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アル≒テミス  作者: 谷 風汰
第1章 逃走編

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第3話 「到達」

 黒い塊はぼくを見下ろしていた。

 それは兵士だった。

 二十頭の馬と二十人の人間だった。


「ここで何をしている?」


 リーダーと思しき男が言った。


「あ⋯⋯や⋯⋯」


 震えが収まらず、口が上手く回らない。


「おい、治癒魔術をかけてやれ。怪我をしている」


 男は言った。


 最後尾にいた男がやってきて、ぼくを治療した。

 体中の擦り傷やアザは綺麗に消えた。

 心も少し落ち着いた。


 リーダーが口を開く。


「で、ここで何をしていた?」

「隣町にいく途中で⋯そしたらアレが⋯」


 精一杯口を動かしつつ、内容はぼんやりと伝えた。

 何も悪いことはしていないけど、ロイのこともあるし全て言うべきではないと思った。

 でも、『ロイを助けてくれ』とだけは伝えるべきだろうか。


「そうか。とにかくここは危険だ。早く家へ帰るように」

「⋯⋯はい」


 ぼくがそう返事をすると、兵士たちは城の方へ去っていった。


 ロイのことを話さなかったということは、まだ見つかっていないということだろうか。

 でもあいつのことだ。

 上手く彼らを避けているに違いない。


 ぼくはそう考えると、兵士たちに見つからないように、ぐるっと左側を大きく回って城の裏側に行くことにした。



---



 かなり時間がかかったが、裏側までたどり着いた。

 太陽の光を反射して城は眩しく光っている。


 まだ遠い。

 でも、兵士は裏側にはいない。


 巨岩に張り付いている物体に気づく。

 微妙に動いているようだ。

 虫?

 いや、大きさ的にありえない。

 魔物?

 確かに、城に近づけば近づくほど強烈な魔力を感じる。

 そのことを感知し寄ってきたのだろうか?


 ぼくは近づきつつも、すこし右側に寄りながら走ることにした



 二十分ほど走っただろうか。

 まだ目の前ではないが、街の残骸を抜けてかなり近くまで来た。

 ぼくは、城、というより巨岩の迫力に目を見開いていた。


 圧巻だった。

 圧死しそうだった。


 そして気づく。

 遥か上空、巨岩に張り付く謎の物体。

 それは四肢を前後しながら城にまで到達しようとしていた。


 あれは生き物だ。

 人間だ。


 ロイだ。



---



 固まって動けなかった。

 そんな原始的な登り方するのか。

 まああいつは魔術が苦手だし、筋肉達磨だし。


 いやそんなことより行かないと!!


 ぼくはロイの真下の方まで行き、土魔術を使った。

 人間が二人入れるほどの円が地面に現れ、真っ直ぐにせり上がる。

 それは生きた塔のように空を目指した。


 しばらく経ち、岩を素手で登る阿呆のところに到達した。


「ロイ!」


 ぼくは言った。


「ハル!」


 ロイも言った。

 満面の笑みを浮かべている。

 憎たらしい笑顔だ。


 一瞬助けるかどうか躊躇したが、仕方なく右手を伸ばした。


「ほら」

「ああ!」


 ロイは返事をすると、ぼくの手を掴んだ。

 そして岩から跳躍し、土の塔に着地した。


「無茶するなよ、ほんと」

「ごめんごめん。あとちょっとで限界だったよ。

 ありがとう、ハル」


 楽しそうにロイは笑う。


「よし! 城は目と鼻の先だ! 行こう!」


 ぼくは返事もすることなく帰ろうとした。

 でも、 目と鼻の先に迫った城を見ると、そんなことはできなかった。


 それは逆光に出で立つ、黒い巨人のようだった。

 その暗闇は心の中に入り込み、恐怖を叩き起こした。

 興奮も起き上がった。


 片足が後ろに引き下がる。

 視線は城から離せない。


 気づけば、巨岩の上に立っていた。 

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