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アル≒テミス  作者: 谷 風汰
第4章 愛の魔女編

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第26話 「修行」

 翌日、朝起きて館の中を歩いていると、小さな生き物が所々にいることに気づいた。

 普通の動物もいれば魔物もいる。

 襲われることはなかったが、朝見ただけで数十匹もいたからびっくりした。

 生き物が好きなんだろうか。


「あら、おはよう」


 一階の居間に入ると、中にいたアマラさんが言った。

 カップにお茶を注いでいる。

 朝なのに見た目は完成されており、相変わらずの美しさだった。

 なぜか肩に鳥が止まっているけど。


「おはようございます」


 ぼくとロイは言った。


 ロイはぼさぼさ髪、ぼくはシバシバまなこ、この空間に不釣り合いすぎて、本当にここにいて良いのか不安になった。


「飲む?」

「はい」


 アマラさんはカップを二つ用意してお茶を注いだ。

 緑色の粉末を加える。


「それ、なんですか?」


 テーブルに近づき、ロイが聞く。


「魔素を多く含んだ葉っぱの粉よ。修行に備えてね」


 お茶は緑色に染まっている。

 透き通った緑色。

 

 六人がけのテーブルに座った。

 ネズミが三匹いる。


 ぼくはカップを口に運ぶ。


「⋯⋯お、美味しいです」

「うそね」


 ばれた。


「ロイ、どう?」

「? 普通に飲めるけど」


 味覚が無いのか。お前は。


 異常に苦かった。

 庭によくいる臭い虫を噛み砕いたらこんな感じなんだろうな、という味だった。

 喉が締め付けられている気分になる。


「これからは毎日飲むの」

「え」

「すぐ慣れるわ」


 本当だろうか。

 一杯なら、いけるかな。


「一日三杯ね」



‐‐‐



 朝、昼は魔術の訓練、夜は仕事だ。

 今は館の庭にいる。

 度々葉っぱ一丁の男たちがウロウロしていてやりにくい。

 

「この修行の目標は一つよ」

「はい」


 ぼくらは言った。


「『活性化』、それを習得すること」

「なんですか? それ」


 ロイが言った。

 

「体中に満ちている魔素の流れを速めること。

 あくまで感覚的な話だけど」


 魔術とは、体中に流れている魔素を水や土に変化させている、というのは先生からも習った。

 

「これを習うのは魔術大学へと進んでからだから、ちょっと難しいけどね」

「どのくらいかかるんですか?」


 ぼくは聞く。


「うーん⋯⋯大学で教わるなら一年、私なら三ヶ月、というところかしら。

 あなたたちの素養にもよるけど」

「結構⋯⋯かかりますね」

「焦りは禁物。空の書は逃げないわ」


 大丈夫だろうか。

 ぼくらが見つける前に誰かに先を越されてしまったら⋯⋯。


「そもそもね、魔族の村の辺りは強い魔物がウジャウジャいるの。

 あなたたち程度じゃひき肉になっておしまいよ」


 ひき肉⋯⋯それは嫌だ。

 頑張ろう。


「俺はいけるよ」


 ロイが言った。


「ひき肉」


 怖い声だった。

 この人には逆らえない。


「じゃあまずは、あなたたちの得意分野を見ましょうか」


 そう言うと、アマラさんはぼくの方に近づいてきた。

 目の前に立つ。

 顔が近づく。

 赤い髪が顔に触れる。

 彼女の息遣いが、ぼくの耳を赤く染める。


 おでことおでこが触れた。


「ちょ⋯⋯」


 そういうのはまだ心の準備が⋯⋯!!


「あなた、すごい陰ね」

「へ?」

「びっくりするくらい陰だわ」


 らしい。


 アマラさんはぼくから離れる。


「どういう意味ですか?」

「魔術には陰と陽があるの。

 基本的にはどっちの要素も持っているものだけど、あなたはびっくりするくらい陰だわ」

「それって、良いことなんですか?」

「良いも悪いもないわ。適性の話だから」


 よかった。  

 才能なし、って言われたら落ち込むところだった。


「⋯⋯っていうかあなた、臭いわね」


 それは関係ないでしょう!!


 ぼくは体を臭う。


「体臭の話じゃないわ。

 何ていうか⋯⋯あまりに陰過ぎるのもあるけど⋯⋯それ以上に変な匂いがするの」

「それは⋯⋯良いことなんですか?」

「さあ」


 才能なし、ですか?


「何か変わったことはなかった? 最近」

「そうですね⋯⋯」


 何かあっただろうか。

 うーん。


 そうだ。

 あの事件の日⋯⋯。


「⋯⋯何回か、不気味な声のようなものが頭に鳴った⋯⋯ことはあります⋯⋯」

「それね」

「何なんでしょうか?」

「さあ、分からない。一応気にしてたほうが良いわね」


 はあ。

 気にするかあ。

 何なんだろう。


 今度は、アマラさんはロイの方に近づいた。

 

「あなたは⋯⋯びっくりするぐらい陽ね」


 ぼくと真逆だ。

 というか、あんなに顔が近づいているのに平然としてやがる。


「へえ」


 ロイは興味が無さそうだ。


「魔術の訓練だけど、あなたも関係あるのよ。

 活性化を習得すれば、身体強化の魔術も使えるんだから」


 ロイの目が輝いた。


「早くやろう!!」

「お願いします、アマラさん」

 

 ぼくらは言う。


「ええ。学校じゃ教わらないこと、教えてあげる♡」



‐‐‐



 訓練が始まった。


 まずは庭をひたすら走る。

 これは先生にもやらされた。

 何周も何周も走ると、次第に体が軽くなってくるから不思議だ。

 アマラさんによれば、人間は呼吸によって魔素を体に取り込んでいるらしい。

 これに関して巷では知られていないそうだが、魔女さんレベルになると感覚で分かるんだとか。

 あとロイの体力が無尽蔵すぎてムカついた。

 アマラさんもお手本に走っていたが、一日中走るので退屈だった。

 

 次にひたすら瞑想。

 呼吸に意識を向ける。

 まずは十分から。

 ロイは二秒で脱落していた。 

 ほくそ笑む。

 アマラさんは一日中動かないので退屈だった。


 それ以外は個別の魔術の練習だ。

 


 これをひたすら繰り返し、二週間が経った。

 長距離走は倍ぐらいに距離が伸びた。

 瞑想中に体が熱くなるのを感じた。


 一ヶ月。

 距離は伸び悩む。

 瞑想もあまり変わらない。


 二ヶ月。

 伸び悩む。

 瞑想中に体が湧き上がる感覚を覚える。

 

 三ヶ月。

 かすかな活性化の影響で、距離が更に倍になった。ロイはその更に倍。

 瞑想は二時間を超える。ロイは半分。


「かなり上達してきたわね」


 四ヶ月。

 あれ? 三ヶ月って言ってたような⋯⋯。


「アマラさん」

「ん、まあ誤差ね」

「そうですか」

「とりあえずは、二人とも習得した、ということで良いんじゃないかしら」

「本当ですか!?」


 ぼくらはお互いの手を合わせた。

 

「ロイも全然動かなくなったもんな」

「うん、ムズムズする感覚は消えたよ」


 自信満々にロイは言った。

 最初は酷かったけど。

 暴れ出すかと思ったくらい。


「じゃあ、実践に行きましょうか」


 アマラさんがそう言った、そのときだった。


 灰色のローブを着た魔術師が、ぼくらの前に現れたのは。

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