第3話 「到達」
黒い塊はぼくを見下ろしていた。
それは兵士だった。
二十頭の馬と二十人の人間だった。
「ここで何をしている?」
リーダーと思しき男が言った。
「あ⋯⋯や⋯⋯」
震えが収まらず、口が上手く回らない。
「おい、治癒魔術をかけてやれ。怪我をしている」
男は言った。
最後尾にいた男がやってきて、ぼくを治療した。
体中の擦り傷やアザは綺麗に消えた。
心も少し落ち着いた。
リーダーが口を開く。
「で、ここで何をしていた?」
「隣町にいく途中で⋯そしたらアレが⋯」
精一杯口を動かしつつ、内容はぼんやりと伝えた。
何も悪いことはしていないけど、ロイのこともあるし全て言うべきではないと思った。
でも、『ロイを助けてくれ』とだけは伝えるべきだろうか。
「そうか。とにかくここは危険だ。早く家へ帰るように」
「⋯⋯はい」
ぼくがそう返事をすると、兵士たちは城の方へ去っていった。
ロイのことを話さなかったということは、まだ見つかっていないということだろうか。
でもあいつのことだ。
上手く彼らを避けているに違いない。
ぼくはそう考えると、兵士たちに見つからないように、ぐるっと左側を大きく回って城の裏側に行くことにした。
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かなり時間がかかったが、裏側までたどり着いた。
太陽の光を反射して城は眩しく光っている。
まだ遠い。
でも、兵士は裏側にはいない。
巨岩に張り付いている物体に気づく。
微妙に動いているようだ。
虫?
いや、大きさ的にありえない。
魔物?
確かに、城に近づけば近づくほど強烈な魔力を感じる。
そのことを感知し寄ってきたのだろうか?
ぼくは近づきつつも、すこし右側に寄りながら走ることにした
二十分ほど走っただろうか。
まだ目の前ではないが、街の残骸を抜けてかなり近くまで来た。
ぼくは、城、というより巨岩の迫力に目を見開いていた。
圧巻だった。
圧死しそうだった。
そして気づく。
遥か上空、巨岩に張り付く謎の物体。
それは四肢を前後しながら城にまで到達しようとしていた。
あれは生き物だ。
人間だ。
ロイだ。
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固まって動けなかった。
そんな原始的な登り方するのか。
まああいつは魔術が苦手だし、筋肉達磨だし。
いやそんなことより行かないと!!
ぼくはロイの真下の方まで行き、土魔術を使った。
人間が二人入れるほどの円が地面に現れ、真っ直ぐにせり上がる。
それは生きた塔のように空を目指した。
しばらく経ち、岩を素手で登る阿呆のところに到達した。
「ロイ!」
ぼくは言った。
「ハル!」
ロイも言った。
満面の笑みを浮かべている。
憎たらしい笑顔だ。
一瞬助けるかどうか躊躇したが、仕方なく右手を伸ばした。
「ほら」
「ああ!」
ロイは返事をすると、ぼくの手を掴んだ。
そして岩から跳躍し、土の塔に着地した。
「無茶するなよ、ほんと」
「ごめんごめん。あとちょっとで限界だったよ。
ありがとう、ハル」
楽しそうにロイは笑う。
「よし! 城は目と鼻の先だ! 行こう!」
ぼくは返事もすることなく帰ろうとした。
でも、 目と鼻の先に迫った城を見ると、そんなことはできなかった。
それは逆光に出で立つ、黒い巨人のようだった。
その暗闇は心の中に入り込み、恐怖を叩き起こした。
興奮も起き上がった。
片足が後ろに引き下がる。
視線は城から離せない。
気づけば、巨岩の上に立っていた。




