表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カレンデュラ  作者:
聖女と少年
42/42

帰還の祈り

教会の前で馬車を降りたヴァルティスは、静かに扉を押し開けて中へ入った。

中にいた村人たちは、不安そうな顔で一斉に彼を見上げる。


『アルヴィス様……村は、どうなってしまうんじゃ……?』

一人の老人が小さな声で問いかけた。


ヴァルティスはわずかに肩の力を抜き、微笑みを返す。

『心配はいらない。結界で村は守られている。空の異変も収まった。今日はここで過ごしてくれれば安心だ』


その言葉が届いたとき、イヴが慌てた顔で駆け寄ってきた。


『あなた! 大変! ノエルが──!』


ヴァルティスの横では、ノエルが申し訳なさそうに服の裾をぎゅっと握っていた。

その姿を見て、イヴの目に涙があふれる。


『本当に……よかった。もう、勝手に出て行かないでね』

『ごめん……なさい』

イヴはノエルをそっと抱きしめた。


『イヴ、すまない。だが今、手伝ってほしいことがある。それと、話したいことがある』

ヴァルティスは真剣な眼差しでイヴに言った。


『今から裏手の、星振りの聖堂へ来てくれないか』

『えっ、どういうこと?』

イヴの困惑を伏せた声が聖堂の影に吸われる。


『着いてから話す。悪いがついてきてほしい』

ヴァルティスは首を振り、三人は教会の裏手へ向かった。

足取りはどことなく重く、頬をなでる風がいつもより冷たく感じられた。


聖堂に着くと、馬車から傷だらけの男女の遺体を丁寧に運び、ステンドグラスの光が差す祭壇の上に横たえた。

その光景を見たイヴは、言葉を失い、声を詰まらせる。


『……嘘。レオナールさんと、エリシアさん……どうして、こんなことに……』


ヴァルティスは静かに説明する。

『村へ向かう途中、魔香炉の現象に巻き込まれたらしい。助けに行ったのだが──』


イヴの顔色がさらに青ざめる。

『やっぱり……あの異様な空は、魔香炉のせいだったのね……』


ヴァルティスは馬車の奥を見据え、小さく息を吐く。

『馬車の奥には、もう一人──二人の大事な娘がいる。俺たちで、この子を預からせてほしい』


ヴァルティスはぎゅっとイヴの手を握る。胸の奥に沈むものを押し隠すように。


イヴは袖で涙を拭い、でも表情は決然としていた。

『……よかった。私たちの娘として、大事に育てましょう』


その声には、悲しみの中にある確かな覚悟が宿っている。ヴァルティスはほっと息をつき、少しだけ肩の力を抜いた。


『ノエル、手伝ってくれ。祭壇に水と、馬車に残っていた果物を並べて』

『……わかった』

ノエルは震える手で言われた通りに準備を始める。


準備が整うと、ヴァルティスとイヴは並んで祭壇の前に立ち、静かに祝詞を唱え始めた。

ノエルも小さく目を閉じ、手を合わせる。


───帰還の祈りが、聖堂の空気にふんわりと広がり、ステンドグラスの光と混ざり合った。

その光は柔らかく揺らめき、静かに二人の亡き者たちを包み込む。

小さな祈りの声は、やがて聖堂全体に柔らかく響き渡り、暖かさと安堵を運んでいった。

1ヶ月ぶりの更新になりました。

全然書けてなくて申し訳ないです。

まだ追ってくれてる人居るのかな....?


本当に申し訳ないです。

ちょこちょこ話書いていきますのでお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ