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アル≒テミス  作者: 谷 風汰
第1章 逃走編

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第4話 「冒険」

 ぼくらは、巨城を前に立ち尽くしていた。

 手足はまるで自分のものではないかのように動かなかった。 


 そこは一面灰色で、植物などは一切なく、完全に生気を失っていた。

 所々にヒビが入っており、一部は無惨に崩壊している。

 それでも城の体裁は保っていて、天高くそびえる二対の塔や、シンプルだが美しい装飾は地上のものとまるで遜色がなかった。

 老練な戦士のように感じた。


 ぼくは魔法陣を踏んでいた。

 城を取り囲むようにいくつも設置されており、もう機能してはいないようだった。

 防壁のような役割だろうか?


「入ってみよう」


 ロイが言った。

 彼もしばらく呆然としていたが、気を取り直したようだ。

 それでも異常なほど静かだった。


「⋯⋯うん」


 ぼくは言った。

 止まることなどできなかった。


 大人の背丈より少し大きいくらいの扉の前まで来た。

 怪物の口に見えた。


「開けるよ」

「うん」


 ロイが扉に手をかける。

 ぼくはその手を凝視する。

 気持ち悪い静寂を、荒い呼吸が遮った。


 扉は開いた。

 しわがれた老人のような声だった。

 僕らを拒絶するかのようだった。


 同時に、突風のように強力な魔力が突き抜ける。

 こんな魔力は感じたことがない。


 怪物のお腹に入る。

 その先は細い通路となっており、暗闇が濃くなるにつれて不気味さが増した。

 捕食されたように体がすくんだ。

 手に力を込める。


「明かりを頼む」


 ロイは言った。


「ああ」


 炎魔術を使い、手のひらに灯火を宿した。

 それは暗闇を照らすだけでなく、ぼくの心も照らしてくれた。

 束の間の安堵。


 一列になって進む。

 普段ならぼくが先頭なんて考えられないけど、通路を照らさなきゃいけないし、何よりそんなこと考えられるような状況ではなかった。


 不安定な足音と心臓の鼓動が、不協和音のように重なった。

 震える手を抑え込む。

 地面を強く踏みしめる。


 ロイがいることが、一番の支えだった。


 突き当りまで進み左に曲がると、調理場のような部屋があった。

 食材はなく、荒らされたように道具が散乱している。

 床に目をやると、錆びた包丁が崩れて死んでいた。


 先に進む。


 少し幅のある廊下に出た。

 城の正面にまで続いているような長さがあった。

 奥の方に目をやると、微かに明かりが見えたような気がした。


 気のせいだろうか?


 ロイの方を見ようとしたそのとき、


「───・──・────・───────」


 声がした。

 男の声だ。

 明かりは強くなる。


 体が浮いた。

 風を切った。

 正面の階段に着地した。


 再び浮く。

 着地する。

 音は一切立たなかった。


 何が起こったのか分からなかったが、ロイがぼくを抱えて跳んだのだと理解した。


 ロイの腕から離れる。

 顔を見合わせる。

 お互いに頷いた。


 二階に到達していた。

 お陰でバレずにずんだが、ロイの末恐ろしさを感じた。

 こいつは将来、兵士にでもなるのだろうか。


 兵士といえば、さっきの声はやはり彼らのものだろう。

 きっとぼくらとは違い、城の正面から調査をしているのだ。


 見つかったらどうなるんだろう。

 牢屋に入れられるのかな。

 王都には『火だるま魔法陣』という処刑方法があるらしいけど、それで死ぬのだけはごめんだ。

 ぼくは大きなお庭で雲の数を数えながら寿命を迎えたい。



---



 階段を上がった先はさらに大きな廊下だった。

 赤いカーペットが鮮血のように伸びている。

 しかしその大きさの割には過度な装飾がなく、非常に簡素な作りだった。


 隣を見るとロイがいなかった。

 鼓動が増す。


「⋯ハル⋯!!」


 掠れた声の方を見ると、ロイが右手の壁のそばにいた。


 何だろう?


 近くに寄ると、それは壁画だった。

 巨大な竜と、その背中に乗っている王冠の男。

 すでに色褪せており、剥がれている部分もあるため、細部を観察することはできなかった。


 ロイは真っ直ぐと壁画を見ていた。

 吸い込まれそうなほどだった。

 ゆっくりと手を伸ばし、男の顔に触れる。

 剥がれ落ちる。

 断片は、暗闇に消えた。


 ぼくはロイの肩を叩き、先に進む合図をした。

 それでもしばらく動かなかったが、数秒の後こちらを向いた。



---


 

 廊下の一番奥には一際大きな扉があった。

 鉄で作られているようで、怪物の心臓のように思えた。

 先ほどの何倍も魔力が強まっているように感じた。


 手を触れる。

 あまりの冷たさに痛みが走った。

 指が凍結し、血のカーペットに落下する、千切れた断面を凝視する、そんな妄想が頭に浮かんだ。


 扉には大きな魔法陣が描かれているようだが、死んだように光を失っていた。

 鍵の役目をしていたのだろう。


 ロイは両手を押し当てた。

 紋様のように血管が浮き上がり、潰れそうなほど顔が歪んだ。

 どのくらい経っただろうか。

 唸り声を上げながら扉は開いた。


「ぁぁ゛゛ぁ゛!!」


 突き刺すような光が飛び込んだ。

 目を抑え込む。

 床に屈み込む。


 顔を上げた。


 そこにあったのは、太陽だった。 

 真っ赤に輝く、岩のような魔石だった。



---



 魔石。

 それは国力の大きさに関わるほどの重要資源だ。


 それがなぜここに?

 しかも前代未聞の大きさだ。

 これだけのものなら、一国の軍事力を倍にできる。


 いずれこの場所には世界中の軍隊やら調査隊やらが来ることになるだろう。

 そうすれば⋯⋯。

 考えたくもない。


 魔石の周囲を見渡すと、座席のようなものがぐるっと囲っていた。

 それはいくつかの段になっており、所々がボロボロになっていた。


 大勢の人が座っていたのだろうか。

 しかし、何のためにかは分からない。

 鑑賞していたのだろうか?


 色々考えた挙げ句、頭が少し重くなるのを感じた。

 頭の中を揺らされているような感覚だ。

 ただそこまでじゃない。

 ほんのりとした違和感だった。


「これ⋯⋯ちょっとだけ貰えないかな」


 ロイが言った。

 そうなるだろうとは思っていたけど、やはり欲しいらしい。

 そういえばこいつは、キラキラとした石を拾ってくる習性があった。


「⋯⋯いやいや⋯⋯流石に無理だよ」


 ぼくが答えると、ロイはすぐに大人しくなった。

 流石に無茶だと気づいたらしい。


「欠片でも?」


 無理だって。


 ぼくだって、正直ワクワクしている。

 世界中探してもこんなもの持っているのは大国くらいだ。

 貴族だろうとお目にかかることはそうそうない。

 つまり、お宝なのだ。


 でもどうしようもない。

 そもそも大きすぎるし、存在自体が手に余る。

 果物みたいに切り取ることが出来たら良いが、そんな事できるはずもない。

 ちょっと観察したら部屋を出よう。

 一つの場所にとどまっているのは危険だ。


 そう思ったそのとき、


「誰だ!!」


 怒号が響いた。

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