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砂浜の檻

砂浜に身を伏せたまま、俺は呼吸を忘れていた。

機銃の弾が砂を弾き、熱い破片が頬をかすめる。頭を上げれば即死、這いつくばれば海の冷たさと血の匂いに押し潰される。


「動け! 遮蔽物まで前進だ!」

上官の声が飛んだが、誰も立ち上がらない。立ち上がった瞬間、数人の兵士が撃ち抜かれ、砂に沈んだからだ。


俺の横で、若い兵士が泣き叫んでいた。

「神よ……どうか……」

その声も、次の瞬間には爆発音にかき消された。迫撃砲が砂浜をえぐり、肉片と砂が空を舞う。鼓膜が破れそうな衝撃に、思わず耳を押さえた。


視界の端に、倒れた兵士の体がいくつも重なっている。彼らの亡骸が、唯一の「遮蔽物」だった。

俺は唇を噛み、震える手でその陰に身を寄せた。死者に守られるしかない現実に、吐き気が込み上げた。


「工兵だ! 道を開けろ!」

前方で数人の工兵が、爆薬を抱えて走り出した。鉄条網を爆破し、進路を作るためだ。

彼らは勇敢だった。しかし、半分以上が機銃で倒れ、残りも砂浜に崩れ落ちた。爆薬は爆ぜず、鉄条網は依然として行く手を塞いでいる。


俺は砂を掻きながら、少しずつ前へとにじり出た。背嚢の重さが背骨を押し潰し、靴の中は既に海水と血で満たされている。

遠くで誰かが叫んだ。

「煙幕を! 煙を張れ!」


白い煙が広がり始めると、一瞬だけ銃声が鈍った。その隙に数人が飛び出し、鉄条網に取り付いた。ワイヤーカッターで切り裂こうとするが、弾丸が容赦なく飛んでくる。


俺は震える足で立ち上がり、走った。砂浜は無限に続くかのように遠く、銃弾がすぐ耳元をかすめた。前方に倒れた兵士の背嚢を掴み、また身を伏せる。肺は炎のように痛み、視界は赤と灰色に染まっていた。


その時、地響きのような轟音が響いた。沖合の艦砲射撃が再び火を吹き、丘の上のドイツ軍陣地を叩き始めたのだ。砲弾が着弾するたび、砂煙と瓦礫が舞い上がる。


「今だ! 前へ!」

誰かの叫びが引き金となり、兵士たちが一斉に飛び出した。俺も歯を食いしばり、砂浜を駆けた。弾丸が背後をかすめ、爆発が足元を揺らす。それでも止まれなかった。


鉄条網の隙間が、煙の向こうに見えた。

生き残れるかどうかは分からない。ただ――前に進むしかなかった。

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