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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第46話「街の華③」

 

 驚いたように目を大きく開き、「チィッ」と確かにハリソンは言った。

 そしてこちらは大きく後ろに跳び、後退する。


 先程までなら俺を上回るスピードで追いかけて来るはずの彼は、今は息切れと共にこちらを睨むだけだった。


 俺の右手を見て彼は言った。

「……返せ。いくらすると思ってんだよ」


 無視した俺は拳を広げて盗ったチップを確認した。

 左手で一つ一つ摘んでいく。


 ファイアウォールにジャマー、回線強化に機密情報、それと……。


 少し探した末にチップの中からお目当てのものを見つけ出した。そう、これだ。

 戦闘モジュール。


 俺はこれ見よがしに彼に見せつける。

「随分苦しめられた。お前じゃなくこいつにな!」


 彼は自分のこめかみ付近を叩く。

 手を当てて、本当に何一つ残っていないことを確認して後ろ頭をかいた。

 心なしかその動作一つひとつが、今は重みがある気がした。


 一度目を瞑って、数秒後、息を吐きながら彼はこちらを睨んだ。

「やれよ」


 それは決意の目だった。


「……じゃあ、遠慮なく」

 俺は左手でつまんでいたチップを潰した。

 人差し指と親指の中でパチリという音を立てて、それは灰になった。


 それから右手を揉み込むように擦った。

 終わりに手を少し緩めると、粉々になったチップの欠片が地面にパラパラと落ちていった。


「これでどっちが優勢かな」

「こっちに、決まってるだろ。そもそものパーツの性能がお前なんかとは、まるっきり違うんだから」


 それはそうなのかもしれない。

 だがこちらの見立てでは互角か、あるいは……。

「ならやってみろよ」

「言われずとも……!」


 ハリソンは勢いよくこちらに向かってくる。

 だが今までとは決定的に、スピードもパワーも、覇気すらも薄い。


 そして彼の足、拳が縦横無尽にこちらに飛んでくる。

 俺はただ身体ごと右へ左へと避ける。


 あぁ、遅いな。

 どう考えても。


 これじゃあ素人だ。

 周りにいる奴らの方が強いんじゃないか?

 パーツが良くても当たらなきゃなんの意味も無い。


 チラリと周りを見渡すとボチボチ争いは終わっていそうだった。

 なんというか、その多くが倒れているが立ってこちらの勝負を伺っている奴らもいる。


 見た限りだと戦況はこっちの勝ちみたいだな。

 端では血や泥で汚れたビルが腕を組んで、ニヤけ面でこちらを見ていた。


 まぁこんなとこでやられるタマじゃないよな。

 思わず変な笑いが出た。


 するとハリソンの手が顔の目の前に来ていることに気づく。

「何よそ見してんだよッ!」


 だが俺はそれを左手で受け止め、力強く握りしめる。

「……そうだな。そろそろお開きみたいだ、ハリソン」


 その言葉を言い終わると彼の頬目掛けて右手で思いきり殴りつけた。

 彼は後ろに飛び、地面に叩きつけられた。


 大の字となったそこへ馬乗りになる。

「何か最後に言い残すことは?」


 右頬の赤くなった彼は静かに目を閉じた。

 街の喧騒から離れ、静まり返ったこの裏世界でより一際静かな空気が流れる。


 まるで全ての終わりのような。

 あるいはまだ宇宙が初めての誕生日を迎える前かのような静けさだった。


「……無いよ。こんなクソみたいな世界に思う事も、ましてや言う事なんか一つも無い。思いきりやりなよ」


 その静寂を打ち破り、彼は一層悲しい言葉を残した。

 彼の表情が諦めなのか、悲観なのか、外からその真意は分からなかった。


「……悲しい奴だな。それじゃ、遠慮なく」

 俺は拳を振り上げた。


 満を持してその拳を振り下ろす。

 そして彼のおでこの辺りにそれは当たった。



 ――ペチン。



 おでこと拳が優しく当たる音がした。

「よし!これでお前のシケた人生の一幕目は終了だ!その命、俺に預けてもらうぜ」


 ハリソンの顔はおもむろに歪んだ。

「はぁ?何言って――」


「いいからさっさと立てよ。負けたんだから言うことくらいは聞いてもらうぜ」

 俺は馬乗りを解除しながら彼のおでこを二度ぺしりとはたく。


 それを聞いてハリソンは不満そうにゆっくりと立ち上がった。

 こう落ち着いて見ると俺も彼も思った以上にボロボロだった。


 あーぁ、折角親父さんに貰ったパーツが傷だらけだ。

 こりゃ後で怒られるな、最悪だ。


 全くここまでよくやったもんだな。

 とりあえず何処かで一息つこう。

 ……ナカトミでいいか。そろそろ飯時だし、腹が減った。


 服に付いた汚れを落とし、その場を去る準備をしていると周りの連中がこちらに近づいてきた。

「おい。ソイツを殺らねぇならこっちに渡せ、俺らが引導を渡してやる」


 俺はこの時、既に外野の連中のことをすっかり忘れていた。

「あ?いや、いいよ。お前らの仕事はこれで終わりだ。ビル!ちょっとこっちに来てくれ!」


 ビルに向かって手を招く。

 こいつらに向かって報酬を渡そう。


 計算通り数が減ってる訳だし渡す金も少なくて済む。

 なんなら一人ひとりの分け前を多くしたっていい。

 そうすれば後腐れなく――


「最後まで仕事をさせろ!企業のヤツらを殺すのが依頼だったはずだぞ!」

 次第に周りの奴らも同調し、「そうだそうだ」と言い始めた。

 これはまずい。


 血の気の多い奴らだ。

 金なんかよりも企業人を始末することが目的なんだ。


 まぁ気持ちは分かるがちょっと攻撃的すぎる。

 仲間にするには最高のメンバーだな、ホント。


「待て待て!お前ら金は要らないのかよ!」

「安心しろ、お前ら3人殺して金も奪ってやる!」

「いやいやいやいや……」


 フリーの連中が武器を構えてジリジリとこちらに向かってくる。

 周りを見ると思ったよりも残っている奴らが多いことに気づく。


 先程まで仲間だった彼らが一転、すぐさま敵へと大変身を果たした。


 近くに来たビルとハリソンの肩を叩き、後ろを向く。

「おい、逃げるぞ!」

「お、暴れた後の軽い運動か!健康でいるための最高のメニューだな!」

「え、嘘でしょ」


「嘘なもんかよ!」

 そうして俺らは倒れたスーツの男たちと、罵声を浴びせて追いかけてくる数人を背に逃走劇を始めた。


 振り切ろうとメインストリートに向かう。

 この頃時刻は8:01PMを回り、夕日が通りを照らしていた。


「ねぇ、ちょっと!どこ行くの!」

「いいから着いてこい!この世界がそこまで捨てたもんじゃないって事、教えてやるよ」

「はぁ!?」

「いいから黙って従ってろって!」


 ため息をつきながらハリソンは仕方なさそうに俺らに着いてくる。

 後ろを見るとまだ追いかけてくる奴らがいた。


 ……こんな場面で思う事では無いかもしれない。

 だがいいもんだ。


 こうやって夕日を背に走っていくのは、なんていうか、そう。悪くない。

 それがこの2人なら尚更。


 いや、もちろんハリソンとは親友って訳じゃない。

 だから分からない、分からないけど。

 良い気分だ。それだけは確か。


「よし!このままロブの所まで行くぞ!」

「ッしゃァ!またあのオッサンのツケで飲み食いだ!」


 勝手に盛りあがった俺らをハリソンは息を切らしながら呆れた顔で見ていた。

 ただそれも今までとは違い、その顔はどこか幸せそうに見えた。



 ***



「いやー疲れた」

「ハァハァ、……クソっ!チップを抜かれたのが、ここにきて、足を引っ張ってる!最悪!ホントに、今すぐ返して!」

「だらしねぇヤツらだな。ッたく」


 やっとの思いで追手を振り切り、なんとかナカトミまで辿り着いた。


 ハリソンが息を整えながら看板を見る。

「……で?ここはなんなの?」


「ま、それは入ってからのお楽しみ」

 そう言って3人入口まで入った所でスキャンが行われる。


 そこで俺はロブを呼んだ。

「ロブさーん!これが例の奴!」


 奥の方で「ゲッ」という顔をしたロブ。

 するとスキャンが終わり、いつものおかえりの声が聞こえた。


 キョロキョロとしたハリソンを引き連れカウンターへ。

 そして開口一番はロブが引き受ける。


「お前らそんなボロボロで、元気で何よりだがな!なんてもん引き連れてんだよ!」

「いや、そう言いながら入れたのはそっちじゃんか」

「断ったとなりゃウチが潰れるだろ!」


 ロブの大きな声が響く中、してやったり顔でビルは反論した。

「へッ、ジョン・マクラーレンならそんなダブルスタンダードはしないぜ?」


 だがそれでもロブは落ち着かない。

「ジョン・“マクレーン”な!悪ぃけど俺ァ危ねで橋は渡らない主義なんだよ!」


 ビルは呆れて小さく「嘘つけ」と呟いた。

 俺は店の奥のテーブル席を指さす。

「まぁとにかく、腹減ったし俺ら奥いるから適当によろしく。あ、俺カミカゼで」


「APA!」

 続いてビルも欲しいエールの注文を言い残し奥に向かう。


「あ、じゃあ僕ジャックで」

 それに続いてハリソンもロブに要望を伝え、席に着いた。


 そしてロブはぶつくさと文句を言いながら準備をし始めた。

 それを他所に俺らは会話を始めた。


「……で?何ここ。会員制のバー?」

「まぁ、そんなとこ」

 周りを少し見渡してそう答えた。


「この辺じゃ結構有名だけどなァ。入りたくて無茶するヤツが後を絶たねェくらいには、名が知れてるぜ」


 それを聞いたハリソンは迷惑そうな顔をした。

「なんだってそんな所に僕を……」


 俺は改めてハリソンと向き合った。

「話があるって言ったろ?」


 彼は腕を組んだ。

「言ってないだろ。強引に連れてこられてそのままだ」


「あれ、そうだっけ?」

「はぁ、もういいからさっさと要件言ってよ。欲しいのは金?パーツ?あ、不老不死手術はまだ未完成だし詐欺だからやめといた方が――」



「友達になろう、ハリソン」



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