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クロの旋律

作者:jloo(ジロー)
 時々、自分の存在が曖昧になる瞬間がある。

 鏡に映った姿が、一瞬だけよく分からなくなる。
 誰かに呼ばれた気がして振り返っても、そこには誰もいない。
 目が覚めた時、自分がどこにいるのかすぐには分からない。
 そんな些細な違和感の積み重ね。

 私たちは、そういう瞬間を「気のせい」として片付けてしまう。
 目の疲れ、寝不足、ストレス。
 理由をつけて、不確かな感覚を遠ざける。
 そうやって、世界の輪郭を鮮明に保とうとする。

 でも、もしかしたら。
 その「気のせい」こそが、世界の本質なのかもしれない。
 私たちが「現実」と呼んでいるものは、
 ただの習慣的な観測の結果に過ぎないのかもしれない。

 通学路の曲がり角。
 いつもと同じ景色なのに、時折見知らぬ街に迷い込んだような錯覚。
 教室の窓から見える空。
 昨日と同じはずなのに、どこか違う色をしている気がする。
 放課後の校舎に残る誰かの足音。
 振り返れば、そこには誰もいない。
 でも確かに、誰かがいた気配だけが残っている。

 確かなものなど、どこにもないのかもしれない。
 私たちが「現実」だと思っているものは、ただの習慣で、
 「普通」だと信じているものは、単なる多数決なのかもしれない。
 その「多数決」から外れた瞬間、世界は途端に不確かになる。

 写真に写るはずのないものが写り込む。
 写っているはずのものが、跡形もなく消えてしまう。
 記憶と記録が、少しずつずれていく。
 誰かの存在が、まるで霧のように溶けていく。

 目を閉じて開けば、また普通の世界が広がっている。
 でも、その「普通」が本当に普通なのか、
 もう誰にも確信が持てない。

 この物語は、そんな「気のせい」の正体に気づいてしまった者たちの記録。
 存在の確かさが、まるで波のように揺らめいていく中で、
 彼らは何を見出すのだろうか。

 そして私たちは、本当に「存在している」と言えるのだろうか。
 それとも、誰かの観測が作り出した、
 可能性の束の一つに過ぎないのだろうか。

 その問いの答えを求めて、物語は始まる。
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