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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第45話「街の華②」

 

「いいのか?泣いたって引き返せないぞ」

「そっくりそのまま返すよ。今生の別れの挨拶は済んだの?」

「……」

「……」


 後ろからビルが見守る中、睨み合いが続いた。


「お前、モジュールは?」

「アメリカ陸軍のものから空手、カンフー、バリツに至るまで、ありとあらゆるものがインプットされてる」

 彼はコメカミをトントンと指で叩きながらそう言った。


「だから君は僕に敵わないの。さっさと降参しなよ」

「……悪いがそんなもんに負けないほど強いのが俺にも入ってるからな」

「へぇ、ウチの最新のモノを更に改造した“これ”よりも?」

「あぁ。――“経験”だ」


 俺はスカして答えた。


「ハッ!そんなもんで勝てるならこんな商品は世の中に産まれないんだよ!」

「だな。それを今から確かめよう」

 俺はファイティングポーズをとった。

 そして左手をこちらに向けてクイッと2回。


「ビル。手出すなよ」

「チッ、ンなこったろうと思ったぜ!ザコどもやってくらァ!」

 つまらなそうな態度を取り、ビルは俺の背中を叩く。

 彼は周りのドンパチに加わりに行った。

 まぁあいつは大丈夫だ。


 そんなことより自分の心配をしていた方がいい。

 大見得はとりあえず切ったが、少しでもミスったらマジで死にかねない。

 ……集中!


「じゃ、遠慮なく!」

 ハリソンは目をギラつかせながら、一気に間合いを詰めてきた。

 ッ速い!


 彼の右手が顔目掛けて飛んでくるのを屈んで躱し、その先で向かってきた膝先を何とか両腕で受け止める。

 少し後ろに押されつつも何とか耐える。


 顔を上げると瞬く間に左拳が目の前にあった。

 それを右手で弾き、次に降りかかる右の拳も左手で受け流した。

 まるで銃弾のようなスピードで次々と繰り出される技。全くこちらのターンが回ってこない。


 いや、それだけならまだしも、こいつの一撃はとてつもなく痛い。

 あぁ、流石に人を傷つけることに長けていやがる。

 どんだけ金積めばこんな重量級パーツだらけになるんだ!クソ!


 そう思ってる合間にも彼の脚や拳は容赦なくこちらを狙ってくる。

 避けたり受け止めているだけでは永久に勝てない。

 これじゃ終わっちまう。


「ほらほら!どうした!やられてばっかじゃ――」

 ハリソンは大きく右拳を引き、力を溜めた。


「勝てないよ!」

 それを両腕で受け止める。火花が散り、少し皮膚が破けた。

 強化スキンの裏の黒いアルミとカーボンが顕になり、体勢を大きく崩し後ろに飛ばされた。


 その体勢のまま膝を折りたたみ小さくなり、後転の形を取る。

 それが何とか功を奏し、すくりと立ち上がることが出来た。


「……はぁ、……はぁ、なかなか、やるじゃないか。モジュールを多くインプットしてるってのは……あながち、……嘘じゃないらしい、……ったく」


 俺は血の滲んだ自分の右腕を見る。

 金属とカーボン、少しの皮膚と血の湧き出たそこは実際の痛みよりも悲惨に見えた。


「はぁ、もう降参しとけば?白旗あげれば命だけは勘弁してあげるよ」

「……ヘッ、悪いな。俺には日本の血が入っててな。カミカゼしか頭にないんだよ」


 息を整えてまた構えを取る。

 いくらでも立ち上がる気でいないと彼を倒せない。覚悟はしてきた。

 加減なんてしてる暇は無い、こっちも殺すつもりじゃないと。


「……あーぁ、くだらな」

 彼がやれやれとため息をつく。

 それを好機として俺は刹那に間合いを詰める。

 だが彼の眼は俺を捉え続けた。


 なのに彼は微動だにしようとしない。

 重心を落とし、前かがみに彼の前に着いた俺を見下し続けた。


 殴ってみろという挑発だろう。

 腹の立つ奴だ。

 ならばお望み通り!


 勢いそのまま彼の腹正面に右拳を叩き込む。

 付近の風と砂が振動で揺れ、拳に肌と金属の感触が伝わる。

 だがそれでも彼の体勢も表情も全く変わらなかった。


「フッ」


 彼はこの上なくムカつく顔のまま、鼻で笑った。

 俺はその顔を見て口角が上がった。

 馬鹿だな、その無駄なプライドと傲慢さがこういう事態を招くんだ。


 彼が俺のニヤけ面に気づいた時にはもう遅かった。

 ズシンと拳に力を入れる。

 メキメキと拳が腹に食い込んでいき、金属同士が軋む音が聞こえる。


 とうに肌の感触を越え、その奥へと貫いていく触りを覚え始めた。

 その辺りから彼は苦痛の表情を浮かべ、口から唾が飛び散った。


 すぐさま右頬を殴られ、俺はよろけて後ずさる。

 口の中が切れ、血の味が拡がった。


「ペッ。……慌てて手が出ちまうほど痛かったかよ」

 彼は歯を噛み締めた。

 今にもこちらにギリギリと音が聞こえてきそうな程に。


「チッ、分かった分かった。認めてあげるよ、君はそこらのチンピラとは違う。だからもう、手加減はしないからな」

 自分の腹を少し撫でながら彼はそう言った。


 今までのが手加減?おい、冗談キツイな。

 これ以上なんてゴメンだ。

 こりゃ最悪、2対1の卑劣戦術も視野に入れなきゃかもな。


 だが残念、俺の口は聞かん坊だった。

Go ahead(やれよ), Make my da(楽しませてみせろ)y」


 それを聞くとハリソンは一瞬、左を振るようにフェイントを入れ、すぐさま右膝を落としてきた。

 俺は反射的に肘を固めて受け、逆に左肩越しに短いフックを叩き込んだ。


 連続する衝撃と軋みが、二人の呼吸を乱した。

 だが全体的にこちらが押され気味で、依然まずい状況に変わりは無い。


 その事実を確認し息を整えていると、彼の姿は目の前から忽然と消えた。

 どこに行ったかと周りを見回す内に、あぁどうやらこれは後ろしかないと悟った。


 振り向くも遅く、涼やかな風が背中をひと撫でするが最後、彼はもはや影を残すのみだった。

 更に背後に回り込まれた事に気づいた時には、もう全てが遅かった。


 背中に激痛が走る。

 その痛みは光のように素早く全身を駆け回り、脳に到達するのにそれほど時間を要さなかった。


 思わず前傾姿勢になり倒れかける。

 地面に右手をついたその時、その一点に体重を乗せた反動から横回転を作る。


 足払いをした自分の足が確かに彼の足にあたり、ハリソンを転ばしたという確信を持った。

 振り返り仰向けになった彼の顔を見て、そこへ思いっきり拳を叩きつける。


 間一髪で避けた彼の頭を目で追った時、彼のある一点に目が惹かれた。そしてふいに妙案が浮かんだ。

 俺には今、ようやっと勝ち筋が見えた気がした。結構難しいけどやるしかない。


 色んな理由をつけてコイツを更生させるって言ってきたけど、今はただ、ハリソンに勝ちたい。その一心だった。


 地面にいる彼を蹴りあげようとすると、彼はそれをも躱す。次の瞬間には背中をバネに一瞬で立ち上がっていた。


「すばしっこい、流石だな」

 俺はその言葉と共に掌を地面に向け胸の前に持ってくる。

 軽く上下に揺らし、身長を煽るジェスチャーをした。


 それを見ると彼は鼻で笑った。

「ハッ、流石にその程度じゃなんとも思わないよ」

「言われ慣れてるからか」


 なおも煽り続ける俺にハリソンは片眉を上げた。

「そんなことより大丈夫?よく喋るってのは負けてる奴のやることだよ。君、結構満身創痍でしょ?」


 そりゃあな。

 どう考えたって不利だから。


 こっちは命を取りたくないが、恐らく向こうはそんなこと思っちゃいないだろうし。

 いや……、それもどうかな。


 なんていうか。

 命を取ろうとしているようには見えない。

 実際のところ、もしかしたら手加減しているかもしれないし、流石に殺すのは避けているのかもしれない。


 ただ、これだけは言えるだろうなってことがある。

 奴も俺も――


 この状況が嫌いじゃないってこと。


 俺は彼の言葉にニヤリと笑って再び襲いかかり、俺の左手が彼の脇腹を狙う。

 だが彼はそれを受け止め、払いのけた。


「例え満身創痍でも、お前をぶん殴れるなら死ぬ最後の1秒まで戦ってやるよ!」

 そのセリフとともに彼の腹を横蹴る。


 彼は少しよろついたが、あまり意に介さずそのまま頭突きをしてきた。

 それに呼応して、俺は頭に力を入れ返す。


「潔く負けを認めろよ……!このまま殴りあっていたらいずれ勝つのは、僕だ!」

 頭突きが繰り返される。


 おでこの付近から血が滴り落ちるが、それはもう、相手のものか自分のものか見当がつかない。

「……フフ、それは、どうかな?」


 俺は彼を両手で押し飛ばす。

 その勢いを殺し、また向かってきた彼の左拳。


 その腕と体の間を俺の拳はするりと通った。

 そのままハリソンの頭部、丁度こめかみの位置に衝撃を与えた。


 さっき目にとまったもの。メモリーの挿入口、そこに律儀に挿さっている複数のチップ。

 そしてその部位から少し飛び出た“それ”を俺は見逃さなかった。



 ――掴んだ!




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