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アル≒テミス  作者: 谷 風汰
第4章 愛の魔女編

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第27話 「嵐の魔女」

 その人は、流れる雲のように現れた。

 ぼくらの背後に、一切気配を感じさせずに現れた。

 

 アマラさんの魔力が湧き上がる。

 滝のように流れが駆け巡る。


 ぼくとロイは違和感を感じ、彼女が見ている方を見た。


 そこには美青年が立っていた。

 青い魔石がついた大きな杖に、灰色のローブ、そしてなにより、凛としたその顔。

 アマラさんとは違う、氷の彫刻のような美しさだった。


 彼はこちらに近づく。

 コツ、コツ、と、杖が地面に触れる。

 魔石が青く輝く。


 アマラさんの前で立ち止まった。

 ぼくとロイの方を見ている。

 

 口を開く。


「救いようがないな」


 間違いなく、そう言った。

 

 ぼくは訳が分からず、立ち尽くすしかなかった。

 ロイは腰の剣を握っている。


「どうして?」


 アマラさんは言った。


 彼は口を開く。


「次は男児趣味か? アマラ」


 

‐‐‐



 だん⋯⋯なんて?


「もう、違うわよシフォンちゃん」


 アマラさんはその人の肩を叩いた。


「何が違う?」

「弟子よ弟子」

「という建前だろう」

「違うの!」


 何か仲が良さそうだぞ。

 というか『ちゃん』って言った?


 アマラさんはぼくらの方を向き、シフォンちゃんなる人に言った。


「紹介するわ。ハルとロイ、私の可愛い弟子」

「ふん」

「ほら、シフォンちゃんも自己紹介して」

「お前がしただろう」

「名前だけじゃなくて」


 シフォンちゃんなる人はこちらを向いた。


「私はシフォン。アマラとは、根っこの先まで腐り切った仲だ」


 そう言ったシフォンちゃんさんは、とても悪い人には見えなかった。


「ちょっと。友達でしょう?」

「ふん」


 満更でもない様子。


「シフォンちゃんわね、こう見えても女の子だから、優しくするのよ」

「どっちでもいい」


 女性だった。

 短く白い髪は確かに男性のようだったけど、そう言われてみれば確かに体つきは女性のように思えた。


「あと、嵐の魔女とかって言われてるすごい人なの」

「お前も同じだろう」


 アマラさんは笑っている。

 シフォンちゃんさんは笑っていないが、遠く山の方を見つめている。

 なんだこの二人。



 とりあえず、ぼくらは館の中に入ることにした。

 居間のテーブルに四人。


「で、彼氏できた?」

「知るか」


 何の話だろう。


「そう、それで今日は?」


 アマラさんは、隣りに座っているシフォンちゃんさんに聞く。


「分かってるだろう、お前も」

「まあ⋯⋯シュムガルのことね」

「ああ、百年振りか?」

「そのくらいね」


 聞いたことのない単語が聞こえた。

 なんの話だろう。


「シュムガルってなんですか?」


 ロイが言った。


「竜の名前よ」


 アマラさんは言った。

 

 竜って⋯⋯あの?


「⋯⋯ハル、もしかして」

「ああ」


 ぼくらは顔を見合わせる。


「どうしたの?」

「俺たち、その竜に会っていると思います」

「なんだと?」


 シフォンちゃんさんは目を見開いた。


「あの城が落ちてきた日、俺たちはそこにいました」

「どうして?」

「たまたま近くの丘に登ってたんです。

 そしたらあの事件が起きて、そしたら竜も現れて」

「偶然居合わせたってところね」


 アマラさんは言った。


 シフォンちゃんさんは黙っている。


「あの、竜がどうしたんですか?」

「私は竜を追っている」


 シフォンちゃんさんは言った。


「なぜですか?」

「殺すためだ」


 ころ⋯⋯。

 あの竜を? 

 あの、騎士団をゴミみたいに壊滅させた竜を?

 無茶だ。


 というか⋯⋯。


「ぼくたち、魔術師が竜と戦っているのを見たんですけど」

「私だ」


 やっぱり。

 確かに嵐の魔女、彼女がそうなら納得だ。

 あの異常な魔術。

 あれが魔女。


「今回も取り逃がしたのね」

「ああ、不甲斐ない」


 シフォンちゃんさんは下を向いた。

 悔しそうだ。


「落ち込まないでよ、また機会はあるわ」

「分かっている」

「良かったら一人貸すわよ、気分転換に」

「いらん」


 何の話だろう。


「アマラ、バグの葉はあるか?」

「ええ、ちょっと待ってね、今淹れるわ」


 アマラさんはカップを取り、お茶を注いだ。

 あのまずい粉を入れる。

  

 シフォンちゃんさんは受け取ると、ぐいっとそれを飲んだ。


「びゃあーうまいな、これは」


 うまいらしい。

 ぼくは三ヶ月飲んできたが、未だにまずいとしか思えない。


「⋯⋯本当に美味しいんですか?」


 ぼくは言った。


「ああ、確かに最初はまずい。でも飲み続ければ慣れる」


 慣れてない。


「シフォンちゃん、飲みすぎて道で倒れてたことあるもんね」

「昔の話だ」


 アマラさんはニヤニヤしている。


「ハルと言ったな、お前は魔術師か?」

「はい」

「いいか、飲み過ぎは禁物だが、飲み続ければ土台ができる。

 より良い魔術を使うためのな」

「あ、ありがとうございます」


 仕方ない。

 これも訓練のうちだ。

 やるしかない。


「でもシフォンちゃんと飲むのはだめよ。朝まで付き合わされるんだから」

「昔の話だ」


 どんな人なんだろうか、この人は。

 最初は凛としていて、アマラさんとは真逆のタイプかと思っていたけど、いや真逆なのはそうだけど、また変わった人らしい。


「あら、そろそろ準備しなきゃ。お客さんが来ちゃう」

「相変わらすだな」

「ええ、今日はシフォンちゃんがいるから心強いわ」

「は?」



‐‐‐



 ぼくは葉っぱ一丁になっている。

 ロイも。


 水晶台の椅子にはアマラさん、そしてシフォンちゃんさん。

 彼女も占いができるのだろうか?

 渋い顔で座っているけど。


「どうぞ、お掛けになって」


 入ってきたのは、珍しく女性。

 ドレスを着ている。


「今日はどうされまして?」

「はい、かなり身分が上の人が相手でして⋯⋯どうすればよいのかと」


 女性は言った。


「そうね」


 水晶に手をかざす。


「⋯⋯見える⋯⋯見えるわ」


 輝きを増す。


「彼、目をかけている人がすでに三人いるわね」

「そうですか⋯⋯」

「ええ、正直望みは薄いわ」

「はい⋯⋯」

「であれば、思い切って仕掛けてみましょう。色を使って」

「はあ」


 アマラさんは言った。

 本当にそれで良いのだろうか?


「シフォンちゃんはどう思う?」

「諦めたほうがいい」


 女性はビクッとした。


「まず、身分違いの恋など成功できん。

 夢を見るな。理想を落とせ。

 人間は程度の同じような人間と惹かれ合うものだ」 


 女性は蒼白。

 

「それに、こんな詐欺まがいの女にすがっている時点でその歪んだ精神性を認識したほうが良い。

 金だけじゃなく心まで搾り取られるぞ。

 愛の魔女だなんだと言っているがその実やっているのは、純金の看板を掲げた救済商売、人の心の闇を財布の煌めきに変える甘い言葉の錬金術、そこに愛などはなく⋯⋯」


 アマラさんも蒼白。


「あーちょっとごめんなさいねー。ほらシフォンちゃん、休憩入っていいわよ」

「? そうか、まあよく考えることだな」


 シフォンちゃんさんは真剣な顔で言った。

 え、本気で言ってたの??


 案の定、女性は泣いていた。

 鼻をすする音が静かな部屋に響いた。


 アマラさんは困惑している。


「帰ります⋯⋯お代は置いておきますから⋯⋯」


 そそくさと去って行った。

 ドレスが悲しく揺れていた。


 水晶は濁りを増している。

 アマラさんは、じっとそれを見つめている。


 そろそろ磨かなきゃ。

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