初任務 11
次の瞬間───
『グォォオオー!……オ…マエ…タチ…ユ…ルサ…ン…』
禍々しく光を放ちながら、ラザグルはあろうことか人語を話し出した。
『……魔物に、進化した!?』
シリウスが異変に気付いた瞬間──強烈な魔導波がラザグルを中心に広がった。
『キャーッ!!』
全員が衝撃に飲まれ、吹き飛ばされる。
『みんな……無事か!!』
ヘクターが辺りを見渡し、安否を確認する。
『た、大変! ノエルが!!』
ニーナの近くに倒れていたノエルは、木に頭を打ち付け、意識を失い、血を流していた。
『ノ……エル……??』
シエルがその姿を目にした瞬間、森に風が吹き荒れた。
『ノエル……ノエル……いやっ!』
そのとき、ピキッと音を立て、シエルの胸元で揺れるお守りにヒビが入った。
シエルの体が光に包まれ、背中から大きな白い翼が現れる。黒く濁ったその瞳は、まるで意識を失っているかのようだった。
片手を天に向け、シエルは無意識に詠唱する。
【太陽の導き】
次の瞬間、辺りは眩い白光に包まれ、何も見えなくなった。
『眩しい……! 一体、何が……!?』
ニーナは顔をしかめ、反射的に手を額にかざした。
光がゆっくりと消え、視界が戻り始めたそのとき──。
【終末の流星群】
凄まじい光線が天から地へと堕ち、ラザグルを貫かんとする。
その刹那、低く響く声が森に木霊した。
【時計の散歩道】
空からは黒い羽がひらひらと降り、時間が止まったかのようにあたりが静寂に包まれる。
(なっ……動けない!?)
ニーナは必死に体を動かそうとするが、まるで全身が縛られたように動けなかった。
『仲間の誕生を見に来てみれば……人の子たちよ。殺すでない。』
ゆっくりと降り立ったのは、威圧感とは異なる、どこか美しく気高い魔物だった。
(ま、魔物……!?)
『我はルシファー。其奴が倒れているおかげで、ようやく姿を現せた。』
ルシファーはゆっくりと視線をノエルに向ける。
そのまま静かにシエルの元へと飛び、淡い微笑を浮かべた。
『……ほう。この娘、意識がないようだな……』
『お主たちは、我が同胞を助けてくれた。
その礼に、あれは我が連れて帰る。だからもう、怒りを鎮めてはくれないか。』
(同胞……?)
『先ほど、我が同胞の娘を助けたであろう。
あの娘を、どうかよろしく頼む。』
そう言ってルシファーはそっと手を掲げ、ラザグルとともに姿を消した。
その瞬間、止まっていた時間が流れ出し、天からの光線が勢いよく大地に突き刺さる。
シエルはそのまま崩れ落ち、ニーナが駆け寄った。
『シエル!』
そっと耳を胸に当てる。
──トクン……トクン……トクン……
『……良かった。息、してる……!』
ニーナは目に涙を浮かべ、辺りを見渡した。シリウスとヘクターが駆け寄ってくる。
『さっきの……何だったんだ!?』
ヘクターが声を上げる。
『……わからない。ルシファーと名乗ってたけど……』
ニーナは戸惑いを隠せず、震える声で答えた。
『ルシファー……魔物、ね。そして“同胞”って……?』
シリウスが眉をひそめる。
フェリスがノエルを抱きかかえ、ゆっくりと近づいてきた。
『同胞は……たぶん、混血種の少女のことだと思う。さっきの荷台の中にいた。今はルナさんが見張ってる。』
『……混血ってことは……奴隷か!?』
シリウスの表情が険しくなる。
『……わからない。でも、荷台で運ばれていたってことは……おそらく……』
『混血奴隷って……あの噂は本当だったんだな……』
ヘクターも低くつぶやく。
『……混血奴隷って……?』
ただ一人、ニーナだけが何も知らず、困惑した表情で森の静けさに包まれていた。
戦いの熱気は消え、森を渡る風だけが、そっと髪を揺らした。
その風に乗って、あの黒い羽の残り香が、まだ微かに漂っているような気がした──。




