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カレンデュラ  作者:
聖女と少年
30/42

初任務 11

次の瞬間───

『グォォオオー!……オ…マエ…タチ…ユ…ルサ…ン…』


禍々しく光を放ちながら、ラザグルはあろうことか人語を話し出した。


『……魔物に、進化した!?』

シリウスが異変に気付いた瞬間──強烈な魔導波がラザグルを中心に広がった。


『キャーッ!!』

全員が衝撃に飲まれ、吹き飛ばされる。


『みんな……無事か!!』

ヘクターが辺りを見渡し、安否を確認する。


『た、大変! ノエルが!!』


ニーナの近くに倒れていたノエルは、木に頭を打ち付け、意識を失い、血を流していた。


『ノ……エル……??』


シエルがその姿を目にした瞬間、森に風が吹き荒れた。


『ノエル……ノエル……いやっ!』


そのとき、ピキッと音を立て、シエルの胸元で揺れるお守りにヒビが入った。


シエルの体が光に包まれ、背中から大きな白い翼が現れる。黒く濁ったその瞳は、まるで意識を失っているかのようだった。

片手を天に向け、シエルは無意識に詠唱する。


太陽の導き(サンドゥクス)


次の瞬間、辺りは眩い白光に包まれ、何も見えなくなった。


『眩しい……! 一体、何が……!?』

ニーナは顔をしかめ、反射的に手を額にかざした。


光がゆっくりと消え、視界が戻り始めたそのとき──。


終末の流星群(カタストロフ)


凄まじい光線が天から地へと堕ち、ラザグルを貫かんとする。


その刹那、低く響く声が森に木霊した。


時計の散歩道(ロックダウン)


空からは黒い羽がひらひらと降り、時間が止まったかのようにあたりが静寂に包まれる。


(なっ……動けない!?)

ニーナは必死に体を動かそうとするが、まるで全身が縛られたように動けなかった。


『仲間の誕生を見に来てみれば……人の子たちよ。殺すでない。』


ゆっくりと降り立ったのは、威圧感とは異なる、どこか美しく気高い魔物だった。


(ま、魔物……!?)


『我はルシファー。其奴が倒れているおかげで、ようやく姿を現せた。』

ルシファーはゆっくりと視線をノエルに向ける。

そのまま静かにシエルの元へと飛び、淡い微笑を浮かべた。


『……ほう。この娘、意識がないようだな……』


『お主たちは、我が同胞を助けてくれた。

その礼に、あれは我が連れて帰る。だからもう、怒りを鎮めてはくれないか。』


(同胞……?)


『先ほど、我が同胞の娘を助けたであろう。

あの娘を、どうかよろしく頼む。』


そう言ってルシファーはそっと手を掲げ、ラザグルとともに姿を消した。


その瞬間、止まっていた時間が流れ出し、天からの光線が勢いよく大地に突き刺さる。


シエルはそのまま崩れ落ち、ニーナが駆け寄った。


『シエル!』


そっと耳を胸に当てる。


──トクン……トクン……トクン……


『……良かった。息、してる……!』

ニーナは目に涙を浮かべ、辺りを見渡した。シリウスとヘクターが駆け寄ってくる。


『さっきの……何だったんだ!?』

ヘクターが声を上げる。


『……わからない。ルシファーと名乗ってたけど……』

ニーナは戸惑いを隠せず、震える声で答えた。


『ルシファー……魔物、ね。そして“同胞”って……?』

シリウスが眉をひそめる。


フェリスがノエルを抱きかかえ、ゆっくりと近づいてきた。


『同胞は……たぶん、混血種の少女のことだと思う。さっきの荷台の中にいた。今はルナさんが見張ってる。』


『……混血ってことは……奴隷か!?』

シリウスの表情が険しくなる。


『……わからない。でも、荷台で運ばれていたってことは……おそらく……』


『混血奴隷って……あの噂は本当だったんだな……』

ヘクターも低くつぶやく。


『……混血奴隷って……?』

ただ一人、ニーナだけが何も知らず、困惑した表情で森の静けさに包まれていた。


戦いの熱気は消え、森を渡る風だけが、そっと髪を揺らした。

その風に乗って、あの黒い羽の残り香が、まだ微かに漂っているような気がした──。


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