第5話「行きは良い良い」
ところ同じく次の日。
俺らは今後の方針を決めた。
まず1つ目は、企業に詳しい人間に話を聞く事。
これは既に目星がついてるから早めに終わることだろう。
2つ目にビルの所属するギャング、クラシック・ボーイズへの聞き込みをする事。
これは“エンジェル”についての話を聞くためだ。
あまり意味は無いかもしれないけど、まぁ、何の情報もないよかマシだな。
有益な情報が出ることを願おう。
んで3つ目、スミスを殺す事。
……例え何があってもこれをやらなければ依頼は完了しない。
逆に言えばこれだけはやっときゃ依頼は完了。
すぐにだってジョンに報告できる。
大体こんな流れでいくことにした。
名前をつけるなら、三叉槍作戦ってとこかな。
「よし。こんなもんか、どうだビル」
「おう、合点だ。異論は無ェ」
「じゃあ、早速1つ目行くか」
「久しぶりだなァ、奴に会うのも」
「あぁ、楽しみだ」
***
“ビッグファイブ”の一つ、ハリソン・コーポレーション。
ここの本社に奴はいる。
「なんか最近、企業にばっか来てる気がしねェか?」
「一応、スミスの専属になった訳だし、こうなるのは分かってた事だろ?」
「こう毎度毎度、バカ高ェタワー登ってると終いにゃテメェが何なのか訳分かんなくなるぜ。こういうのが嫌でフリーになったってのによォ」
入り口に入る前からビルの愚痴は止まらない。
それでもまぁ、彼の言うことも確かに一理はある。
「… …でもここはいいだろ。肩で風を切って歩けるしさ」
「それも居心地悪い原因の一つな気ィすんだけどな」
「ハハ、はいはい」
そうして俺らはいつも通り、とんでもなく陽気な受付嬢と話し、エレベーターを経由して、目的の部屋の前に着いた。
1、2分その前で待っていると、扉から出てきたのは金髪で顔立ちの整った男。
身なりも良く、いかにも御曹司ってな男がローブ姿で出てきた。
「カワバンガ!君達、よく来てくれたね」
とその男は言いつつ、見た事の無い美女と出てきた。
「おっと、じゃあね。子猫ちゃん」
そうしてその2人はイチャコラと親密そうな掛け合いをして、美女の方は俺らを尻目に横切っていった。
「ハァ、またこれか。コイツはいつもこうだな!」
「やぁ、ビル。相変わらず元気だね」
ビルが大きなため息をつくも、この男はそれにお構い無し。
平生を保っていた。
「アート、久しぶりだな。……部屋に入ってもいいか?」
「いいよ、もちろん。どうぞユウト、ビル」
「どうも」
案内されて入ってみれば、いつ見ても豪華な部屋だ。
現代サイバーな雰囲気がここにはあまりない。
よく分からないが、ヴィクトリアン調とでも言うのだろうか?
シャンデリアがぴったりの雰囲気だ。
金細工があって、壺があって、……まぁそんな感じ。
「……それで、何の用で来たのさ?」
さて、この男の名はアーサー。
アーサー・C・ハリソン。
名前を聞けば分かる通り、この大企業“ハリソン・コーポレーション”の御曹司、 次期社長その人だ。
その家柄のおかげで馬鹿みたいに不自由無い生活を送ってきた変人だ。
……の割にはまぁ割と話の分かる奴だし、とても気の合う男だ。
初めて出会ったのもちょっと俺らで“悪さ”をした時だったしな。
俺らみたいに正式な苗字も無いような人間には理解が出来ないが、生まれながらに何もかもを手に入れた奴は時折“不良ごっこ”をしたくなる事があるらしい。
な、変だろ?だけども、そんな奴なんだ。
こういうタイプの男を受け付けない人間も多いだろう。
しかもさっきの通り、女にモテるってのも気に食わないポイントに拍車をかけてくれる。
……これ以上言ってると「もしかしてお前が、そもそもこいつのこと受け付けてないんじゃないか」なんて声が聞こえて来そうだからこの辺でやめにしておこうか。
そろそろ本題に入ろう。
「最近の俺らの仕事の話は聞いてるか?」
「あぁ、もちろん!……全く」
「だろうな、そこから始めよう」
「なよっちィオマエに、オレ様の活躍を教えてやるぜ」
「うん、ぜひ頼むよ」
***
「――なるほどねぇ。それで僕のところに」
「協力してくれるか?」
「もちろん、こんな楽しいことに僕を頼ってくれるなんて光栄だよ」
両手を広げて歓迎してくれている。
来て正解だな。嬉しい限りだ。
「オイ、話聞いてたのか?今回ばかりは真面目にやってくンねェと丸ごと殺されちまうぜ?」
「はいはい。……カタオカね。ライバル企業だし、情報ならウチのクラウド内に沢山あるよ。ちょっと調べてみようか」
「あぁ、マジで助かる」
そう言うとアートはうなじから細いコネクタをPCに繋いだ。
そして彼は作業をしているのを俺はじっと眺めることにした。
「本当は君たちにも手伝って貰いたいんだけど、流石にウチの情報全部見られる状態にしたら僕でも殺されるだろうしねー」
「だろうな」
「ホントにこの依頼を盛り上げたいなら、それくらいのスリルはあってもいいんじゃねェか?」
「いやぁ、僕はすぐ横でちょっかい出す傍観者くらいのポジションでいいんだよ。……ってかさ、この後カタオカに帰るってこと?」
「あぁ、スミスに会いに行かなきゃならないしな」
「ふーん、じゃ、ここの会合バレてないといいね」
ったく嫌な事を言う。
これが全くその通りの懸念なんだから憎い。
「それでも一応、他所の依頼も受けていいって許可は貰ったけど、どうだろうな。やっぱマズイか」
「ヤツがオレらを信用し切ってるか確信がねェからな」
「意外と尽くしてきたから、ある程度の信頼はされてると思うけどな」
俺とビルは悩ましく考え込む。
スミスの奥深くまではさすがに知る由もないが、何となく彼には親近感が湧く。
だから大丈夫!
とはならないが、それがある程度双方の信頼に寄与する事は正しいと思ってる。
「……まー、企業の人間なんて何考えるか分かんないしね。人間より機械の方が分かりやすくていいや。用心しなよ、二人とも」
そう言うとアートの作業の手が止まった。
どうやら欲しいソースがヒットしたらしい。
「……うん、なるほど。スミス・アンダーソン、手強いね。“エンジェル”の関係者である疑いはあるけど、経歴がほぼ空白だ。カタオカに入る前の情報がほぼ無い。幽霊でも見てる感覚だよ、まるで大人のまま生まれた人間を見てる気分。企業の人間にしちゃ珍しい、ストリート出かもね」
アートは手を口元に置き、考えながら話している。
「やっぱれっきとした成り上がりか……」
「他の奴らと違って野心も大きいだろうし、ストリートへの偏見も少ないだろうね。君たちを雇うくらいだし」
ごもっとも。
「……言わないようにしようと思ったがやっぱキツイぜコレ。確かに少しイヤミだけど、あんなに良くしてくれたヤツがオレらのターゲットなんてよ!」
「そうだな。……今回は俺らが悪者だ、完全にな」
「うーん、そうだね。これ、フリーの仕事も減りそうじゃない?」
……確かに。
考えちゃいなかった。
姉さんの真相究明に必死すぎて他が疎かになりすぎた。
あぁ、俺の悪い癖がこんな所で出ちまった。
「考えてなかった。今後の肩書きが専属クライアント殺しってのは流石にまずいか」
「まずいねぇ」
「なんつーか、前途多難だなァ。ま、その方が燃えるしいいか!」
悩んだと思えば笑顔になる。
壊れた人形でさえも彼を真似出来ない。
「ユウトもこの前向きさは見習った方が良いかもね」
「バカにしてんのかホメてるのかどっちだ?」
「褒めてるでしょ?もちろん」
「嘘つけよ」
なんだか懐かしいやり取りに俺も思わずツッコんでしまった。
学生時代はこうしてこの三人で一緒にふざけ合ったもんだった。
それは実際、アート達も感じていたようで、それがこの次の台詞に繋がったんだろう。
「僕最近暇なんだよね、パパもあんまり仕事手伝わせてくれないし。なーんかグレイスとコソコソやってるみたいだし」
「まァ、オレが親父でもこんなやる気のねェドラ息子使ったりしねェな」
「同感だ」
俺はビルの言葉に頷く。
「でやっぱ僕って正義感強いからさ」
「……コイツ、嘘つかないと死ぬチップとか入ってんのか?」
「あぁ、そうか。なるほど。それでこいつの人生の謎が全部解けた」
そうでなければ説明がつかない。
「だから一緒に連れてってくんない?」
「断る」
「断固な」
俺とビルはゼロリハーサルの阿吽の呼吸を見せつけた。
彼をいじるという事は、この三人においては全く予定調和だった。
「好き勝手いってくれるね、ほんと」
「……冗談だ。また三人でひと暴れするか」
「ハハハ!また騒いでやろうぜ!自殺部隊にようこそだ!アート」
「うっわ、縁起悪いチーム名!」
全面的に同意するところだが、どうせ何を言ってもビルには無駄だから、今の言葉は聞かなかったことにした。
「……まぁ、実際のところ、企業に詳しい人間がチームに居てくれるのは心強い」
「いやぁ、それは君も……。いや、流石に僕の方が詳しいか」
「あぁ、俺のは所詮人づて、付け焼刃だよ。働いてる人間の心すら分からなかったんだから」
俺は手を上にいやいやと扇いだ。
そう。あの日、俺には何も理解できなかったから。
「どうやら自分を卑下する癖は抜けてないみたいだね」
「そうなんだよ、アート!言ってやってくれ!オマエがいなくなった後もあの日の幻影から逃れられてねェんだ!オレじゃ救えねぇ言葉ばっかり言いやがる!」
ここぞとばかりに捲し立てるビルに若干の罪悪感もあるのは確かだが、俺にもプライドってもんがある。
「……卑下じゃない、事実だ。それに――」
少しの間の後、俺は言葉を続けた。
「それに、俺はあの日以降もありのままであろうと努力してる。そう見えないのは俺の努力不足か、お前らの色眼鏡のせいだと思う」
「……そこじゃないと思うけどね」
久々に会ったというのにアートにすら俺の思いは否定されてしまった。
「……そうだな。いいか、ユウト。努力が必要な時点でオマエは元通りじゃねェ。それに、オレは別に元に戻れって言ってんじゃない。オマエは“あの日”を乗り越えて、強くなる必要があると思うってオレァ言ってんだ。それがオマエのカタルシスだ。違うか?」
ビルの強い言葉に思わず心を打たれる。
あまりの霹靂に、若干こちらの表情が固まった。
「わぁ、強い言葉。言うようになったね、ビルも」
本当にアートの言う通りだ。
ビルはキチンと物を言うし、 そしてそれは大抵正しい。
ビルはいい奴だから、それ故そこに甘えていた部分が俺にもあった。
こいつは俺に付いてくれば自ずと夢に近づく。
だからこそ手放しでも俺についてきてくれている節もあると思ってたが、どうやらそれは俺の不安から生じた幻想のビルらしい。
彼は彼でちゃんと俺を想ってくれていて、今現に友人としてのアドバイスをくれた。
……反省しないと。
あーぁ、思ったより引きずってるんだな、俺。
「……フフ、まさかビルに諭される日が来るなんてな」
「ま、持ちつ持たれつってヤツよ!」
俺らは三人笑った。
笑った後に、俺は決意した。
そうだ。自分自身に向き合って変わらなくちゃならない。
この依頼はそれに絶好の機会だ。
……完遂しよう。
それで真実と向き合うんだ。
「……そうだな、確かに俺は姉さんの職場の話を聞いてたおかげでサカモトの内部事情にはある程度詳しい。だが、企業回りの事にもっと詳しいのがアート、お前だ。だから力を借りたかった。まさかまたチームを組むとまでは思わなかったが、……ありがとう」
改めて謝辞を述べる。
これから起きることは全て、俺が俺に向き合うための作業に付き合わせることになるから。
「うん、どういたしまして」
「これからも一緒に頑張ろうぜ、ユウト」
「あぁ、ビルもありがとう。スミスとの専属契約をした時も多分思う所があっただろうが、黙ってついてきてくれて感謝してる」
もちろん、それを気づかせてくれたビルにも感謝している。
こいつがいなきゃ今の俺は無い。
「安心しろ、ユウト。オレはオマエが暴走したら死んでも止めるし、あの一件以来企業にムカついてるのはオレも一緒だ。だからオマエが金の為じゃなく、企業に近づくためにスミスとコンタクトしたのは分かっちゃいたが黙ってたぜ。……どこにでも振り回せ、ユウト、オレにはこの腐った世界で名を上げたいって夢がある。オマエについてけばソレも叶いそうだからな」
力強い言葉、彼らの強い視線。
その全てが俺を救うためのものだった。
この信頼に応えること、それこそが俺とこいつらが親友である何よりの証になる。
そう、思えた。
「あぁ、このまま大企業を潰して、ストリートも救ってやろう。ビル。」
「……おう!当たり前ェだ!」




