脱出方法って知ってる?
体の調子も良くなったことなので早速このダンジョンから抜け出すことにした。だが、1つ問題点がある。
「このダンジョンの帰り道、覚えてる?」
私のその言葉によって、場の空気が一気に凍りついてしまった。
ダンジョンは一度入ると抜け出せなくなる、まさに迷路だ。それ故に絶対にパーティーに1人は脱出魔法を使える人が必要なのだ。
そして今、私たちの中に脱出魔法を使える者はいない。つまり詰みというわけ!もう笑っちゃうよね!あっはっは!
「本当にどうしようかな...」
私は頭を抱えた。
ネフィリアが脱出魔法を使えないのは知っているためレイルに全て任せようと思っていたのだが、「私は使えないよ〜」みたいな顔をしている。
するとレイルが妙案を思いついたという表情を浮かべた。
「グレイヴの職って"死霊術師だよね。じゃあグレイヴのスキルを使ってヘビとかの死体を操って出口まで案内してもらえばいいんじゃない?」
「死体なんてないし、この杖を見てもそんなことが言えるのかな?」
行きの道を通った感じ、死体がほとんどなかった。こんな林の中のダンジョンなんて誰も来ないだろうから当たり前なんだけど、私にとっては死体がないのはかなり辛いことだ。能力の使用ができない。
そういえば言っていなかったかもしれないから言っておこう。私は別に『不老』だけしかスキルがないというわけではない。『死する傀儡』という死体を操るスキルとかも持っている。まああまり使わないのだが。
「じゃあどうしようかな...」
私とレイルは再び頭を抱えた。
するとネフィリアが口を開いた。
「...このダンジョン......一方通行だから、出られるよ」
「「えっ...?」」
ーーーーーーーー
「うわー!本当に外だ〜!」
ネフィリアが一方通行だと言ってくれなかったら出るのに何ヶ月かはかかっていた。
というか私はなんで一方通行だったことを忘れていたんだ。さっき入ってきたばっかりだったのに。
...気絶してたし、仕方ないよね!
私は気絶していたことを言い訳に考えるのをやめた。
とりあえずどう帰るかを考えよう。
アルセリオンまでおそらく徒歩で丸1日以上かかると思う。馬車で半日なんだからそれくらいだろう。
するとネフィリアが声を出した。
「...アルセリオンに行くのは、あの3人と鉢合わせる、可能性もある......少し、危険かもしれない」
そういえばそうだった。あの3人の存在を完全に忘れていた。おそらくあの3人はアルセリオンに帰ったんだろう。だったらアルセリオンに行くのはやめておいたほうがいいのかもしれない。もしあの3人と鉢合わせでもしたらダル絡みされるに違いない。
でもどうしようか。
なにか別の策を考えていると、あることを思いついた。
別にアルセリオンに帰らなければいけないわけではない。
アルセリオンより少し遠くにあるのだが、オベリオンという帝国がある。オベリオンにはギルドもあるし、アルセリオンに行かないといけない理由なんて特にないからオベリオンに行くのはかなりありだ。ただ、アルセリオンでは私たちが死んだということになるだろうからアルセリオンに帰るまで私たちは死んだと思われ続けることになるのだろう。それはそれで面白いので私は気にしないが、ネフィリアが...いや、ネフィリアはそういうことを気にしないか。
「ねえネフィリア。アルセリオンじゃなくてオベリオンに行ってもいい?」
「...いいと思う」
「わかった。じゃあ早速行こうか!」
そうして私たちは少し遠くにあるオベリオンに向かうことにした。
ーーーーーーーー
辺りも暗くなってきたので私たちは野宿の準備を始めた。ただ、私はほとんど何もしていない。というかネフィリアが全部しちゃったから私とレイルはやることが何もなかった。流石にネフィリアに申し訳なかったので、私とレイルで食材を集めることにした。その間、ネフィリアは休憩だ。
「...ねえ、グレイヴ」
山菜を回収しつつ、食べれそうな生物を探している時、レイルが私に話しかけてきた。
「どうしたの?」
「...私が堕天した理由、気になる?」
私はその言葉を聞いて動きを止めた。確かに堕天した理由が気になっていた。だがなぜ急にそう聞いてきたんだろうか。
今はとりあえず、本心を言おう。
「まあ、気になるよ」
レイルは木にもたれかかり、ゆっくり話し始めた。
「...私は、神を信じていた。罪を償おうとする者を救済するのが神の教えだと、信じていた。それなのに...」
瞬間、レイルの雰囲気が一気に悍ましくなった。
「それなのに、あいつらは罪を償おうとする者すらも焼き殺した。地獄に、永遠に消えることのない炎を放った。その瞬間に、私は神への愛想を尽くした」
「そうして神の軍隊に対して戦争をふっかけた。もちろん1人でね」
「...勝てたの?」
自分でも気がつかぬ間に口からその言葉が出ていた。結果はなんとなくわかっている。だが、聴きたくなった。
「惜しいところまではいったよ。大天使を何人か殺した」
「結局はその後のミカエル君、サリエル君、ラファエル君、ガブリエルの4人との戦闘で負けちゃったんだけどね。あの4人を同時に倒せるのはルシファー君くらいかな?」
レイルは少し悲しい表情を浮かべ、失笑した。
ルシファーというと何億年も前に堕天使となり、悪魔の王となった元熾天使のサタンのことだったか。
サタンと言わずルシファーと言うということは、レイルは相当昔に存在していた天使なんだろう。
だがそんなことが気になる前になぜ失笑したのかが気になった。ルシファーが悪魔となったことを思い出して悲しくなったんだろうか。
「本来なら私は反逆罪によって地獄の奥底に叩き落とされるはずだったんだけど、天使時代に役に立ってたからか、あのダンジョンに封印されるだけで済んだんだよ」
この話を聞いて、なんとも言えない気持ちになった。神々が罪を償おうとする人を焼き殺したのは事実だ。だが、神に反逆するのはやりすぎと感じてもおかしくはない。それこそ大天使を数人殺したというならば尚更だ。
この話には本当の意味での善人はいない。どちらも悪いところはある。だからこそ、少し悲しくなった。
「レイルも苦労したんだね」
「うん。伊達に長生きしてないからね!」
いつのまにかレイルから悍ましい雰囲気は消えており、先程までの麗しい雰囲気を纏っていた。
でも、どうしても引っかかるところがあった。
罪を償おうとする人を殺したから戦争をふっかけた、というのを考えれば考えるほどおかしいと思う部分が生まれた。
天使というのはどんなことがあろうとも神のことを信用し続ける。確かに焼き殺したというのも理由にあるんだろう。だが、それだけで戦争をふっかけたとは考えにくい。
まだレイルとは数時間しか関わっていないが話してみて、それで戦争をふっかけるような性格はしていないと思った。
なにか他に理由がありそうな気がする。
もしくは......いや、やめておこう。もしこれを聞いて正解だったとしても、私はレイルにどう声をかければいいかわからない。
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私たちはまだ完全に日が昇りきっておらず、橙色に空が染まっている頃に出発した。このくらいの時間帯に出発すればおそらく昼過ぎにはオベリオンに着くだろう。
ちなみに余談だが、私は朝が弱いのでネフィリアに優しく起こしてくれるよう頼んでおいた。そして朝、ほっぺたをぐに~っと伸ばされながら私はネフィリアに起こされた。これがネフィリア流の優しい起こし方だと知った。
「オベリオンは...あっちだよね?」
「...あっち」
ネフィリアは私が差した方向とは真逆の方向に指を差した。
恥ずかしかった。でも仕方ない。方向音痴なんだもん。
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度々道を間違えてはネフィリアに軌道修正をしてもらってを繰り返していると、大きな城門が見えてきた。出発してはや数時間、ようやくオベリオン帝国に着いたようだ。
入国のための審査を行うためそこそこ長い列に並び、待機した。
「審査って何をするの?」
レイルが私にそう聞いた。
「国によって違うんだけど、オベリオンの場合は『人間であるか』を確認するだけだよ。あとは『入国したい理由』。まあこれは観光したい、とだけ言えばそれでオッケーだよ」
私が個人的な旅行で行った国は複数ある。
東に位置する強大な力を持つ帝国『オベリオン』
西を代表する帝国『センドリアン』
南を代表する王国『百鬼夜行』
百鬼夜行と同じく南を代表する王国『夜叉羅刹』
北の領地を統べる連邦国『ナーバシュエル』
この旅行した国々の中でも百鬼夜行はかなり高評価だ。
百鬼夜行は、ご飯も美味しければ温泉も気持ちがいい。王である小鳥遊ナツメも人が良くて、皆んなから慕われていた。私もナツメと話してみたが、慕われるのも当然というくらいにはいい人だった。そのおかげか、治安がいいときた。もはや楽園といってもいいだろう。
その反対をいくのはナーバシュエルかもしれない。
ナーバシュエルに行った感想としては、治安が悪い。本当にこの言葉に尽きる。
そこらじゅうでテロが起きていたからとにかく落ち着く場所がなかった。あそこの女王であるセリア・フロストが率いる王国軍が治安維持を頑張っていたのだが治安の悪さはあまり変わっていない様子だった。
特に治安を悪くしているのは『銃と剣』という巨大組織と『黄昏の竜騎士』という5人の少数精鋭部隊だろう。特に黄昏の竜騎士関連の話をよく聞いた。例えば、【トワドラのリーダーが食い逃げした】とか、【構成員の頭がおかしすぎる】とか、数え出したらキリがないくらいには多かった。
今となってはいい思い出だが、テロに巻き込まれそうになった時は本気で焦った。
アルセリオンはどうしたかって?あそこは故郷っていうだけ。それ以外になんの思いもない。
「次の審査の方、こちらへどうぞー!」
過去の旅行話で盛り上がっているといつの間にか私たちの番になっていた。
「あ、私たちの番だね。さっさと行こっか!」
そうして入国審査を受け、無事にオベリオンへ入国することができた。
レイルが一瞬、人間ではないのでは?と疑われた時はかなり焦った。なんとか誤魔化して入国することができたがネフィリアがいなければ入らなかった。最悪の場合、オベリオンの牢にぶち込まれていたかもしれない。
ネフィリアが機転を利かせてレイルを人間というふうに言いくるめてくれたから今、こうして城門を越えられている。本当に感謝でしかない。
「おー!これがオベリオン!」
レイルは初めて見るオベリオンの様子にウッキウキの様子だ。
とはいっても私も少しウキウキしている。
このオベリオンにはとても美味しいパンがあるのだ。
その名も"オベパン"!
子供でも思いつきそうな名前だがこれがまたとても美味しい。
オベパンの中にクリームが入っているのだがこのクリームがやばい。このクリームはオベリオンで育てている"オベリオン牛"から取れるミルクでできているんだがとても濃厚でやや酸味があってとにかく美味い。私は甘いものが好きというわけではないのだが、このオベパンに入っているクリームはとても好きだ。想像するだけで涎が止まらない。
「...グレイヴ、パンはあとにして...先に、ギルドに行こう」
ネフィリアがそっと肩に手を置いた。
気がつくと確かに私はパンの方向に行こうとしていた。
危ない危ない。最初にギルドに行ってレイルの冒険者登録をしておかないと後々面倒なことになってしまう。面倒ごとをやってからお楽しみに向かうとしよう。
「レイルー!ギルドに行くよー!」
私はいろんな建物を興味津々に見て回っているレイルに声をかけた。
「はーい!今行くよー!」
レイルは駆け足で私たちの方へやってきた。その姿はまるで、嬉しいことがあったから親に報告しようとしている子供のそれだった。
「この国、いろいろなものが売ってるね!」
「そうだよ。美味しい食べ物とかも売ってるから、ギルド行った後に観光しようね」
「え、いいの!?」
「ほとんど観光目的でここに来たからね!観光しないと損だよ!」
確かにあの3人から離れておきたいというのもある。だが一番は観光だ。オベリオンは観光してなんぼだ。こんなにもいろいろなものが売っているのに観光しないなんてバカのすることだ。しっかりと観光しておく。
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ほんの少し歩いたところにギルドは建っていた。
「このギルドに来るのは3回目だね」
「...それは、グレイヴだけ。私は......2回しか、来たことない。レイルに関しては、ゼロ」
あ、そうだった。私は1人で旅行に来たから3回になっているんだった。まあ3回も2回も誤差だろう。
私はネフィリアの背中を押してさっさとギルドに入って行き、私に続くようにレイルもギルドに入っていった。
「こんにちは。ノアさん」
「あれ、グレイヴとネフィリアじゃん。久しぶり~」
この人はノア・グレイモア。とても可愛い容姿をしており、皆から愛される受付嬢である。
ちなみにこの子にはブツが付いている。容姿からは全く想像がつかないが、付いているのだ。ネフィリアから聞いた。
そして、勘のいい人はもう気がついているだろう。
「...久しぶり。ノア」
「相変わらず表情の1つ変えないなぁ...」
そう。ネフィリアとノアさんは双子である。一応ノアさんの方が早くに産まれたらしいからノアさんが兄ということになる。けど2人ともあまり気にしてない様子だ。
「あれ?そっちの女性は?2人の友達?」
ノアさんがレイルの方を向き、疑問を投げかけてきた。
レイルはノアさんに向けて自己紹介を始めた。
「私はレイルバグ。グレイヴとネフィリアと一緒に旅をさせてもらっているんだ。貴方は...ノアさん、だっけ?」
「そう、ノア・グレイモア。ネフィリアの双子の兄だよ。よろしく」
簡単な自己紹介をし終わった後、ノアさんは周りを見渡した。その後すぐに私に話しかけた。
「確か他にも男2人と女1人がいたよね。その人達はどうしたの?」
あ、そうか。ノアさんはまだそのことについて知らないんだ。
私はノアさんにできる限り簡略化した感じで、でもレイルの正体についてバレない程度に事の経緯を伝えた。
「なに、あの3人そんなにキモい性格してたの?」
ノアさんは額に分かりやすく怒りマークを浮かべた。
「ま、まあそうだね」
「よしわかった。僕が今からあいつらを殺してこよう」
ノアさんはカウンターの下から巨大斧を取り出しあの3人のところへ行こうとした。
「ノ、ノアさん!?落ち着いて!?」
私はノアさんを引き止めるため声をかけたその瞬間、私の背後から誰かの影が通り、ノアさんの頭を本で叩いた。
「ノア!業務を放置してどこに行こうとしてるの!」
その正体は、ギルドの副ギルドマスターであるシグレ・シルバーナであった。勤勉な性格で、俗に言うツンデレだ。ノアさんと同期だからかとても仲が良い。
「い、妹とその友達を危険に晒した輩をしばきに...」
「ネフィリアちゃんが危険に晒された〜?仕方ない。行っていいわよ!」
「うんダメだよ?」
少し遅れてギルドマスターであるセナ・カモミールがやってきてそう言った。セナさんは温厚な性格をしている人だ。そして何歳かは知らないけどこのギルドの成立メンバーである。ちなみにこのギルドの成立は10年くらい前だ。
「あ、セナさん。お久しぶりです」
「久しぶり。今日はどうしたの?」
私たちがここに来たのに理由があると察したのか話を聞いてくれた。流石はセナさん!
「このレイルの冒険者登録をしてほしいんです」
「はーい。じ少し時間かかるから、グレイヴちゃんとネフィリアちゃんは街で遊んできていいよ〜」
「じゃあレイルちゃん、事務室に行くからついてきてね〜」
そう言ってレイルとセナさんは事務室に行ってしまった。
まあ、セナさんなら別にいいだろう。あの人とレイルはなぜだかはわからないけど相性が良さそうな気がする。
少し安心した私はネフィリアと共にギルドから出て、パンを買いに行った。
ーーーーーーーー
「...ここ、どこ?」
事務室に案内されていると思っていたが、部屋に入ると特に何もない殺風景な光景が広がった。
するとセナという女性は扉に鍵をかけ私にこう言った。
「君、人間じゃないでしょ」
背筋が凍った。
どこでバレた?なにかおかしい行動をしてしまった?
私の背筋に冷たい水が流れた。
いや、冷静になれ。これは鎌をかけているだけだ。なにもおかしい行動はしていないから絶対にそうだ。
セナは畳み掛けるように私に言った。
「見ての通りカメラも何もない完全に密閉された部屋だから安心して」
「それにたとえ君が人じゃないとしても、そのことを他の誰にも言わない。約束するよ」
「まあ口約束なんて信じれないと思うけどね」
セナは優しく微笑みかけた。
何故だろう。この人なら言ってもいい気がしてきた。
...いや、ダメだ。たとえこの人が信じられる人であっても私の正体、最低な存在であることは誰にも言ってはならない。
「...人間だよ」
「...そっか」
セナは再び微笑み私の頭へ手を伸ばした。
その手で私の頭を撫でた。とても安心する、優しい手だった。
「たとえそれが嘘だとしてもいいよ。グレイヴちゃんが君を信じているように、私も君を信じるから」
その言葉は、私の心に深々と落ちていった。忘れることができない、彼も同じようなことを言っていたから。
『たとえ嘘だとしても、俺は君を信じるよ』
私の心を奪ったあの、最愛の彼も同じようなことを言った。
私は不思議とセナを抱き寄せていた。
「ど、どうかしたの?」
「...セナ、だったっけ?」
「初対面で悪いけど、もう少しだけ、このままでいさせて...?」
「ま、まあいいけど...」
その後、数分間だけセナを抱きしめさせてもらった。
でも、何故こんなにも懐かしいと感じたのだろうか。
そんな疑問を浮かべたが、今は気にしないことにした。
今回の話は書いてて楽しかったので、できる限り早く投稿しようと思って頑張って書きました!いい感じにできたと私は思っているんですが、読者さんはどう感じました?
少し余談になるんですが、某ソシャゲが今日からハフバらしいので、やってみようと思いインストールしてみました。このソシャゲをやっている友達が高く評価していたので楽しみにしています。
余談もほどほどにして、業務連絡です。
次回の投稿予定日はまだ決まっていませんが、できる限り早く出せるよう頑張ります!