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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第44話「街の華①」

 

 そして時刻は6:42PM。

 あぁ、そうだ。


 10分以上遅れるのは何かそいつへのメッセージがある時。

 もしお前が誰かに、自分の方が上だと知らしめたいなら集合時間に遅れるといい。


 それでも相手がゴマをすってきたらお前の立場はそいつより上だし、お前がもし下なら……。

 まぁ、殴られるだけで済めば御の字ってな。


 さて、結局正確に何人なのか分からないがこれだけの人数を連れてここに来た。

 ネオン街を過ぎ裏路地の先を行って地下駐車場。そしてその外れにあるデカデカと広がった所に奴らはいた。


 この前言った通り、この辺は治安の悪さから寄り付くやつが少ない。

 こんなにも広い場所でも人はほぼ居ない。そこに追加で怪しい集団がいれば尚更。


 前はこの辺も栄えていたんだろうにな。

 高架も近いし。廃墟は多いし。


 んで見た所これがお相手も相当なもので、ザっとこちらと同じ人数はいると思う。

 良かったな、事足りたみたいだ。


 ……と思いたい所だが、あいつは多分俺らを真正面から完膚なきまでに潰すために同じ人数用意したんだろう。

 良い性格だ。


 だが所詮は次期社長に今のうちから媚を売ろうと企む奴らの集合体。

 それが今目の前に顕現しているって所だろう。


 金、金、金。何をするにも損得勘定(ビジネス)

 そのくだらない世の中の更にくだらない存在がこいつらだ。

 多くの命と労働の上にその上辺だけが輝いて見える。


 そしてその上澄みのほんの一部を今日、救いに来てやった。

 ありがたく受け取れよ、ハリソン。


 ついに相手の集団とこちらの集団が対面に並ぶ。

 ゴングが鳴ればすぐにでも殺し合いが始まるようなピリついた空気。


 コンクリの置物や廃車、ゴミで散らかったその広いスペースの最奥に立つのはハリソン。

 奇しくも先程までのビルのように錆び付いた廃車の上にいた。

 もしかしたらこいつらには演説台に見えているのかもしれない。


 錆びた玉座の頂点。

 初めに口火を切ったのはまさしく彼だった。


「遅いよ」

「悪いな、こちとら悪党(アウトロー)なもんで」

「どんな悪党でも僕を待たせるなんてことは今まで一度もなかったよ。君たちは最低限の礼儀もないね」


 腕を組んだビルは大袈裟に答えた。

「っと、そいつァ運がいい!大人の世界にはこういうコトもあんだよ。社会勉強出来てよかったじゃねェか、お坊ちゃん」


「チッ、口が減らないなぁ、ほんと」

 ハリソンは頭をかいた。


「企業の人間ってのはこういう時もスーツじゃないといけないのか?それがそっちの“ルール”?」

 もちろん、俺は優等生なわけで全然柄じゃないが煽ってみた。


「はぁ、これだから貧乏人は。なんにも分かってないね」

 ハリソンはそう言うと腰から手銃を出し、すぐ近くのスーツ男の背中を撃った。


 甲高い銃声と何かに当たったような鈍い音が同時に聞こえる。

 怪訝な顔をした俺とビルだったが、その撃たれた男がいつまで経っても倒れないのでその表情はますます歪んだ。


「そ。これが機能美ってやつ」

 そう言いながらハリソンはこちらを見ずに自身の銃を見ていた。

 どうやらチャンバーチェックをしているようだった。


 説明されずとも起こったことは明白。

「ったく最近は防弾スキンのせいで撃っても貫通しねェヤツらも増えてきたのに、今度は防弾スーツかよ!」

「悪夢だな」

 まぁどうせすぐに貫徹できる弾やら構造やらが開発されるだろうけど。


「だけどあんなモン怖くねェ!だったら一人ひとり死ぬまで殴るだけ、銃なんて飾りだ!そうだろオマエら!」

 後ろの連中から大きな声が上がる。

 まぁそうだな、こんなことで士気は落ちない。士気はな。


 だが熱を帯びたこの場の空気も爆発寸前。

 あとはきっかけだけ。


 するとハリソンは指を鳴らした。

「始める前に最後に一つ」


 その合図でサイバーアイに異変が生じた。

 赤文字だ。ネットワークエラー?

 うーん。……これはあれだな。


「ジャマーか電磁パルスを撒きやがったな、アイツ」

「……フフッ」

 俺が笑いだすと他の奴らも一緒に笑い始める。


 エリートどもはそれを見て不思議に思っているみたいだった。

「何がおかしい!これでお前らはネットにも繋げないしID銃はもう撃てなくなったんだぞ!」

 ハリソンが声を荒げたが、俺らは笑い続けた。


 それにしびれを切らし彼は再び声をあげた。

「……ああ。負けるのが分かって現実逃避したくなったってこと?だったら今のうちに降参すれば――」

「ったく、お偉いさんってのはストリートをなんにも知らねェんだな!」

 ビルはサブマシンガンを空に向かって数発撃ち、馬鹿にした表情をハリソンにむけた。

「ここの連中の誰がID銃なんか使うかよ!」


 その横で俺はビルに耳打ちする。

「おいあんまり弾、無駄使いすんなよ」

「バカ、ここで出し惜しみしたらカッコつかねェだろ」


 俺らがヒソヒソと話しているとハリソンは遂にキレた。

「クソッ!お前ら、あの社会のゴミどもを全員殺せ!」

 そう言うとむこうのスーツ野郎達が一斉射撃を開始した。


「おっと」

 咄嗟に俺とビルはすぐ近くのコンクリートブロックに隠れた。

「ったく締まらねェ始まり方だな」

「現実ってのはこんなもんだ」


 周りを見るとこちらの連中も応戦を開始している。

 耳をつんざく銃声が響き渡っていた。

 少し顔を出すと周縁ではちらほらと白兵戦の連中もいるようだ。


 既に現場は混乱状態。

 敵味方入り混じっていて、肝心のハリソンの姿はもう見えなかった。


「こりゃ殴り合いに持っていった方が勝率高そうだな」

「そんなこと言ったって向こうがノってこねェだろ」

「さっきお前、ジャマーかパルスって言ってたけどさ。よく見ろよ」

「あぁン?……お、これただのハッキングか」


 ビルが驚いた顔をしたので俺は笑みを浮かべる。

「お前得意だろ。やり返しとけよ」

「ヘヘッ、任せろ」


 そう言うとビルは目線を忙しく動かし始める。

 ニューロ・ダイブしているんだろう。彼の目の前は外からは見えないコードでいっぱいのはずだ。

 あと少し待てば奴さんは銃が撃てなくなるはず。


「ッし!完了!」

 ビルがそう言うと、向こうから動揺と困惑の声が聞こえてくる。

 銃声が半分になった。本当にやり返せたみたいだ。


 ネットで管理された銃なんか使うからこんなことになるんだ。

 毎日毎日、身内に殺されるのが怖くてID管理しているんだろうが、こんなところまでそれを持ち込んだら馬鹿丸出しだ。


「ッしゃあオマエら!ヤツらのハジキはロックしたぜ!殴りかかっちまえ!」

 瞬間、雄叫びを上げながらフリーの連中が飛び込んでいく。

 ……うわ、釘バットなんて久々に見たな。


 それはともかく。

「よし。これで俺らもいけるな」

「おう!ハリソンまで一直線だ!」

「気をつけろよ」

「へッ、テメェの心配だけしてな!」


 そう言い残すと、俺らは同時にブロックの陰から飛び出る。

 一番近くにいたスーツ男に向かって走る。

 ビルはその男に向かってダブルでサブマシンガンをぶっ放し続けながら走る。


 銃弾は彼を貫くには至らない。

 だが弾幕に耐え切れず彼は少しよろける。

 その間、即座に彼に近づき俺は跳ぶ。


 そのまま相手の顔に目掛けて右足を大きく回し蹴りする。

 生まれつき足には自信がある。速さも堅さも。

 鉄と鉄がぶつかる音が響き、敵は左に倒れる。


 これだけでは頭のパーツが少し剥き出した程度だ。とどめが必要だろう。

「ビル!」

「おうよ!」


 先程の俺よりも遥か上空に飛び上がったビルはそのまま落下の力を拳に込める。

 倒れた男の顔目掛けてその拳を打ち下ろした。


 その勢いで彼の顔は瞬く間に木端微塵。

 見たところやはり生身よりもサイバー化割合の方が高い。

 そりゃスキンが堅いわけだ。


 だがまぁ構造上、というか安全性の観点からあまり顔の装甲が厚い奴はいない。

 なので狙うなら頭だ。このようにな。


「こりゃあ随分楽しめそうだぜ!」

 ビルは楽しそうで何よりだが、先ほどからハリソンが見当たらない。


「気をつけろ、ビル。さっきからハリソンが見えない」

「へッ、どうせビビッて隠れてんだろ!だったら――」

 ビルがこちらを向くと目を見開いた。


「相棒!後ろ!」

 一瞬、時間が止まったように背筋が冷える。

 ――クソッ、確認する暇はない。

 このまま前に転身して緊急回避だ。


 ぐるりと回ると視界に上空のハリソンが見える。

 どうやら俺と全く同じ蹴りをしたらしい。当てつけだ。

 回避した後に俺は後ろを振り向いた。


「お出ましだな」

「結構やるじゃん、アカデミーでは蹴られっぱなしだったのに」

「ビジネスで喧嘩してる奴が俺らに適うわけないだろ?アカデミーでは大人しくしてやってるだけだ」

「ふーん。そう」


 左手で右手を摩りながら余裕の表情を浮かべる。

 全身で余裕を醸し出そうとするその試みが安っぽさを助長させる。

 しかし事ここにあっては、場の空気は決戦を所望していた。



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