教会4
花束を慰霊碑に飾り終えたあと、シエル、フェリス、神父の三人は静かに目を閉じ、祈りを捧げた。
その時の空気は、どこか柔らかく、けれど祈りの奥に宿る決意が感じられるものだった。
しばしの沈黙の後、神父が優しい声で言った。
『シエル。今日は王都での任務中に怪我をした者たちが、来る予定だ。もうすぐ祈りの間に来るから少し待ってくれるかい?』
『はい、わかりました』
神父は頷き、人々を呼びに行った。
『フェリスは...今から何するの?』
ふと、フェリスを見上げながら尋ねた。
『俺はね、神父様ともう一度慰霊碑にお祈りをしてから、子供たちの様子を見に行こうと思ってる』
そう言って笑ったフェリスの顔は、どこか懐かしさを含んでいた。
彼自身、幼い頃家族を亡くし、この教会で育った過去を持っている。
孤独だった彼に、神父の笑顔は何よりの救いだった。
だから今、こうして神父の手伝いをしながら教会を支えているのは、彼なりの恩返しでもあった。
『そっか。じゃあ....終わったら中庭で待っててくれる?私も後で子供たちの顔、見に行きたいの』
『もちろん。きっとみんなもシエルが来たらも喜ぶよ』
フェリスが優しく笑うと、ちょうどそのとき扉が開き、神父が怪我人たちを連れて戻ってきた。
『シエル、お願いするよ』
連れてこられた人々は、それぞれ不安と痛みを抱え、俯きながらもこの場所に縋るような表情をしていた。
シエルはゆっくりと立ち上がり、微笑みながら声をかける。
『それでは...順番にお話を聞かせてください。みなさん、こちらに並んで、この小さなお部屋へ一人づつお入りください。防音結界が張ってあるので、話声が外に漏れることはありません。安心してお話してくださいね。』
彼女の柔らかくも芯のある声に、人々の緊張か少しだけほぐれる。
そうしてシエルは小部屋に入り、次々と人々の傷と心を癒していく。
フェリスは静かにその背中を見送ると、神父とともに、再び慰霊碑へ向かった。
*****
フェリスはお祈りを終え、中庭に行くと二人の小さな女の子が飛び付いた。
『フェリスお兄ちゃーん!!』
アリアとマリアだった。
『どわっ!二人とも元気そうだね』
『うん!今日は来るかな?って毎日話てるんだよ♪今日はシエルお姉ちゃんは?』
キョロキョロしながらアリアが聞くと
『シエルは今"聖女"の仕事をしてるから終わったら来るよ』
『やったぁー!皆にも言ってくるね!』
そう言い二人はみんなのいる方に走り出した。
『さて。俺も他の皆の様子を見なくちゃ』
そう言いながら2人の後ろを着いていくフェリスだった。