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THE SCRAP DREAM【第3章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第48話「That One Night②」

 

 ……ま、それはともかく。


 その後ビルは何故か他の客にちょっかいをかけ始めた。

 はっきり経緯は覚えていない。

 それもいつもの事だ。


 だからそこから俺らは席に2人きりになった。


「彼はバカなの?」

「あぁ、もちろん」

「そりゃそうか」

 酔いが回って気分が良かった。

 今ならなんでも話せる気がした。


 だからふと聞いた。

 気になる事を。

 酔いの弾みで、なんとなく。


「アーサー、ひとつ聞きたいんだけど」

「何?」

「さっきまで……、というか俺らのこの諍いのせいで死んだやつって結構いるだろ?まぁこの街での命の価値なんて、それこそ使い捨てだけどさ」


 思いがけず勢いで話し始めてしまったこれをアーサーは静かに聞いていた。

 少し寂しげに。


「ただこんなの、正直言って最悪の無駄死になんだ。金で雇われたり、騙されたりして参加して、挙句俺らはこうして仲直りなんてさ。無駄もいいとこだ」

 彼は頷いた。どうやらここまでは同意見らしい。


「……でも、例えそうだとしても俺らのくだらない喧嘩の為に死んでった奴らに何か思うことって少しでもあったりするか?」


 少しばかりの気まずさが流れた。

 その間アーサーはグラスを見つめ、その中身の液体を飲んだ。


 少し氷が溶けて、グラスの中で音が鳴った頃、彼は答えた。

「……無い」


 彼は目を瞑る。

「――って思いたい」


 意を決したような顔で、彼は口を開く。

 ぽつりぽつりと、独白のように。


「あの人達は金の為だろうが、上手く乗せられただけであろうが、自分で選択したんだ。だってもし本当に嫌なら?……やらなきゃいい。少なくとも僕は死んでもやらない」


 遠くで騒ぐビルの方を見ながらアーサーは続けた。

 あっちの方はまるでこちらと対比するように楽しそうだった。


「つまり彼らは信念を抱いて死ねたんだ。それはこの世界(くに)じゃ幸せな事だよ。他人の思惑に左右され、己が操られていることも、右も左も分からぬまま死んでいった奴、そんなのを僕はごまんと見てきた。……だから、そう。彼らは幸せ」

 再び酒に口をつけ、口を潤わせた彼はこちらを見つめる。


「その、はずなんだ。僕のために死んでったあの人間たちは心の底から幸せなんだって。この街で、少なくとも最後は自分で選択して死ねたって。そう、思い込むことにしてる」


 それは理屈じゃない。

 ただ自身の納得を呼び起こさせるだけの傲慢な帰結に過ぎない。

 だけどそれは無垢な思い。


 人は当然操られるべきではないし、自由であるべきという彼の信念から湧き出た自己暗示だろう。


 彼は両手を広げ、肩を竦める。

「それに天罰とか神の意志なんてものがあるなら、僕はその沙汰を待つだけだよ。僕だってそりゃろくな死に方はしないだろうけど、ならせめて、その最期くらいは自分の意思で死にたい。そう、思ってる」


 なるほど。

 また彼の心の内が少し分かった気がする。

 どこまでも純粋なんだろう。


 それは悪にも善にも。その狭間で悩まされ続けてきたんだ。

 多分真面目すぎるから、1人で抱え込んで。


 そうして導き出した表向きの解が今のなんだ。

 この危なっかしい性格も俺がこいつに惹かれちまった理由の一つだろう。


 だけど――


「まぁでもその手前で君たち2人とも見届けてから死んであげるよ」

「ハッ、言ってろ」


 こんな世の中では、彼の優しさはきっと()()になる。


 そんな事本人が一番分かっているだろうけどな。

 同情と友情の狭間で俺はアーサーの冗談に笑う。


「まぁでもさ」

 アーサーは笑った息を整える。


「感謝しとくよ。本気でぶつかって、真正面から叩きのめされた。正直言って腹は立つし、納得もできない。……でも少しスッキリしたよ。だから、ありがとう」


 心からの感謝。

 屈託のないその言葉に、真正面から向き合う。


「おう」

 俺らは仲良く、2人でグータッチをした。


 彼と親友になる始まりは多分ここだと思う。

 それくらい彼の人となりを知る上での重要な会話だった。


 だがその時、背後から大きな影が近づく。


「へッ、オレ様には礼ナシか?」


「どわぁ!いつの間に!さっきまであっちに居たでしょ!」

 アーサーは少し仰け反った。

 そこに居たのはまさしくビルだった。


「はぁ、まぁ君にも感謝しとくよ。どうも」

「その感謝ってヤツ、受け取ってやるぜ」

「……」


 かける言葉も無い。


「あ、ところでビル。さっき話してた席のあの女の子の名前何だった?」

「あ?知らねェよ、そんなの。シェイラとかリンとかじゃね?」

「……それどっちも昨日“The Tonight Show”に出た俳優の名前でしょ」


 俺は指を鳴らす。

「はい、ビンゴ」

「やるじゃねェか」

 ビルはケラケラと笑った。


「それで?なんでそんなことを?知り合いか?」

「いや、別に。……ちょっと失礼」


 そう言ってアーサーは席を立った。

 決意の目をして、彼はテーブルを離れる。


「便所ならアッチだぜ」

 ビルが顎で指した方角を見て「どうも」と言い残し、別の方角へとアーサーは行く。


 それを見ていると、先程言った女の所へ向かっていったのが見える。

「ありゃァ、やっぱ知り合いなんじゃねェか?」

「さぁ、どうだか」


 いつの間にか横に座り酒を呷ったビル。

 2人でアーサーの方を伺いながら、一口、また一口と酔いを深める。

「お、2人して立ったぞ」

「なんか奥行ったな、密談?」


 訝しんだが、意識を改める。


「まぁ、色んな人付き合いあるだろうしな。あんなんでも大企業の一人息子だ」

「違ェねェ!」

 机を叩き俺らは笑った。

 この段階で俺らは相当酔っていたと思う。


 そのお陰であまりアーサーの行方を気にしなかった。

 勝手に2人で盛りあがっていた。止められないほどに。


 数十分そうしていると、アーサーがいつまで経っても現れない事をやっと気にし始める。

 彼は一体どこに行ったのか。


「遅いな。あいつどこ行ったんだ」

「しゃーねェ、見てくるか」

「頼んだ」


 ビルはまだフットワークが軽いようで、立ってさっさと見に行ってしまった。

 だが1人でつまらない時間を過ごしたのはほんの数分だった。


 案外早く帰ってきたビルが不思議な顔をして話す。

「アイツ居ねェぞ?」

「いや、そんなわけ……」


 俺が否定しかけると、カウンターにいたロブが突然こっちに向けて大きな声で話しかけてきた。


「おい、ユウト!お前に電話だ!転送するぞ!」

「え?いや待て、ちょ、勝手に繋ぐなって!」


 ロブはそう言うなり、俺の脳内に通信転送してきた。

 その奥から聞こえてきた声は聞き覚えのあるものだった。


「ユウト?」


 正解!その、まさかだ。

「アーサーか?なんだよ、何処にいるんだ?」


 当然の疑問を投げかけると、アーサーは上擦った声で答えた。


「あぁ、まさにそれを伝えようと思ってさ。ドジャーン!家にいる!」

「はぁ?なんで?」


 当然の疑問。それを彼に聞いた。

 その時の答えは(当時としては)驚くべきものだった。


「さっきの娘、持ち帰ったから」


 俺は戸惑った。そりゃ戸惑う。

 お互いぶつかり合って、挙句実力行使に出た者同士が今まさに急接近して仲良くなろうとしているこの状況。


 お互いその状況下にありながら、彼は女とうつつを抜かす方を選んだ。

 有り得ないことこの上ない。


 というかそもそも人と会ってる時に急に消えること自体、意味が分からない。

 驚きすぎてその前提を忘れていた。


「いや、え?待っ、はぁ?いやいや、せめて先言えよ!」

「こういうのってその場のムードと勢いが全てみたいな所あるから」

「……」


 なるほど、また言葉も無い。


「ってことで、また明日アカデミーで!There's(やっぱり) no place(お家が) like home(一番ね)!」

 ブツン、と一方的に切れた。藪から棒に。


「ったく、ドロシーめ!」

 こうなった以上必然だが俺は悪態をつく。


 その悪態を見たビルは悪ノリを始めた。

「いや、どっちかってとブリキ男じゃねェか?」

「……あぁ、確かにそうだな」


「「心が無いから」」

 2人の声が同時に重なる。

 途端俺らは笑いだした。


 まぁ今考えるとさっぱり面白くは無いが、達成感と酔いと、その場の雰囲気によるものだ。

 決して俺らの笑いのセンスが壊滅的な訳じゃない。決して。


「まだ何か頼むか?“案山子さん”」

「いや、明日は朝から親父に頼まれたことやらなきゃなんねェし、オレァそろそろ帰るぜ“ライオンさん”よ」


 こうなると魔法使いを見つけなければならない気もしてくるが、世の中にそうそう魔法なんて便利なものは見つからない。

 悲しいことにな。


「ま、そうだな。主役も突然“消えた”事だし、そろそろ解散するか」

 俺はそうして立ち上がる。


「ッし!オッサン!オレら帰るぜ!」

 ビルは大きな声でカウンターに向かうと、ロブは気だるそうに手を挙げ、斜めに振った。


 あれが「はいはい」とか「あいあい」とかそういった類のジェスチャーなのか、それとも「シッシッ」とか「さっさと帰れ」といった類のジェスチャーなのかは未だに分からない。


 だがまぁ、それもいつもの事だ。

 さ、帰ろう。


 外に出るともう夜も更け、太陽の代わりに月とネオンが輝いていた。

 何より最高なのは、この時期、酔いの火照った身体に当たる夜風が心地よい事だ。


 禁酒法ってのは馬鹿だな。

 こんな最高な体験を禁止しようなんて、マフィアよりよっぽどイカれてる。


 いつの間にかビルと別れ、徐々に光が終わっていく。

 散々迷った末に結局、洞窟の奥に向かってしまっているような、あるいはただ繁華街から離れているだけかもだが、こんな夜はそんな気持ちになるものだ。


 なんだって楽しい時間が終わるってのは切なさが込上げる。まだ心はひっそりと光の中だからだろう。


 そしていつものマンションに着くと、おかしな事に明かりがついていた。

 不思議に思った事には思ったのだが、“いつもの事”ってのは時に厄介なもので、当たり前のように家のドアを開けてしまった。


 今の俺の脳に伏線ってやつに気づける能力は無い。ぱっぱらぱーだ。


「……ただいま」

 この時に限ってわざわざ口にした独り言。

 ただそれだけだと思ってた事がほんのちょっとの災いをもたらすってことは充分ある。


「あ、ユウト!おかえ……り……」

 何故か答えが返ってくる。

 当たり前だ。部屋に明かりがついていて、そのドアを開けた。


 そしてあろうことか「ただいま」とでも言ったのなら家族はもちろん、それに答える。


「……ねぇ、ちょっと。何その怪我!」

「あぁ、えーと。これは、ほら別に?その、なんでもないよ」


 ――マズったな。


 禁酒法のあった理由がやっと分かった。

 Come Back(戻ってこい)、禁酒法。



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