海の街 マリセイル 1
すみません。投稿時間過ぎてました。
申し訳ないです
馬車はマリセイルの街門をくぐり、石畳を駆け抜けた。
朝の光が淡く街を染め、潮の香りが風に混じる。港町の活気が少しずつ目覚め始め、石畳を叩く馬の蹄の音が乾いた音を響かせた。
『治療師の家はどこだ!?』
ヘクターの声が、焦りにかすかに安堵をにじませる。
アルが素早く地図を広げ、指先で道筋を示した。
『この通りの先、左手の建物です! あの屋根に青い旗が出ています!』
朝靄の残る通りを馬車は疾駆した。行き交う人々が、驚いたように足を止め、馬車の行方を目で追っていた。
『シリウス、フェリス! 二人を頼む!』
二人はノエルとシエルを抱え、荷馬車から飛び降りる。
治療師の家は古びた木の看板が揺れ、小さな花壇が入口を飾っていた。
中に入ると、薬草と消毒の混じった匂いが鼻をついた。
静かで、どこか懐かしい温もりが漂う空間。
奥から白髪の老人が現れた。くしゃりとした顔に、優しい目が光る。
『すみません! この二人を診てください!』
フェリスが声を張る。
シリウスも息を整え、状況を伝える。
『彼女は戦闘中に倒れ、彼は頭を強く……止血はしましたが血が……』
老人は頷き、素早く二人に目を走らせた。
『ほう……女の子は魔力切れじゃな。治癒魔法を軽くかければ、二日もすれば目を覚ます。』
『男の子は……こりゃ深いな。腕にヒビも入っとる。骨のかけらを取らねばならん、少し時間がかかるぞ。それでいいな?』
『お願いします……!』
二人は同時に頭を下げた。
『そこに腰を掛けて待つがいい。……お主らも随分な傷じゃ。娘に癒させよう。』
小さな影が奥から現れた。まだ幼い少女が、無言でソファを指差し、
『ん……』
とだけ呟く。
シリウスとフェリスは顔を見合わせ、疲れを隠せぬままソファに身を沈めた。
【ヒーリングベール】
柔らかな光が降り注ぎ、二人の体を優しく包んだ。
まるで、張り詰めていた心まで溶けていくような心地だった。
『……ありがとう。』
シリウスが静かに礼を言うと、少女は小さな足で奥へ戻っていった。
部屋の奥からは水の音、金属の触れる音、淡い光が時折ちらりと漏れていた。
『……あんなに幼いのに、あれだけの魔力……すごいな。』
フェリスが感心の声を漏らす。
『あぁ。あの歳で……あれだけ使えるとは。大したものだ。』
窓の外で風がカーテンを揺らし、遠くで船の鐘の音が微かに響く。
『まだ……時間がかかりそうだな。』
『ああ……王都へ向かう前に、少しでも休んでおかないと……』
二人は静かに目を閉じ、わずかに微笑み、心地よい眠りへと落ちていった。




