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異世界少年少女は空をゆく −撃墜の城と空飛ぶ魔術−  作者: 谷 風汰
第5章 魔族の村編

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第36話 「暗闇の戦い」

「何だ!?」

「おい!」

「待て!!」


 村人たちは騒ぎ出す。


「リン!!」


 その喧騒をよそに、走り出したのはリンだった。

 誰よりも早く、誰よりも真っ直ぐと、駆け出した。


 『リンのこと、よろしくね』


 スアンさんに言われたことを思い出した。

 だが、彼女は強く、賢明だった。

 心の内に、少し陰があるだけで、本来は強い人なんだ。

 

 ぼくも、いかなきゃ。


 走り出す。

 ロイはぴったりと、隣についてきている。

 

「何かな!?」

「さあ!!」


 一言だけ交わす。


 さっきの悲鳴、明らかにまずいのは明らかだけど、何も分からない。

 ここはのどかな村だ。

 魔物は周りにいるが、村を取り囲む魔法陣ですべて防いでいるはず。

 

 『殺した』

 

 その言葉が頭に膨らんだ。

 リンの父は殺された。

 そんなこと生まれて初めてだとスアンさんは言っていた。


 寒気が襲う。

 足が急に重くなり、暗闇が肩にのしかかってくるように感じた。


 魔物とはたくさん戦ってきた。

 でも、同じ人間とは⋯⋯。


 森を抜けた。

 立ち止まり、目を見開いた。




「ア゛ア゛」






            「ア゛ァ」

 




      「ウ゛ォ」

    



                  「ウ゛」


「ォ゛」

        「ォォ゛ぉ」

           


  「ウ゛ォ」

                    「ウ゛」                         「グぇ」            

                                

        「ォォ゛ぉ」



             「ウ゛」



「ア゛あ」

           「ウウううううう」


   「あああ゛ああ」

                  「ォォ゛ぉ」


         「ォ゛おお、ォ。」


        「ォォ゛ぉ」

   「ウ゛ォ」     「ウ 」             「グぇ」

        「ア゛あ」         

               「ウウううううう」

 

 「ギャリ」        「ウ゛」  

                   「グぇ」  「ォォ゛ぉ」

    「ウ゛ ォ」      「ウ゛」  


                「 グぇ」                    「ォ゛」    「ォォ゛ぉ」

   「ォ゛お」          「ウ゛ォ」   

              「オォ゛」         「ウ゛ォ」   


    「オォ゛」   「グぇ」  

                「ア゛あ」


    「ウウううううう」    「ギャリ」  

                       「ォォ゛ぉ」 「ウ゛ォ」         「ウ゛」「グぇ」         「ォォ゛ぉ」  

                「ウ゛ォ」

   「ウ゛」    「グぇ」   「たわけ!」          「ウ゛ォ」「ウ゛」       「ォ ォ゛ぉ」      


「ォォ゛ぉ」            「ウ゛ォ」  

          「グぇ」   「グぇ」  

               「 ォォ゛ぉ」            「ウ゛ォ」

             「グぇ」   

        「ア゛あ」     

   

               「ウウううううう」         



 アンデッドの大群。

 

 死体の行進が、浜辺を埋め尽くす。

 大雨に呻き声が響く。

 

 襲われている村人と、それを助けている人、まるで豆粒のように群れの中にいる。

 侵食されている。


 ぼくは固まっていた。

 激しさを増していた雨にも気づかなかった。

 全身に悪寒が走った。


「ハル!!」

「⋯⋯あ」


 ロイの声で目を覚ます。


「リンを探そう!!」

「ああ⋯⋯」


 ぼくは再び走った。

 

「行き先は?」

「スアンさんのところだ!」


 固まった足をもぎ取るように動かした。

 村へと入る。


 しかし、前方にアンデッドの塊。

 十匹ほどが行く手を塞いでいる。

 

「アア゛ア」


 こちらを向いた。

 どろっとした動きで迫り来る。


 ぼくは杖を構えた。

 常に持ち歩いていて良かった。

 こういうときが来るんだ。


「いけるよね、ハル」 

「もちろん」


 全身に魔力を集中した。

 流れを意識する。

 ゆっくりと呼吸をし、操作する。

 

氷槍(ラングラス)


 アンデッドに向かって放つ。

 狙いは足下だ。

 

 一番前にいる相手に突き刺さった。

 アンデッドは、『ア』と不気味な声を漏らした。

 

 少し上だったか?

 まあいい。


 ミシミシと、氷が地面に広がっていく。

 そいつは酔っぱらいのように体を動かしているが、どうしようもできない。


 ぼくはあと三発ほど放った。

 他の個体に当たり、同じように動きを止める。

 

 後ろにいた奴らが前にいるやつらを押し出そうとした。

 しかし当然、前にいる奴らは動けない。

 死体の塊はもんどりうって一斉に転倒しそうになった。


変成(トランスフォルメ)


 それを見逃すことはなく、ロイが飛び出した。

 刀剣は通常の二倍ほどに長さが伸びていた。

 

 頭部が弾け飛ぶ。

 長剣を使って全ての頭をぶった斬ったのだ。

 空中に舞った球体たちは、鈍い音を立てて地面に転がった。

 

 数秒遅れて、『ァ゛』という断末魔が聞こえ、奴らは静かになった。


「いこう」


 ぼくは言うと、ロイは無言で頷いた。

 

 死体の山を越えていく。



‐‐‐




 家々をすり抜ける。


 魔術を使ったのか、氷のドームで覆われた家がいくつかあった。

 流石は魔族だ。

 咄嗟に対処したのだろう。

 

 しかし、彼らは夜に外で活動する。

 当然、逃げ遅れた人たちが大勢いる。

 

 応戦している人たちもいた。

 彼らは強い。

 人族とは比べ物にならないほど魔術に長けている。

 だけどこの数は無茶だ。


「あああああああああ」


 叫び声が響いた。

 アンデッドじゃない。

 

 どこか遠く。

 浜辺の方か。

 無理だ。


 ごめんなさい。


 ぐちゃぐちゃになった思いを踏み潰し、目的地を見定めた。 


 曲がり角を曲がり、一軒の家が視界に入る。

 この家を通り過ぎたさらに奥。

 そこがリンたちの家。


 無事だろうか。

 スアンさんは、リンは。


 手前の家を抜けた。

 

 リンたちの家が見えてくる。

 背後では呻き声。

 

 後ろを振り返る。


「ウウうう」  

「ォォ゛ぉ」 

「ウ゛ォ」        

「ウ゛」

「グぇ」                   

「ォォ゛ぉ」  

「ウ゛ォ」

「ウ゛」


 十頭、いや二十頭、分からない。

 夥しいアンデッドがついてきていた。

 

 くそ。

 どうする。

 多過ぎる。

 

 ロイが止まった。


「どうすんだよ!」

「俺がやるから、リンたちを頼む」


 そう言うと、ロイは剣を空にかざした。


変成(トランスフォルメ)


 さっきの長い剣ではない。

 いや、長い、が、幅も広い。

 大剣だ。

 

 明らかにロイの体格には不釣り合いで、到底扱えるはずもない。

 そう、普通なら思うだろう。

 

 だけどぼくは違った。

 誰よりも、勇敢に、かっこよく見えた。


 あいつならできると。


「頼んだ!!」


 ロイは答えることなく、いや、背中で答えたんだ。

 ぼくはそれを受け取り、後ろを振り向く。


 家は目と鼻の先。

 幸いなことに、アンデッドは周囲にいなかった。

 

 ここまではまだ来ていなかったのか?

 いや、リンがやったのか。

 分からない。


 だけど、行くしかない。

 

 玄関の前にたどり着いた。

 炎魔術で明かりを灯し、入口に立てかけられている板に手を伸ばす。


 指が震えるのを感じた。

 歯がカチカチと音を立てた。


 押し殺し、板に⋯⋯。


「あ゛」

 

 低い声が聞こえた。

 同時に、向こうから板が動いた。


 飛び退く。


 物が倒れたような衝撃音が響いた。

 板だけじゃない。


 明かりを足元に向けた。


 誰かの頭部と、転がった帽子が目に映った。

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