運命的な出会い
私の名前はグレイヴ・エルセフィン。魔王を倒すため、勇者パーティーの1人として仲間達と冒険している者だ。
とは言うものの、私はただの荷物持ちだ。
その理由はなぜか、私のスキルが弱いからだ。
私の職業である『死霊術師』は世間一般的には最弱職と言われている。理由は簡単、「死霊術師」には『不老』というスキルがあり、老いることがなく死ぬこともない。
でも寿命死はするし普通に痛みを感じる。
こういうデメリットがあっても客観的にこのスキルは強スキルと言われるかもしれない。でも、ネクロマンサーは戦闘能力が極端に低いのでこのスキルはとんでもない程に雑魚スキルに成り下がるのである。肉壁としてなら役に立つかもしれないけどそんなのやりたい奴なんていると思うか。
ということなので私は勇者パーティーの誰にも自分のスキルについて言っていない。だからパーティーの性格悪い組から無能扱いされている。それが所以となり、私は荷物持ちをしている。
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馬車に揺られながら私達は森の中へと入っていた。
今日は私がオススメしたとあるダンジョンにやってきた。
場所はアルセリオン王国から5kmほど離れた場所にある"聖羽の森林"内にある。
この森林にら何千年何万年と昔に1人の天使がおちてきたようだ。その天使から落ちた羽を中心にこの森林はできた、らしい。
この話が本当かどうかはわからないが美しい森であるのは確かだ。
「...なんで。行きたくなったの?」
和風の服を着た銀髪の女性であるネフィリア・グレイモアがそんなことを聞いてきた。彼女の職業は『暗殺者』であり、感情表現が苦手なようだ。
私は唯一この子にだけ私のスキルを伝えている。
「うーん、なんか行かないといけない気がして...」
「...そう。よくわからない」
ネフィリアは続けるように言った。
「でも、あなたがやりたいことは尊重するし......私も、共にしたい」
無表情のままそう言った。じっと見られながらそんなこと言われたら嬉しくて乱舞してしまいそうだ。
私はニッコニコの笑顔でネフィリアをヨシヨシした。
「...あなたは、これが好きなの?」
「うん大好き」
「...そう」
ネフィリアは表情を変えずに相槌した。だが確実に喜んでいる、感じがする。なぜならばネフィリアが頭を私の手にぐりぐりしてきたんだ。
さらに撫でてということか。
私はさらにネフィリアをなでなでした。
「おい、グレイヴ!しょうもないことしてないで荷物を準備しとけよ!」
『勇者』であるレオ・ヴァルオットが私達にそう言った。
レオの近くには『聖女』のセリーナ・ライトと『剣闘士』のセンジ・ナリシエータがおり、私の方を睨みつけるように見ている。本当、感じが悪い。
「あなた達......なぜ、睨んでいるの?」
「あ?別に睨んでねえけど?」
ネフィリアの疑問にセンジが威圧的な態度でそう返答した。
「ううん、睨んでいた。理由を、教えて」
「だから睨んでねえっ言ってんだろ!?お前には関係ねえだろうが!!」
センジが強く言い返し、この口喧嘩に熱が入ってきた。これ以上は少し良くないかもしれない。
「ね、ネフィリア!落ち着いて!センジも、別にネフィリアは喧嘩がしたいわけじゃないんだよ!?」
私は2人の間に飛び込み喧嘩を仲裁した。
「...チッ、さっさと準備しとけよ」
「...」
私が必死に引き止めたからかはわからないが、なんとか双方とも矛を収めてくれた。
そんなこんなでダンジョンへ辿り着き、内部へと入っていった。
ちなみにネフィリアはダンジョンの入り口で待機している。見張りのようだ。
暗い場所が適しているアサシンをダンジョンに連れて行かなかったのは完全にレオの采配ミスだが、それを指摘したところでどうにもならないので指摘していない。
「おいグレイヴ、ここにはちゃんと良品があるんだろうな?」
レオが私にそう問いかけてきた。
「どうだろうね。まだ一層目だからよくわからない」
「わからないのにここに来たのかよ!?」
「だって本当にここに来るとは思ってなかったからちゃんと調べてなかったんだもん!!」
ネフィリア以外に言えることだが、私の言うことを聞いてくれた覚えなんて一切ないから本当に承諾されるとは思ってなかった。だからこのダンジョンについてのちゃんとした情報は持っていない。
「チッ、とりあえず深層部まで行ってみるぞ!」
そうして様々なモンスターと戦闘しつつ、ダンジョンの深層部へと辿り着いた。
深層部は一層の薄暗く禍々しい雰囲気とは違い、まるで教会の神聖な雰囲気が漂っていた。セリーナとは違ってちゃんと純粋な感じだ。
だが何もない。あるのは羽の生えた銅像だけだ。
「...おい、なにもねえぞ」
「そうだね」
「そうだね、じゃねえよ!なんでなにもないんだよ!?」
「だからさっきも言ったけどちゃんとした情報は持ってないの。しつこいよ」
「は!?俺の時間を無駄にしておいてそんなこと言えんのかよ!?」
「知らないわよ。ミスっていうのは誰にでもあるの。知らないの?」
そんな時、セリーナが首を突っ込んできた。
「いい加減にしてください!グレイヴさん、あなたはなぜそこまで使えないんですか!?」
「本当にだ!役立たずにも程があるだろ!!」
センジも続けるように怒声をあげた。
この2人はいつもそう、私が劣勢に立つといつも優勢な方に立つ。勇者パーティーなのにここまで捻くれてるのには理由があるのだろうか、いやない。絶対にない。ただただこの2人の性格が悪いだけだ。いや、勇者のレオもだ。
今回に関しては私が悪い。全て私の責任だ。勇者だから時間を無駄にしたくないのは理解できる。だが勇者はもっとこう、人のミスを責めない人、みたいな感じであるはずだ。なのになんでこの人はこんなにウザいんだ。
私はこのパーティーから抜けたいと毎日思っている。唯一の良心のネフィリアがいるから思いとどまっているが、限界に近いかもしれない。
するとレオが私に近寄ってきた。
「お前はクビだ。このダンジョンから出たら荷物まとめてこのパーティーから出て行け!」
おお、それは嬉しい!
私はにやけそうになるのをなんとか踏み止まり、真剣で少し悲しそうな表情にした。
「じゃあもう帰るぞ。どうせここには何もない」
レオは私達に背を向けてダンジョンの出口へと歩み出した。私も後に続いて歩み出した。
すると突然天井が音を立て始め、ひびが入った。
「な、なんだ!?」
「ま、まずいわよ!もうすぐ天井崩壊するかも!!」
「は!?」
ひびがメキメキと音を立てて割れ目を大きくしていった。おそらくあと1分以内に天井は崩壊する。
私はセリーナに急いで脱出のための脱出魔法を使わせた。
脱出魔法のための詠唱を始め、私達3人はセリーナの近くに寄った。
もう詠唱が終わる。これでなんとか助かりそうだ。
ドンッ、という音が鳴った。
その音と同時に私は前に倒れていった。
私が3人の方を見ると、もうすでに魔法が発動して姿を消していた。
私はダンジョンの深層部に置いてけぼりにされたのだ。
「...ははっ。まあ死なないし、いいか」
そうして天井は完全に崩壊し、私は瓦礫の中へと埋まってしまった。
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ネフィリアはダンジョンの入り口でじっと4人の帰りを待っていた。
すると、いきなり仲間達が正面に現れた。ネフィリアは仲間達が脱出魔法を使って現れたということにすぐに気がついた。
「...グレイヴは?」
ネフィリアは脱出してきた仲間の中にグレイヴがいないことに気がついた。
数秒の沈黙の後、レオが話した。
「...グレイヴは、ダンジョンの最深部で死んだ」
「え...」
レオのそんな告白にネフィリアは耳を疑った。久しく掻いていなかった冷や汗が背中を伝った。
「深層部の天井がいきなり崩れて、急いで脱出魔法を使ったんだ...でも、グレイヴは脱出するというタイミングで瓦礫によって...!」
レオは噛み締めるようにそう言った。センジとセリーナは目元に涙を浮かべ、下を向いている。
「た、助けに...行かなきゃ...!」
ダンジョンに入ろうとするネフィリアの腕をレオは掴み、動きを止めさせた。
「もう無理だ!深層部は瓦礫まみれで入れるわけがない!もう、諦めるしかないんだよ...!」
レオは目から涙を溢れさせ、ネフィリアの腕を強く握った。
「...なんで、私を連れて...行かなかった」
ネフィリアが3人に背を向けたまま言った。
「アサシンである私を...連れて行かなかった理由は...なに?」
ネフィリアは拳を強く握り締め、体から溢れ出てくる初めての感情に疑問を浮かべながらそう聞いた。
「...すまない。俺の采配ミスだ」
その言葉を聞いてネフィリアはなにか、心のなにかが完全に切れた。
「...私は、グレイヴを、助けに行く」
ネフィリアはレオの手を振り払いダンジョンへと入っていった。
「...レオ、もうあのアサシンも見捨てましょう」
セリーナがレオを呼び、最初に乗ってきた馬車へと乗るように催促した。すでにセリーナとセンジは馬車に乗り込んでいる。
レオも素早く馬車に乗り込んだ。グレイヴが瓦礫に埋もれてしまったことに対して流した涙はもちろん偽の涙だった。
そうして3人は馬車でアルセリオンへ帰っていった。
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「いてて...」
私は現在、瓦礫に埋まっている。
周りを見渡そうとしても体を動かせないので何もできない。なんとか指を動かせる程度だ。
これからどうしようか。今は動くことができない。助けが来るのは何年も後になるかもしれない。その間とても暇だ。どうしようか。
そんな時、私はとてもいいことを閃いた。
「あいつらいないからスキルを使っちゃってもいいよね...!」
私は誰にも言っていないスキルを使用すればもしかすると出れるかもしれないということに気がついた。
杖を右手で持っているが折れてしまっているからスキルを使えず、逆にスキルが自らに返ってくるかもしれないが、何もしないよりかはマシだろう。しかも私は死なないから大丈夫。少し痛いだろうけど我慢しようか。
私は折れた杖に力を込め、スキルを発動しようとした。
その瞬間、誰かがなにかを言っているのが聞こえてきた。その声がこちらにだんだん近づいてきている。
「...あれ?この声は...ネフィリア?」
この聞き覚えのある声は確実にネフィリアだ。何を言っているかは聞こえないが十中八九ネフィリアだ。
「ネフィリアー!こっちだよー!!」
私は腹の底から声を張り上げた。
それに呼応するように足音が大きくなっていった。
「グレイヴ...!瓦礫の下にいるの...!?」
「そうだよ!!なんとかしてこの瓦礫をどけてくれなーい!?」
「わ、わかった...!」
ネフィリアは腰から愛刀である『ニヒル』を抜刀し、岩に刀を向けた。
「吹き飛ばされないように...気をつけて...!」
私からは何も見えないのでなんとも言えないが、なにかとんでもないことをしようとしているのはわかる。じゃないと気をつけてなんて言われないはずだ。
私は全身に力を入れた。
「“風切り"...!」
瞬間、とんでもない風切り音と同時に強烈な風圧が私を襲った。
「うぎぁあ!?」
...あれ、なぜか上の層が見える。なぜだろうか。
あ、そうか。今、私は宙を舞っているんだ。
とても心地よい、まるで水に浮かんでいる気分だ。
...あれ?冷静に考えてみると今の状況って、かなりまずい?
そう考えたのと同時くらいのタイミングで後頭部を地面に思い切りぶつけた。そこで私の意識は途切れた。
ーーーーーーーー
どれくらい時間が経っただろうか。
意識を取り戻した私はゆっくりと目を開けた。
「おや、目が覚めたかい?」
「え、誰?」
反射的にその言葉が出てきた。
ネフィリアではない、全く知らない中性的な顔が私を覗いていた。
この人はまずいことをしたと自覚したのか、顔を離して私に謝罪した。
「すまない。突然知らない者が顔を覗いていると、驚くのも無理はないよね」
少し痛む体をゆっくり起こすと、話していた人が目に入った。
その人は緑というには黒すぎるし黒というにはすこし緑が強すぎるという特徴的な髪色をしていた。
胸が少し膨らんでいる。ムスコの確認をしていないので分からないが、おそらく女性だ。
そして驚いたのが、この人は背中に大きな翼を持っていた。片方は光を通さないほどに黒く染まっており、もう片方はかなり傷ついてはいるが綺麗に白く染まっていた。
私はそんな翼に見入ってしまっていた。
「ど、どうかしたかい?」
女性は気まずそうに私に話しかけた。
そこで私もハッとした。あまりに女性の翼が綺麗だったからつい見惚れていた。
私はこの気まずい雰囲気をどうにかしようと、質問を投げかけた。
「え、えっと...もう1人可愛い女の子がいたはずなんだけど...」
「ああ、あの子ならそこでずっとこちらを見ているよ」
指を差した方向を見ると、ネフィリアが壁にもたれながらこちらを見ていた。
いまの女性の言い方的に私が意識を失っている時もこちらを見ていたんだろう。
おそらく、心配してくれていたんだろう。
このほとんど感情がないような無表情の子が心配してくれるとかギャップ最高だよありがとう。
「私が気を失っている間、ネフィリアは大丈夫だった?」
「...うん......ごめん、なさい...」
ネフィリアはどこか暗い表情を浮かべた。
私はなぜネフィリアがこんな表情をしているのかを考えた。いや、考えるまでもなかった。
私を瓦礫と一緒に吹き飛ばして結果的に私を気絶させたという自責の念があるんだろう。
私はゆっくりと立ち上がり、ネフィリアに近づいた。
女性は私を見ても止めることはなく、ただ見守っていた。
そして、私はネフィリアにゆっくりとハグをした。
「ぐ、グレイヴ...?」
「ネフィリアがいなかったら私はずっと瓦礫の山に埋まっていたかもしれなかったんだ。助けてくれてありがと」
「で、でも......私が...」
私はネフィリアの言葉を遮るように続けた。
「ネフィリアは私を助けてくれた。それ以上でも以下でもないよ。だから、あまり悩まないで。後悔してもいいことないよ?」
私はネフィリアに微笑み、そう言った。
ネフィリアは少し目を潤ませた。ネフィリアのこんな表情は見たことがなかったので少し驚いた。
私はすぐに冷静になり、この表情を脳にしっかりと記憶した。この表情は忘れてはならない。まさに神々が産んだ最高の表情だ。
「...これからも、私が......あなたを、守る...!」
「うん!信じてるよ!」
そう言った後、ネフィリアはやっと私の背中に手を回してハグを返してくれた。めちゃめちゃ嬉しい。
ふと女性の方を見ると、どこかにこやかな表情をしていた。
「君達は本当、いい関係をしているよ...」
女性はなにかを呟いた。よく聞こえなかったが、いい関係、というのは聞こえてきた。よくわかってるじゃないか!
そうして私は再び寝転がされた。ネフィリアはどうやらまだ私が心配なようだ。どうせ私は不死身なんだから心配しないでいいんだと説明したが、
そして、私は気になっていたことを女性に質問した。
「あなたはこんなところで何をしてたの?」
女性は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに微笑み答えてくれた。
「ははっ、なにかしてるわけではないんだよ」
「...?じゃあなんでいるの?」
「簡潔に言うと、ここに封印されてた」
私は一瞬耳を疑った。だが、すぐに理解した。
この人の翼は黒い翼と傷ついている白の翼であること
このダンジョンの深層部がやけに神聖な雰囲気がしたこと
さっきまであった羽の生えた銅像が今はないこと
そして、ここは天使が堕ちてきた場所であること
この人はつまり、そういうことだ。
「私は、"元"天使、大天使だよ」
やはり、そうだった。まさか天使が実在していたとは。ただの都市伝説だと思っていたが、まさか本当だとは思ってもみなかった。
「といっても、私は堕ちた天使、堕天使なんだけどね」
そう言った後、ははっと笑った。
この女性を見ると、確かに堕天したであろう証拠がある。
天使は翼が真っ白で頭の上に天使の輪を浮かべている。
だがこの人は片翼が黒に染まっている。そして天使の輪が浮かんでいない。
「何を司る天使だったの?」
「それは秘密!」
「...かなり辛いものだった、とだけ言っておくね...」
女性はボソッとそう呟き、暗い表情を浮かべた。
なにか重く辛いことでもあったのだろうか。
でも、それを聞くのは野暮というものだ。人には言いたくないこともある。
「そっか。頑張ってたんだね...」
私はいつのまにか女性の頭を撫でていた。
どうにも彼女には辛い雰囲気が漂っている。少しでも、慰めてあげたい。そう思って、無意識のうちに撫でていた。
「...慰めてくれてるの?」
「辛そうだったから、つい...」
「...ははっ、君はなんというか、マリア様みたいだね」
マリア?マリアというと、聖母マリアのこと?私はお母さんじゃないのに何を言ってるんだか。
いつのまにか女性は暗い表情ではなくなっていた。
女性は立ち上がり、私達に言った。
「君達はこのダンジョンを出た後どうするんだい?」
「取り敢えず国へ戻ろうと考えているけどいい?ネフィリア」
「うん。好きにして」
「それさ、私もついて行っていい?」
私はネフィリアを見た。まるで「好きにして」といっているような手振りを見せた。
私もすでに答えは決まっている。
「もちろん!これからよろしく。えーと...名前はなに?」
「...レイルバグだよ。よろしく!」
少し間を置いてからそう名乗ってくれた。
「私はグレイヴ・エルセフィン。あちらの美少女はネフィリア・グレイモアだよ!」
「...よろしく」
「う、うん。よろしく!」
レイルはネフィリアの無感情ぶりに少し驚きつつも挨拶を交わした。
レイルは正直言ってめちゃくちゃ可愛いし美しい。この新生パーティーがより美しくなることを私はとても喜んだ。
今後ともレイルと仲良くしていきたいと強く願った時間であった。
はい!というわけで、パッと思いついたもの描いてみました!個人的にはかなり好きな部類のものが描けたのでまたいつか2話目を投稿するかもしれません。
というわけで私のモチベ次第で2話目を投稿します。期待せずに待っていてください!
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