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アル≒テミス  作者: 谷 風汰
第2章 出会い編

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第12話 「王都」

 王都への道のりは意外と短かった。

 二、三日程度だ。

 王都方面へぼくたちがかなり進んでいたことと、そもそも屋敷のあったクラリス領が王都に近いからだ。


 旅はかなり快適で、馬の乗り心地は素晴らしいし、蓄えもたくさんあった。

 ぼくらには到底知り得ないような旅の知識もたくさん持っていた。

 それでも遭難明けだったのは堪えたけど。


 フランソワさんは、やっぱり調査に行くべきだったかどうか、かなり悩んでいた。

 でも学校もあるし、今から戻っても仕方がないとのことだ。

 仲間からは「どうせまた迷子になるんだからやめておけ」と釘を刺されていた。

 常習犯らしい。


 トリス王国王都、シエナ。

 王国最大の都市。

 魔神教と共に発展した文化の中心であり、特に絵画や建築、詩の文化が盛んだ。

 しかし徐々に王権は強まっており、教会権力は冬の時代を迎えている。

 でもまだまだ健在。

 一度都に入れば、その荘厳さを嫌でも目にすることになるだろう。

 僕は一度も見たことないけど。




 ついに、王都を囲む城壁の前まできた。


「すご!!!」


 ロイが身を乗り出す。


 都全体を覆い隠すような巨大な壁だった。

 見上げても頂上は見えない。

 また、炎にたかる虫のように人間やら馬車やらがウヨウヨと集まっている。


 車輪の音。

 人の声。

 いくつもの雑音が、合唱のように都市の活気を歌っている。


「防魔壁だ」


 フランソワさんは言う。


「石で作られた灰色の壁に、魔力を吸収する魔土が詰め込まれている。

 私からすれば、もう少し改善の余地があるがね」


 少し不満げだ。

 こういうことに詳しいのだろうか。


 門の前まで来た。


 あれ?

 さっきまでウヨウヨといた人たちは?


 と、思い右の方を見ると、彼らは別の大きな門にウヨウヨしていた。

 ぼくらが通るのは、どうやら違う場所らしい。


 目の前に仁王立ちしている門は、所々に金や銀の装飾がされており、いかにも偉そうな雰囲気を醸し出していた。

 これは上流階級用だ。


 彼は何者なのだろうか?


 フランソワさんはバッジのようなものを取り出し、門番の男に見せる。

 男は一礼をする。

 ぼくたちは馬から降り、門を通った。


 静寂が突き抜けた。

 整然と敷き詰められた石畳に、白い尖塔のような街路樹。

 左右には大きな庭が広がっており、シンプルだが洗練された服装をした人々がまばらに歩いている。


 美しい世界だ。

 到底手にできないような、富も美もここにある。

 それらは仮面のように目の前を覆っている。

 ただ、その背後にある醜い世界が、ぼくにはガラスのように透けて見えていた。



---



 そのまま数十分ほど歩き、内壁を通り、教会区に入った。

 この奥に貴族が住んでいる場所、王族が住んでいる場所があるようだ。


「ここだよ」


 そこにあったのは、平原のように広い庭(?)だった。

 門は大きいが何の装飾もなく、無骨な印象を感じた。

 また、庭(?)には、家より大きな木や植物が所々に生えており、二羽鶏がいた。 


 ここは本当に内区だろうか?

 というか、王都だろうか?

 まるで都市の中に平野が広がっているような、そんな感じだ。

 貴族だから広い庭を持っているとか、そんなレベルじゃない。

 人が所有する限度を超えている。 


「この目の前にある何かは庭ですか?」


 ロイは言った。


「そうだが?」


 フランソワさんは言った。


 庭(!)。


「広い⋯⋯ですね⋯⋯」

「ああ、そういうことか。

 確かに、ここまでの大きさのものを持っている人間は中々いないだろう」


 フランソワさんは風のように答えた。


「この先に屋敷が?」

「そうだ」


 見えない。


「気になっていたのですが、フランソワさんは何者なんですか?」


 ぼくは言った。


「そうだね⋯⋯」


 フランソワさんは斜め上を見る。


「物好きな中年さ」


 ぼくはこれから、身元不明の中年と暮らすことになるらしい。



---



 屋敷に入った。

 そこは二階建ての幅広い屋敷で、門から二十分ほど歩いたところにあった。

 大きいのは大きいが、クラリス家のものほどではないし、貴族のものとしても小さめの部類だった。

 何より、庭とのバランスが不自然だ。

 家も大きくしろ。


「疲れただろう。まずは湯でも浸かってきなさい。

 体も汚れているからね」


 フランソワさんはそう言うと使用人を呼んだ。

 赤い服を着た人が現れ、お風呂に案内された。

 彼はあまり使わないそうだが、流石に森の中を彷徨い続けたぼくたちは汚かったらしい。


 お風呂から上がると食卓に案内された。

 長テーブルの上には、焼き魚、スープ、サラダなどがシンプルに並んでいた。


「すまないね。急だったから、大層な食事は用意できなかった」


 フランソワさんは言った。


「とんでもないです」


 ぼくはもうとにかく、温かい食事が食べたくて食べたくて仕方がなかった。

 ロイも横でソワソワしている。


「それでは」


 フランソワさんはそう言うと下を向いて両手を組んだ。

 ぼくも慌てて真似をする。



「魔神様に感謝を」





 幸せだった。

 こんなにも食事に感謝する日が来るとは。

 魔神教を信仰しているわけではないが、それでも神に感謝せざるを得なかった。


 ロイも恍惚とした表情をしている。

 しばらくは動けないと思う。


「口に合ったかね?」


 フランソワさんは言った。


「とても美味しかったです」


 ぼくとロイは言った。


 実際、久しぶりの温かい食事、ということを抜きにしても、とんでもなく美味しい料理だった。

 どんな料理人を雇っているのだろう。


「それは良かった。私も腕が鳴る。

 明日はしっかり作るから、楽しみにしておくと良い」

「ありがとうございます⋯⋯って、フランソワさんが作っているんですか!?」

「まあ一部だけ、ね」


 彼は自慢げに言った。

 使用人は微笑んでいる。


 ぼくの心は、ポカポカと暖まっていた。

 それは料理のせいではなく、この空間自体が体温のような温もりを帯びていて、それが心を包んだのだ。

 こんなことは生まれて初めてだと思う。


「もう夜も更けてきた。寝ることにしよう」


 フランソワさんは言った。


 使用人がやってきて、寝室に案内される。

 広間に出て階段を上がる。

 窓から入る月明かりが、ぼんやりと壁に滲んでいる。


「疲れたね」


 ロイは言った。


「うん⋯⋯もう早く眠りたい」


 静かな屋敷に愚痴は響き、よりいっそう疲れを感じさせた。


 やっと、ちゃんと眠れる。

 もう外で寝るのはごめんだ。

 快適な屋根の下、ふかふかのベッドに体を沈めたい。

 そうすれば、全身の疲れなんて吹っ飛ぶだろう。


 早く。

 早く。

 眠りたい。


 二階に上がり、寝室の近くに来たとき、その向かい側にある扉が開いた。

 ギィ、という音が鳴る。 


 誰かが出てきた。

 その人物は、黒い髪を肩までおろし、長いスカートを履いていた。

 背丈はぼくと同じくらいだ。


 彼女は、撫でるように扉を締め、ガチャ、という音が鳴ると立ち止まり、こちらを向いた。

 黒髪が揺れる。

 ロウソクの炎は暗がりに染み込む。


 そこには、右目に大きなアザのある、可憐な少女が立っていた。

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