
「リン、怒ってたね」
「『急過ぎる!!』だって」
ぼくらは笑った。
「仕方ないよね。行きたくなったんだし」
「仕方ない」
村を飛び回っているリンに話したのだ。
「もう大丈夫だと思うけど、村も」
「リンも頑張ってたしな」
見渡すと、村人たちが活動を始めていた。
日常だ。
ゆったりとした時間の流れが流れている。
これが、魔族の村・レイモールだった。
「あれ、ディーンさん?」
「ほんとだ」
ロイが指差す方向、物干し竿に逆さまでぶら下がっている彼がいた。
ちょうど膝の裏を引っ掛けている。
上半身を起こした。
それから、一定の速さでまた体を下ろし、起こしを繰り返している。
一切のブレがなく、精密な動きだった。
「訓練だ!」
ロイが走っていった。
ぼくもついていく。
「おお、君たち」
「俺もやる!」
ロイも竿にぶら下がった。
ディーンさんは再び訓練を開始する。
ロイも中々で、彼ほど精密ではないが、元々の力で何とかついていっている。
「研究員なのに、なんで訓練をしているんですか?」
地面に座り込んでぼくは聞く。
「私は世界を飛び回るからね。体力が必要なんだ。
ときには魔物と戦うこともある」
「へえ、じゃあ魔術も?」
「ある程度はね」
凄い。
研究をするほど頭もいいのに、魔術も身体能力も凄いのか。
どれほどの研鑽を積んできたのだろう。
ぼくも感化されて、腕立て伏せをすることにした。
十数回でバテた。
走り込みで体力はあるけど、筋力はだめだめだ。
でも魔術師だし、まあ別にね。
とりあえずもう一度だけやる。
三回でバテた。
その間、二人は体を折りたたんでは開いてをまだ繰り返していた。
おかしな人たちだ。
「負けたあ」
ロイが竿から降りた。
ゼーゼー息をしながら地面にへたり込む。
「まだ序盤だよ」
ディーンさんは見せつけるようにバッタンバッタンしており、もうぼくは見飽きたので瞑想をすることにした。
アマラさんとの特訓から思い出してはやっていたけど、サボることも多かったので良い機械だ。
実践の上でやるのは慣れてきたし、日常でも忘れないようにしないと。
「私もやろう」
ディーンさんも降りてきた。
ぼくの前に立つ。
彼は、足を肩幅に広げた。
両手のひらを合わせ、ゆっくりと呼吸する。
左足を後ろに出す。
右足を前に出す。
それから川の流れのように両手・両足を動かしていく。
え、なにこれ。
ぼくは訳が分からず、その動きを見つめていた。
ディーンさんは十分ほど体を動かし、一旦止まった。
「瞑想ですか? それも」
「そうだ。最近、帝国で流行りのトレーニングメソッドでね。
その名も『運動瞑想』。
体に流れる魔力に合わせて体自身も動かす。
そうすることで、より魔力もより滑らかになる」
「へえ」
やはり、帝国は最先端をいっている。
何かが流行ったと思ったらまた何かが流行る。
でもそれって普遍的なものじゃないからじゃ?
とは思いつつ、乗り遅れないようにしないといけない。
真似してみる。
立ち上がり、ゆっくり体を動かす。
瞑想と基本は似ている。
呼吸に意識を向け、集中する。
魔力の流れと、体の流れ。
ぴったりと合わせていく。
数秒後、体が温まる感じがしてきた。
「き、効いてます!!」
「だろう?」
それからロイも混ざり、奇っ怪な踊りを小一時間続けた。
⋯
「準備はいいか?」
ディーンさんは言った。
翌日、ぼくらは塔の前に立っていた。
空は青く澄んでいる。
「大丈夫です」
ぼくの言葉に、ロイとリンも頷く。
食べものなどは、ディーンさんが豊富に持っていた。
数日は潜るのだ。
魚だけじゃ無理みたい。
そりゃそうか。
その他も荷物もリュックに詰め込み、準備万端。
リンは砂時計を取り出し、扉に近づけた。
穴が空いているところがあり、そこにすっぽりはまる。
かすかな光が漏れ、ガチャリ、という音が鳴った。
「開いたわ」
その言葉を聞き、塔を見上げた。
先が見えないほど高い。
空を刺すように伸びている。
ぼくは、リュックの紐をぎゅっと握った。




