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異世界少年少女は空をゆく −撃墜の城と空飛ぶ魔術−  作者: 谷 風汰
第5章 魔族の村編

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第38話 「発動」

 森の方を見た。

 あそこにも奴らはいる。

 木々の端々で蠢いている。


「というか、どうやっていくつもり?」


 リンは言う。


「⋯⋯? まあ、魔術を上手く使って?」

 

 ぼくは言う。


「よくわかんないけど、祭壇に行けばいいんだよね?」

 

 ロイは言う。


「そう」

「わかった」


 ロイはぼくとリンの体を抱えた。

 脇と腕であっさりと挟み込む。


「ちょ⋯⋯」


 リンは、何が起ころうとしているのか分かっていない。

 ただただ困惑している。


 ぼくは、膨大な経験による極めて高度な未来予知を行い、ぜんぶあきらめた。


「行くよ!」

「はい」

「待っ⋯⋯!! お母さん、じゃあわた⋯⋯」


 リンが何かを言おうとした瞬間、ロイは飛翔した。

 体を風が切る。

 雲まで行っちゃいそう。


 傍目から見たら鳥のように見えるだろう。

 ぼくとリンが羽。

 なんでこんな状況でこんなこと考えているのか分からない。


 でもいつも通りのロイを見て、少し心が、落ち着いた。


「まだ話してる途中でしょうがああああああぁぁぁぁぁああああ」


 リンの叫びは、風と共に去った。



‐‐‐



 地響きのような音がして、ぼくらは降り立った。

 ロイは微動だにしなかった。


 森の中。

 周囲には不気味な声が響いている。

 

 リンは絶望の表情で、ぼくは軽い絶望の表情だった。

 風魔術で自主的に飛んだことがあるから少しなれていたのだ。


「どうなってんのよあんた⋯⋯魔術とかいうレベルじゃないわ⋯⋯」

「こっちの方が早いよね。無駄に魔力を使わなくてスムシ」


 すれ違う会話に諦めがついたのか、リンはそれだけ言って前を向いた。


「ロイ、普通にずれてるけど、場所」

「ほんと?」

「うん」


 正確に着地しろ、せめて。


「あっちの方だったような」


 ぼくは左奥を指さした。

 

「そうね」


 リンの言葉を受け、ぼくらは進む。


 夜の森は不気味だ。

 さっき来たときもそうだったけど、今はその比ではない。

 いつ敵が襲ってくるのか分からない。


 背の高い木を見上げた。

 暗闇で先は見えず、永遠に伸びているように感じた。

 夜のずっと奥まで。


 そこから目を逸らそうとした、そのとき、


「ウ゛ウ゛!!!」


 上空から声が聞こえた。

 

 咄嗟に飛び退く。


 二人の近くに戻り、杖を構えた。

 ロイもすでに剣を抜いている。


 ぐちゃり、と音がした。

 アンデッドが地面にぶっ倒れていた。


「木の上から?」


 リンが言った。


 こいつら、そんなことまで⋯⋯。

 危なかった。

 あのままだったら、奇襲されて攻撃を受けていたかもしれない。


 そいつは呻き声を上げ、ゆっくりと起き上がろうとしていた。

 腕は逆方向に曲がっており、足は異様に細く、首はだらんと垂れている。

 起き上がろうにも上手くいかない。


 それでも足掻くさまが、必死に生きようとしている人間に見えた。


 ロイが近寄り、首を跳ねる。

 地面に転がり、体はべちゃりと倒れた。


 後味の悪い悪寒が襲い、ぼくらは黙って進み始めた。



 祭壇までの途中、アンデッドを倒しながら進んだ。

 村の中心ほど数はおらず、合わせて十頭いたかどうか。

 それでも緊張感は増し、村人たちの心配は増し、急がなければ、という焦りが生まれた。

 

「リン、魔力はどう?」

「大丈夫」

 

 あまりにもあっさりとしていたから、嘘だというのはすぐに分かった。


「ぼくたちがやるから、一旦下がってても⋯⋯」

「大丈夫だから」


 リンは前を見て言った。

 その目は、森の奥を見据えている。

 先の見えない夜の闇、そこには何もないはずなのに。


「見えた」


 リンが言った。


 祭壇だ。

 暗闇の中、うすぼんやりと巨大な柱が見えた。

 その中にある灰色の壇。

 

 何か恐ろしいものを祀っているように感じる。

 底の見えない恐怖を感じる。


 雨の音が、森に響く。


 近づいた。

 祭壇の真正面まで行き、そのまま壇上に上がる。


 床面に描かれた二つの巨大な円の真ん中にある台座部分まで走った。

 炎を照らす。


 足が一つしかない机のようで、何の変哲もない台座。

 それがぽつんと真ん中にあるのだ。


「それで?」

「⋯⋯」


 ぼくは答えに詰まる。


 台座の上を見たり、下を見たり、裏を見たりした。

 でも、何も見当たらない。

 魔法陣があるはずなんだ。

 この砂時計と接する部分が⋯⋯。


「儀式をやってみたら?」


 ロイが言った。


 リンは間髪入れず、台座の前に座った。

 祈りの姿勢を取る。

 呪文のようなものを唱える。


 魔力の流れが、ゆっくりと穏やかになっていった。


 壇上に描かれた片方の円が光り始めた。

 ちょうどぼくらの後ろにある方だ。

 そして微かに、前方にある円の下の方も光っている。


「これは⋯⋯」


 最初に来たときは分からなかった。 

 でも間違いない。


 まるで、砂が落ちきる寸前の砂時計。

 それをこの二つの円が表してるんだ。


 台座の前に行った。

 前方の円の下の方、その光の砂は、もう無くなる寸前。

 

 台座の後ろに行った。

 後方の光は、あと少しで真円になる寸前。


「リン!! このまま魔力を込めて!!」

「分かってる!!」


 光は強まっていく。

 魔力が満ちる微かな音が森の木々を揺らしている。


 急がなければ。

 村はもうアンデッドの海と化している。

 これ以上被害者が出る前に。


 光が止んだ。


 リンの方を見た。

 彼女は、倒れていた。


「リン!!」


 ぼくとロイは駆け寄った。


「意識はある!」

「でも魔力が⋯⋯」


 さっき同じことをやったんだ。

 かなり魔力の消費が激しいのだろう。

 もう気絶寸前だ。


 代わりにぼくが⋯⋯できるのか?

 分からない。


 とりあえず座ってみた。

 魔力を穏やかに、下の方に流れるイメージで⋯⋯。


 上手くいかない。

 ただ体を魔力が巡るだけ。

 祭壇に流れている感じはしない。

 どうやってるんだ⋯⋯。


「無理⋯⋯」


 声がした。


「あなたじゃ無理⋯⋯私じゃないと⋯⋯」


 振り向くと、リンは起き上がっていた。

 顔はいつもより青白く、生気が薄くなっていた。

 木々を通る風のように声は掠れていた。


 魔力は風前の灯。


 このままいけば気絶どころじゃすまない。


「リン⋯⋯とりあえず休ん⋯⋯」

「だめ!」


 力強い声が森に響いた。


「私が救うんだ⋯⋯!

 村を⋯⋯このままじゃ⋯⋯お父さんに顔向けできない⋯⋯!!!」


 体を支えているロイをふりほどき、四つん這いで歩き出した。

 生まれたての小動物のように見えた。

 白い髪は、壇上に擦れている。


 ぼくは、その気迫に逆らうことができなかった。

 恐怖すら感じた。

 すぐに台座の前から退き、その前に座ったリンを見守る。


 儀式は再び始まった。


 数秒後、ゆっくりと、光が満ち始めた。

 さきほどの光景がまた現れる。

 リンが力尽きるのが先か、『何か』が起こるのが先か⋯⋯そもそもそれは起こるのか?


 ぼくはどうすることも出来ず、じっと夜の闇に立ち止まっていた。


「ハル、あれ!!」


 十秒ほど経って、ロイが叫んだ。


「え?」

 

 ぼくは指差した方を見た。

 台座の上の部分。

 さっきまで何もなかったところが薄っすらと輝いていた。


 さらに待つと、より明瞭にそれは見えた。


 魔法陣。


 砂時計のものと同じだ。

 全く同じ形。

 それがついに現れた。


 ぼくは砂時計を取り出し、台座に駆け寄る。

 リンの邪魔をしないように、そっと置いた。

 中の砂が光を帯びた。

 紫色に輝いている。


 落下を始めた。

 

 振っても逆さにしても全く動かなかった砂がついに動き始めた。

 ゆっくりだが、確実に落ちている。

 小雨のようだ。


 何かがある。

 間違いのない確信が頭を巡った。


 あとは待つだけ⋯⋯。


「⋯⋯ア゛ア゛」


 耳の奥が震えた。

 指先で触れるような繊細な音。

 しかし、不気味な音。


 後ろを見た。


 誰もいない。

 何もない。

 暗闇。


 そっと見回すが、やはり何も見えない。

 

「ア゛ア゛」


 さらに強く。

 耳を殴るような音。


 瞬間、地面が盛り上がった。

 四方八方に現れる無数の小さな山。

 破裂するように肥大していく。


 ボゴ、という音がした。

 それ、いや、それらは同時に響き、一つの巨大な音となっていた。


「ア゛」

「ウ゛」

「アあ゛」


 夥しいアンデッドが地面から現れた。

 ぼくらを取り囲んでいる。

 

 そうか。

 ここはあの魔道具や儀式の影響もあって、魔力が集中している。

 アンデッドが集まりやすい空間になってるんだ。


「来たね」

「ああ」


 構えた。

 この量、どうにもならないかもしれない。

 でも、やるしかない。


氷壁(ミュルグラス)


 リンを氷のドームで覆った。

 彼女の安全は守った。

 あとはどれだけ持ちこたえられるか。


氷槍(ラングラス)


 一発、二発、三発と氷の槍を放つ。

 奴らの足を止める。

 

 ロイが飛び出した。

 アンデッドの首めがけて剣を横に薙ぐ。

 複数の首が舞い上がる。

 

 でも、それだけだ。


 未だ無数のアンデッド。

 

 一体一体の力がそれほどではないのが救いだった。

 数だけ。

 数⋯⋯だけ。


 周囲一帯を凍らせるほどの大魔術はない。

 ロイの一撃に頼るほかない。


 地道に数を減らしていき、半分ほどになった。

 魔力は段々すり減っていく。

 流石のロイも息を切らしている。


 リンを見た。

 彼女はまだ倒れていない。

 力強く祈り続けている。

 

 砂時計は、あと少し。

 あと数分で落ちきるか?


 アンデッドは迫りくる。

 ぼくは魔術を使い、足止めをする。

 ロイがトドメを刺す。


 繰り返す。


「ハル、大丈夫?」

「⋯⋯さすがにきついな」


 当たりを見回し、ぼくは言った。

 でもやるしかない。


 そう思った時、地面が震えるのを感じた。

 巨人の足音のような、衝撃音。

 足の裏に直接響く。


 危うく体勢を崩しそうになった。

 そして、後ろを振り向いた。


 盛り上がりが出来ていた。

 さっきのアンデッドのものとは違う、明らかに、巨大。

 

 祭壇の真横にあるそれは、ゆっくりと盛り上がっていき、やがて破裂した。

 現れたのは、アンデッド。

 それも、大樹のような体躯をしている。

 また手足は長く、猿のようにも見えた。


 この村に来たとき見た、あの大きなアンデッドのさらにひと回りは大きい。

 

 そいつは目の前にある柱に手をやった。

 祭壇の両側に並んでいる巨大な柱だ。

 根本から引き抜いた。

 ゆっくりと空に掲げ、振り下ろす。


 ぼくは呆気に取られ、動けなかった。

 目の前の風景が、とても遅く映った。


 鈍い音が響く。


 氷のドームに亀裂が入る。

 そいつはもう一度、柱を振り上げ振り下ろす。

 さらに亀裂が入る。


 リンは集中しているのか、もう意識がないのか、微動だにしない。

 ただ、彼女を守る城壁が壊されていくだけだ。


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』


 最後の一撃、叩きつけた。

 森全体が上下に揺れた。

 大地に亀裂が走った。

 

 ドームは崩壊した。

 バラバラに破片は散った。


 柱は中まで突き抜ける。


 ぼくは動いていた。

 足を一歩踏み出すだけ。

 でも、もう遅かった。

 どうにもならない。

 止められない。


 前方には無数のアンデッド。

 地面から湧いてきたのか、さらに数は多い。


「リンンンンンンンンンン!!!!!!!」


 ぼくは叫んだ。

 

 そのとき、風を斬る鈍い音が、森を駆けた。

 肉を叩き切るような音が鳴り、呻き声が響いた。


 視界が紫色に染まる。

 

 強烈な魔力の波動が、体を突き抜ける。

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