第25話 「愛の魔女」
「結婚⋯⋯相談所⋯⋯?」
ぼくは言った。
「ええ、そうよ」
「何なんですか? それ」
「婚期を逃した旅人や商人に結婚の助言をするの。
たまに偉い人もこっそりくるけどね」
な、なるほど⋯⋯。
だから『子どもが行くところじゃない』って言ってたのか。
アマラさんは、急にこちらに顔を近づけた。
目と鼻の先。
「可愛いのね」
美しい顔が視界を占める。
心臓がバクバクする。
の、のまれる⋯⋯!!
ぼくはとびのいた。
これが愛の魔術か⋯⋯?
なんて強力で、凶悪な⋯⋯!!
「冗談よ」
そう言うと、アマラさんは微笑した。
凶悪な笑顔。
「それで、どうしてここに来たのかしら?」
そうだ。
忘れていた。
「俺たち、魔族の村に、空の書を探しに行きたいんです。
それでフランソワ先生が魔女さんを頼れって言ったんです」
ロイが言った。
感謝だ。
「フランソワ⋯⋯? へえ、彼が」
アマラさんは目を細めた。
「彼の考えていることは大体分かるわ。
魔族の村は強い魔物がウジャウジャいるから、私に魔術を教わってこい、ていうところでしょうね」
「⋯⋯そうですね」
「いいわ」
あっさりと了承してくれた。
流石先生だ。
「その代わり、ここで働いてね」
え。
「ぼくたちがですか?」
「ええ」
働く⋯⋯。
「大丈夫よ。簡単だから。
あなた達みたいな年頃の子が好きな人も偉い人にはいるしね。
とりあえず、中に入りましょう」
アマラさんはそう言うと、館に向かって歩き出した。
ついていく。
「ところで⋯⋯あの男の人たちは何なんですか?」
ぼくは聞いた。
流石に気になって仕方がなかった。
「従業員」
「⋯⋯へえ」
「もちろん自主的にやってるのよ」
「⋯⋯へえ、でも、さっき道で脱獄した人を見かけたんですが⋯⋯」
「そうね、たまに我に返ってしまうんでしょうね」
「そうですか」
四角形の彼らの列に入った。
真正面を真顔で見つめている。
居心地が悪い。
「えーっと⋯⋯ぼくらもあの格好を?」
「そうね」
「そうですか」
先生を恨んだ。
「みんなも中に入りなさい」
アマラさんは男たちに言った。
綺麗な一つの列が出来る。
トカゲを玄関に置き、館に入った。
赤い絨毯が床に敷かれていて、壁際には長椅子が置いてある。
天井に吊るされているシャンデリアが綺麗だ。
「今日はお客さんはいないんですか?」
ロイが言った。
「ええ、基本は夜だから。相手もこっそり来たいみたいね」
なるほど。
やっぱり人には言いづらいものなのかな。
奥の部屋に入った。
一脚の椅子と、その前に大きな机が置いてある。
その上には赤い布が敷かれてあり、きれいな水晶があった。
「ここが相談室」
そう言うと、アマラさんは大きな机の方に座り、
「じゃあ椅子に座って」
ぼくらを促した。
「何をするんですか?」
「結婚占いよ。将来どんな人と結ばれるか、私が見てあげる」
これも商品の一部なのか。
ちょっと気になる。
「分かりました!」
ぼくは言った。
椅子に座ると、アマラさんは水晶に手をかざした。
赤く光る。
「見える⋯⋯見えるわ⋯⋯」
ドキリとする。
汗が滴る。
「あなた⋯⋯想い人がいるわね」
「どどどどうして?」
「見えるわ⋯⋯そして⋯⋯その人とは1,2年前に出会った⋯⋯
さらに⋯⋯何か貰ったわね⋯⋯?」
「はっ!」
「その首にかけている何か、それだわ」
当たってる!
「じゃあ、その子との将来はどうなるか⋯⋯」
水晶はさらに輝きを増した。
目が眩むほどだった。
アマラさんも細目になっている。
「⋯⋯ん⋯⋯あれ?⋯⋯ちょっと待ってね」
なんだろう?
「⋯⋯見える⋯⋯見える⋯⋯あれ」
水晶はさらに⋯⋯。
「眩し」
アマラさんは言った。
光は弱まった。
「うん、そうね、見えないわ。あなた」
「え⋯⋯」
「なんでか分からないけど、あなたの想い人、もやがかかったようになってるの」
それって、もしかして⋯⋯。
「あの、彼女、ちょっと変わってるんです。
ぼくらとは違くて」
違う世界から来たことと関係あるのか?
「⋯⋯へえ、もしかしたら関係あるのかもね。
どちらにせよ、その人⋯⋯」
「歴史に名を残すわ」
ぼくの目を見て、そう言った。
「え」
「だからアドバイスとしては、あなたもそれに並ぶくらい頑張るしかないってことね」
「ふわっとしてますね」
「しょうがないじゃない。あんまり見えないんだもの」
アマラさんは小声で言った。
悔しそうだった。
「あなたもやる?」
「いや、俺はいいです」
「そう、あなた、薄そうだもんね」
いいのかロイ!!
「じゃあ、こんなところにして、とりあえず仕事の説明をしましょう。
魔術の修行は明日からね」
「はい」
アマラさんはぼくらにここで待つよう言って、部屋を出ていった。
「いいのか? ロイ」
「え? うん」
「そっか」
「それより修行がしたいよ、俺」
それはそうだけど、こちらも何かを返さないとしょうがない。
「まあ、頑張ろう」
「うん」
どんなことをするのか楽しみだ。
‐‐‐
夜、ぼくは葉っぱ一丁になっていた。
もちろんロイも。
なぜこんな格好をするのかと聞いたら『趣味』だと答えていた。
お客さんは男が多いのに、これで良いのだろうか。
何をするのかというと、まずアマラさんの横に突っ立っていること。
それだけで絵になるから、と言っていた。
よく分からない。
次に、水晶を綺麗にすること。
アマラさん曰く、あれは魔術によって光り輝いているが、溜まっていく魔素を取り除かないと段々暗く濁っていくらしい。
それを取り除いてくれ、と。
ちなみに水晶がなくても占いはできるらしい。
ただの飾り。
今は、占いをする横で突っ立っている。
動いちゃいけないのは結構辛い。
足がムズムズする。
ロイはぼくより辛いらしく、たまにあらぬ方向に体を曲げていた。
「どうぞ、お掛けになって」
「はい」
ローブを羽織った男。
「今日はどうされまして?」
「故郷に想っている人がいるのですが、どういう風に会いにいけば良いのか分からなくて」
「そうね⋯⋯」
水晶が光った。
「⋯⋯見える⋯⋯見えるわ⋯⋯彼女、毎日教会に行ってるわね」
「はい、熱心な信徒でした」
「⋯⋯つい最近、失恋してるわね」
「そうなんですか!?」
「ええ、つまり傷心中ね、彼女。
教会が心の拠り所になっているのかしら」
「そんな⋯⋯」
「ということは、彼女が教会を出た直後、そこを狙いなさい」
「分かりました! ありがとうございます!!」
男は去っていった。
「どうぞ、お掛けになって」
「はい」
高そうな服を着た男。
こちらをジロジロと見ている。
「今日はどうされまして?」
「⋯⋯ええ、まあ、射止めたい人が⋯⋯いましてね。
どんなものが好きなのかを知りたいのです」
「そうね⋯⋯」
水晶が光った。
「⋯⋯見える⋯⋯見えるわ⋯⋯植物の標本が好きみたいね。
買ってプレゼントしてみたらどうかしら」
「あ、ありがとうございます⋯⋯。
それにしても、可愛らしい従業員がいらっしゃいますな」
「そうね」
「また来ましょう」
男は去っていった。
若干身震いがした。
「じゃあ、今日はここまでね」
アマラさんは言った。
「水晶は明日でいいわ。もう遅いし、寝る準備をしましょう」
「はい」
ぼくらは従業員室に行き服を着て、占い室に戻った。
「こっちよ」
寝室に案内してくれるらしい。
館はかなり大きいため、使っていない部屋がかなりあるらしい。
二階に上がった。
ギシギシと、木で出来た床が軋む。
少し不気味だ。
「どうだった? 初仕事」
アマラさんは言った。
「⋯⋯どうと言われても、立っているだけでしたし」
ぼくは言った。
「役に立ったわ」
「? なら良かったです」
と、しておこう。
「でも足が疲れました。ね、ロイ」
「うん、動けないのは辛いですよ」
「徐々に慣れるわ」
奥の部屋についた。
アマラさんが扉を開ける。
「ここよ」
部屋に入ると、大きなベッドが二つ目に入った。
シンプルな部屋だ。
疲れも溜まったし、今日はぐっすり眠れるだろう。
明日も頑張ろう。
仕事はうまく出来てるか分からないけど、ここに来ている人たちはみんな悩み事を抱えていて、それぞれが結婚という大事なことに悩んでいるんだ。
真面目にやり切ろう。
「アマラさん、明日も頑張ります。
お客さんが、愛する人と出会えるように」
ぼくは言った。
「良い心意気よ。でもね」
「愛なんてないわ」
そう言うとアマラさんは微笑み、扉を閉めた。
静かな夜に、ガチャリという音が響いた。




