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アル≒テミス  作者: 谷 風汰
第4章 愛の魔女編

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30/30

第30話 「感謝」

 館に着いた。

 もうすぐ日が沈みそうだ。

 

 門を通る。


「お疲れ様です!!!」


 葉っぱ一丁の男たちが迎える。

 相変わらず、寸分の狂いもないほどの見事な整列。 

 

 でもここまでされると気分が良いかもしれない。

 いや、やっぱ気になるな。


「ただいま、みんな」


 アマラさんは言った。

 笑顔で手を振っている。

 

 シフォンさんはそれを見て怪訝な顔をした。


「やかましい」

「ちょっと。せっかくやってくれてるんだから」

「やらされているだけだろ」

「自主参加だから!」


 男たちの間を抜ける。

 シフォンさんは顔を背けている。

 もう何度も来ているはずなのに、そんなに慣れないのだろうか。


 玄関先にはトカゲ。

 背中を撫でると、クーと鳴いた。

 たまに遊んであげてはいたが、今まで随分と暇だっただろう。

 明日からは頼むぞ。


 館に入り夕食の準備をした。

 テーブルにはすでに豪華な食事が並べられている。

 特に目を引くのは、港湾都市シムーンで取引されている魚たち。

 所々に焦げ目がつき、香ばしい匂いが食卓を包む。 


「みんなに買ってきてもらったの」


 アマラさんは言った。


 ぼくは、ほぼ全裸で市場に並ぶ男たちを思い浮かべた。

 すごい光景だ。


「ちょっと遠いけど、彼らも水氷魔術が使えるからね」


 ぼくは、ほぼ全裸で魔術を使う男たちを思い浮かべた。

 すごい光景だ。


「ハル、これなんだろう?」


 ロイが言った。

 

 手に持っているのは、陶器のコップ。

 中に入っているのは、濃い茶色の濁った液体。

 ワインではなさそうだ。


「アマラさん、これなんですか?」


 ぼくは言った。


「ああ、最近見つかった新大陸、そこの飲み物とか何とか言っていたわね」

「新大陸?」

「ええ、私もよく分からないけど、海を渡った先に大きな陸地があるとか」

「へえ」


 新しい大陸。

 空の上の世界。

 人類は、どこまで行くのだろうか。


「苦、これ!!」


 ロイが叫んだ。


 ぼくも飲んでみる。


「⋯⋯う、たしかに」


 何というか、先生のところで飲んだコーヒーのような味だ。

 正直、微妙。


「そうか?」


 シフォンさんは言った。

 ぐいぐいとそれを飲んでいる。


 この人はバグ茶で味覚がおかしくなってるんだ。

 参考にならない。


 食事は進む。

 あれはまずかったけど、ほとんどの料理は絶品だった。

 先生の家で食べたものと遜色のないほどに。

 あの男たちを見くびっていた。


「それで、明日には発つんでしょう?」


 アマラさんは言った。


「はい」


 ぼくらは言った。


「まず、シムーンに戻ったらずっと南に向かうの。

 海沿いにね。数日進むと魔力がどんどん強くなっていくのを感じるわ。

 それを道標に向かうと大きな塔が見えてくる。そこが魔族の村」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 ついに明日。

 空の書を探す旅に出る。

 もう見つかってなければ良いけど⋯⋯。

 

「じゃあ、今日は早めに寝るのよ」

「はい」



‐‐‐



 それから夕食が終わり、ぼくらは自室に戻った。

 すっかり暗くなり、ロウソクの炎があたたかい。

 

 ベッドに寝転ぶ。


「やっとだね」


 ロイは言った。


「ああ」


 ぼくは言った。


「魔族の村、どんな場所なんだろうね」

「さあ、よそ者には厳しいって聞いたけど」

「ハル、大丈夫?」

「⋯⋯怖いかも」


 ぼくらは笑った。

 明日へのワクワクと別れの悲しみが寄り添って、息を潜めるような笑いだった。


「魔物がウジャウジャいるらしいね」

「ロイがいるから大丈夫だろ?」

「もちろんさ」


 再び笑った。

 声は、暗闇にこもる。


「寂しいな」


 ぼくは言った。


「うん」


 ロイは言った。


 数ヵ月間の思い出が蘇る。

 魔術の修行と初仕事。

 アマラさんもシフォンさんも変わった人だったけど、知れば知るほど素敵な人たちだった。

 二人には感謝だ。

 

「きっとまた会えるよ」

「ああ」

 

 部屋は、静けさに落ちていく。


 扉を叩く音がした。

 ぼくらは起き上がる。


「ちょっといいか?」


 シフォンさんだ。


「どうぞ」


 ロイが言った。


 ゆっくりと扉が空き、ロウソクを持った彼女が入ってきた。

 ベッドの近くの机にそれを置くと、椅子に腰掛ける。


「少し、話したいことがあってな」

「なんでしょう?」

「アマラのことだ」


 こんな夜中になんだろう。

 悪いことじゃないよな。


 沈黙が流れる。


 シフォンさんは言った。


「ありがとう」


 それは、彼女から初めて聞いた、感謝の言葉だった。

 だからこそ、心の内までじんわりと響いた。

 本物の言葉。


「それだけだ。邪魔したな」


 シフォンさんは部屋を出た。

 ガチャリと扉を閉めた。


 ロウソクは、机に置いたままだった。



‐‐‐



 朝を迎え、ぼくらは玄関に立っていた。

 隣にはトカゲ。


 旅の準備は万端で、とりあえず村に行くまでの食料は貰った。

 重い荷物を支える肩が、少しだけ痛かった。


「二人とも、元気でね」


 アマラさんは言った。

 微笑んだその顔は、女神のように美しかった。


「はい、お二人も」


 ぼくらは言った。


「シフォンちゃんは寂しがるだろうけど、無理に戻ってこなくて良いからね?」

「ふん」


 二人は笑っていた。


「修行は継続しろ、どこに行ってもな」

「はい!」

「すっかり師匠面ね、私の弟子なのに」

「ふん」


 ぼくらはトカゲに乗る。


「ありがとうございました!!」


 二人の頷きを記憶に刻み、門へと向かう。


 葉っぱ一丁の男たち。

 間を通る。


 門を抜ける。


 今日もここには、たくさんの客が来るだろう。

 どこにあるのか分からない、愛を探して。

 第4章 愛の魔女編 終

 

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― 新着の感想 ―
ロイとハルの友情が素敵ですね。ハルは自己否定的ですがとても優しく相手に寄り添えるところが好きです。空の書を探す旅も一波乱ありそうですが、ロイがいるから大丈夫かなと思わせてくれるほど、ロイへの信頼感をも…
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