戦火の余韻
都市の中心に足を踏み入れた瞬間、静寂が襲った。
瓦礫の山に囲まれ、煙はまだ立ち上るが、敵の銃声は途絶えていた。丘の上から見下ろした時とは違う、殺伐とした静けさだった。
仲間たちは建物の影に伏せ、互いの顔を確かめ合う。疲労で肩は落ち、足は泥と血で重い。息を切らせながら、皆が静かに息を整えていた。
瓦礫の間に横たわるドイツ兵、倒れた仲間、そして逃げ遅れた民間人――
その光景が、戦いの激しさと犠牲の大きさを物語っていた。
「……終わったのか?」
小さな声が漏れる。隣の兵士は首を振り、視線を遠くに向けた。
「終わりじゃない……でも、ひとまず……」
言葉は途切れ、静寂が続いた。
建物の屋上から見下ろすと、街路には瓦礫と血の跡が混ざり、煙が漂っている。かすかに聞こえるのは、遠くで泣く子どもの声と、風に舞う砂の音だけ。
俺はライフルを肩に抱え、歩みを止めた。ここで生き延びたことが、果たして意味のあることなのか。倒れた仲間たちは何を思ったのか。
「水を……」
呻く声に振り返ると、肩を撃たれた兵士が壁にもたれかかっている。水筒を差し出すと、彼はわずかに笑みを浮かべ、唇を潤した。
その表情に、戦争の残酷さと、ほんのわずかな人間らしさが同居していることを感じた。
都市の制圧は、確かに戦術的な勝利だった。
だが、胸の奥には虚しさが残る。勝利の喜びはなく、ただ疲労と喪失感だけが残った。
俺は遠くを見つめ、微かに動く煙と瓦礫の中の影を追った。
――戦争はまだ終わっていない。次の街、次の丘、次の戦いが待っている。
倒れた仲間の声が心の奥で響く。
生き残った俺たちは、その声を胸に抱きながら、次へと歩みを進めるしかなかった。
静かな街路に、銃声の余韻だけが残った。
戦火の余韻。虚しさと疲労の匂い。
それでも俺たちは、前へ進む。倒れた者たちのために、生き延びるために。