初任務 8
『ヘクター!急がないと、誰かが...!』
残酷な光景を目にしたヘクターは唇を噛み締め、叫んだ。
『行くぞ!全員配置につけ!』
そう言い放ち、ニーナとヘクターはラザグルの群へと突入した。
『こっち..見ろよ!』
ヘクターは拾った小石を指で弾き、魔力のレールに乗せる。
【魔雷砲】(レールガン)
青白い閃光が軌道を描き、小石は電光の弾丸となってラザグルを撃ち抜いた。
「グゥオォォォォォーー!!」
断末魔の叫びと共に、一体のラザグルがバタンと倒れた。
他のラザグルたちも異変に気付き、赤い目でヘクターたちをじっと見つめる。
続けてニーナも魔法を放った。
【紅蓮弾】
赤い炎の塊をラザグルに向かって放った。
───だがラザグルは二本のツノを光らせ、炎を弾き返し、勢いよく突進してきた。
『なっ.....!!!』
驚愕の表情を浮かべたニーナに、フェリスとノエルが咄嗟に反応し、防御魔法を展開する。
【氷の帳】(グラシアルーム)
【翠嵐の盾】
ニーナの周囲に強固な防壁が張り巡らされた。
『あっ、ぶなっ!』
ホッと息をつくニーナにフェリスが言い放つ。
『ニーナ!油断しすぎ!次。くるよ...』
『えぇ。分かってる。』
【鳳仙花】
ラザグルの周囲にポツポツと炎の花が咲く。
敵は警戒し、身を寄せ合い一箇所に固まった。
そのタイミングを見計らい、ニーナは唱えた。
【散れ】
炎の花は無数の花弁となって舞い散り、ラザグルたちに降り注ぐ。
「グォオーオォオ!ガッ.....」
炎に包まれたラザグルたちは次々と燃え上がっていった。
『もう...生き残りはいないかしら...?』
辺りを見渡すニーナの目に映ったのは───
真っ二つに裂かれた男の死体と、頭を食べられた馬の死体だった。
『...ごめんなさい、助けられなくて...』
涙を浮かべて悔やむニーナに、シリウスは優しく抱きしめて慰めた。
『ニーナ...あなたのせいじゃないから...』
シリウスの腕の中でニーナは、涙をこぼした。
ヘクター、シエル、ノエル、フェリスは銃撃されていた荷馬車の様子を確認した。
荷台にあった荷物は三分の一ほどが無事に残っている。
『まだ使えそうなものもある....!』
シーツを剥がすと、そこには怪我を負い眠る女の子の姿があった。
『シエル!こっちに!!』
ノエルが急いでシエルに声をかける。
少女はその声で目が覚める。
『痛っ....!』
ゆっくりと目を開け、ここがどこなのかと、辺りを見回す。
『動かないで!今治してあげるから!』
【ヒーリングベール】
優しい光が少女を包み込み、傷はみるみるうちに癒えていった。
ホッとした少女は深々と頭を下げて礼を言った。
『ありがとうございます......』
顔を上げ、一番最初に目に映ったノエルをじっと見つめる。
目は赤く輝き、頬を薄く染めながら荒い息をついた。
『はぁ....はぁっ...んっ....』
『どうしたの!?大丈───』
心配そうに駆け寄るシエルの横を、ノエルがすっと通り過ぎ、少女をいきなり抱きしめた。
『...ノ...エル??』
何が起こっているのか理解できずにいるシエル。
そこへフェリスが駆けつけ、ノエルと少女の顔を見た瞬間叫んだ。
『シエル!急いで二人を眠らせて!早く!!』
『わ...わかった!!』
【ソムニア】
二人の周囲を妖精たちが舞い、キラキラと光粉を振らせる。
やがて、ゆっくりと目を閉じていった。
『間に合った...!』
ホッと胸を撫で下ろすフェリスに対し、シエルは何が起きたのか理解できずにいた。