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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第43話「Good Evil, Bad Right」

 

 次の日。

 そこからは全てが順調だった。


 俺は朝からアカデミーに居て、これ以上ない程“行儀良く”授業を受けている。

 そしてビルはそれはもうスムーズに事が運んでいるらしい。


 ――朝から色んなところ回って100人以上と連絡先交換した優秀な奴は?

 ―この俺様!( ͡° ͜ʖ ͡°)


 だってこんなメッセージが届いてるからな。


 それにこれはもうアイツに任せた。

 放っておいていいはずだ。


 俺は成績を良くすることだけに集中しよう。

 そんな思いで真面目に授業を受けていた訳だが……。


 あぁ、特段隠すことは無い。

 正直胸は高鳴っている。


 それは彼を更生させることか、はたまた久しぶりの抗争だからか。

 それともシルヴィオや姉さんに黙って行うという背徳感から来るものか。


 いや、自分では気づいていないだけで以前からずっとこんな調子だったのかもしれない。

 ハリソンに会ったあの時から。


 思えばクラシックスが他のマフィアやギャングとドンパチやる時もこれくらいのワクワクがあったものだ。


 アレに比べたらこんなモノ、子供の喧嘩に過ぎない。

 まぁ、実際にガキ同士の喧嘩なんだけども。


 ハリソン本人がどれだけ強いかは分からないが、周りのヤツは雑魚ばかりだ。

 言うなれば、貴族のおままごと、不良に憧れた企業人のお遊びって表現がふさわしい。


 俺らは生きながらのアウトロー、仕方なくやってる事だ。

 だが奴らはそんなことを表立ってする必要が無い。

 だってやりたいことがあれば(ルール)の方を曲げればいいからな。


 だから奴らは遊び、俺らとは違う。


 ……自分の行動を仕方なくだなんて表現してる時点で俺も同じ穴の狢なんだが、それは一旦目を逸らすとして。


 ともかく!そういうわけで俺としてはさっさと授業を終わらせて欲しいわけだ。

 だがしかし、急いたところで早く終わる訳でもなし。


 授業に耳を傾ければ、やれ環境がどうだの、企業がどうだの、市民の責務がどうだのと。


 なにが『環境問題とその対策』だ。

 誰のせいでこの国がこんなに汚染されてんだよ。


 他にやりたいことがある時の授業時間がこれ程つまらないとは。

 この前までは一定の楽しさまで感じていたのに、人間ってのはままならない生き物だ。


 そんな悪態をつきながら、それでもゆっくりと着実に時間は過ぎていった。

 ふと気がつくと、午前の授業は終わり、ランチタイムに入った。


 今日はなんだか世界の始まりみたいに天気が良い。

 中庭の芝生で昼寝でもしようかな。


 日陰に生きる者としては太陽が鬱陶しいが、たまにはそれに照らされてみるのも悪くない。

 30分くらいならいいだろう。


 そう思って中庭に向かう。

 生徒の大半はカフェテリアだ。

 ここなら静かに一人で居られる。


 寝転がっても汚れなそうな人口芝生、体温調節しやすそうな木陰、その完璧なスペースを見てここにしようと思った。


 早速寝転がり、頭の後ろで手を組む。


 うん。これだ。

 悪い気はしない。

 どこか懐かしい気もする。


 時折日の光を遮る上空の大型ドローンさえ無視すれば、この街には相応しくない程に優雅だ。

 このまま全てのしがらみから解放されれば良いのに。


 この時間も人集めに奔走しているであろうビルにざまぁみろと皮肉を思いつつ、ウトウトし始める。


「やぁ」


 ――溜め息が出る。

 あぁ、やっぱりか。


 これがこの街に相応しい展開ってやつだ。

 目は閉じたまま、その声に数秒遅れて返事をする。


「邪魔すんなよ」

「気持ちよさそうなところ悪いね」

「悪いと思ってんならどっか行け」


 ハリソンは宙をいじり始め、こちらに何かを見せつけてきたらしい。

「これ、君でしょ」


 俺は片目を開けてチラリとそちらを見る。

 送られてきたそのホログラフには、俺らがドン・シルヴィオのフリをしてハリソンに送り付けたチャットの画面が映っていた。


「なんのことだか」

 俺は再び目を閉じる。


「あっそ。まぁそれでいいよ」

「そうか。なら帰れよ、眠いんだ」


 俺は手でしっしとする。


「今日、この取引に君たちが来るよう指名したんだ」

「……それはそれは、光栄なことで」


 どちらもとぼけた会話だ。


「だから助言しにしてあげたんだよ。これが最後だから身内にハグでもしときなよって」

「へぇ、優しいんだな」


 その後、彼は一転してドスの効いた声になる。

 表面上の会話はどうやらここまでらしい。


「覚悟しとけよ。お前らがどれだけチンピラ寄せ集めようが、この手ですり潰してやるからな」

「フフッ、そっくりそのまま返してやるよ。企業如きのおもちゃの兵隊じゃ俺らは殺せない」


 思わず失笑し、俺は目を開ける。

 彼と睨み合いが続いた。


 やがてハリソンはくるりと後ろを向いて歩を進めた。

 彼はそのまま去った。「逃げんなよ」という言葉を残して。


「はぁ」

 俺は今度は声付きで溜め息をつく。

 ……これじゃあ見かけ上の取引という建前すらないじゃないか。


 あぁ、あわよくば最新パーツを盗っちまおうって計画がおじゃんに……。

 まぁ、そんなのどうでもいいと言われたらそれまでだが。


 ったく。シラけたな、教室に戻ろう。


 よく考えれば遠くに見える大型ビジョンも雰囲気ぶち壊しだ。

 何もかも邪魔してくるな。


 俺は一人自分の席へと向かった。

 そしてこの日のアカデミーでの記憶はそれが最後になる。


 恐らくその後はなんのイベントも無くその日は終わったんだろう。


 アカデミーが終わり、時刻は5:37PM。

 ふと気づけば、俺はビルと合流していた。


「おい、おい!兄弟!聞いてんのか」

 ビルが俺の顔の前で手を振る。


 それに揺られ、俺は目をぱちくりとさせた。

「あ、あぁ。すまん、なんだっけ」


「ンだよ!やっぱ聞いてねェじゃねぇか!」

「ごめんって」


 俺が頭を掻くとビルは明後日の方向を指さす。

「ほれ、人集めたから今から行くぞ!」

「集めたって、どこに?」


「2ブロック先にあるあのバカでかい駐車場にな」

「へぇ、あんなとこに?……なら結構な人数を集めたんだな」

「それは着いてからのお楽しみってヤツ!」


 笑顔のビルとは裏腹に、そろそろ緊張感を帯びてきた。

 あと1時間足らずで遂に始まる。


 少しの緊張をスパイスに、胸の鼓動は更に高鳴ってきた。

 さてその道中、俺はビルに伝えといた方が良いことを思い出した。


「そういや今日ハリソンに絡まれた」

「ほーう、ヤツはなんて?」


「『逃げんなよ』ってさ。人集めてる事もやっぱバレてるみたいだった」

「ハッハッ!そりゃあイイ!バレてようがバレてなかろうが、やることは一緒だしな!」


「まぁな」

「気に入らねェからぶん殴る!これが全てだ!」

「ま、基本銃撃戦だろうけどな」


「……あぁ、だろうな。ッたく、酷ェ国だぜ」

「それ喧嘩で殴り合いが出来ないから言ってんのか?それとも、銃が自販機で買えるっていうこの国の法制度に皮肉言ってんのか?」


「どっちもに決まってンだろ」

「あーそうかい」

「ま、嫌いじゃねェけどな」


 ビルが不敵な笑みを浮かべた頃、俺らは目的地に着いた。

 メインストリートから少し外れ、寂れた街並み。


 その近くにある誰が使うかも分からないパーキングに100はゆうに超えてそう人数が集まっていた。


 眉を上げたビルが乾いた声で言う。

「もっと集めたハズなんだけどなァ。現実はコレだ」

「100人超えてりゃ御の字だ。ありがとな」


 戦いってのは連携や熟練度も大事だが、士気も大事だ。

 それを考えれば企業に恨みがある人間が150人前後いるだけで立派な戦力になる。


 だからこれでいい、数が居れば。

 端から個々の強さには期待していない。


 俺らが駐車場に入ると、大勢がこちらの方を見た。

 片目のサイバーアイが欠けてたり、そもそも一つ目(サイクロプス)だったり、片腕がニッパーの奴やアニマル化手術をした奴とか。

 個性豊かなチンピラが勢揃い。


 そんな奴らに注目されたので、俺はすぐそこにある放置車を指さす。

「よし、発破をかける時間だ。いけビル」

「任せとけ」


 そしてその錆びた車の上にビルが立つ。

 6秒ほど周りを見渡して、やっと口を開いた。


「オレたちには生活がある!汗水垂らして懸命に働き、毎日を必死に生きてる!」

 群集の1人、無口そうなタンクトップの女が小さく頷く。


「だがそんなオレらから家族を奪い、友人を奪い、仕事を奪い、私腹を肥やすクソ野郎共がいる!それが企業人のエリート共だ!」

 外野からもまばらに「そうだ!」という声が聞こえてきた。


「そしてこれからオレたちが向かうのはその企業の中の企業、ビッグハンドの1つ、ハリソン・コーポレーションの御曹司がいる場所だ!」

 彼の演説も徐々にヒートアップし、場に熱が帯びてくる。

 

「……つまりやることはたった1つ!分かるな!オマエらの恨みを!憎しみを!怒りを!全部ヤツらにぶつけてやれ!オマエらが味わった屈辱を何倍にもして返してやれ!真の自由を取り戻す時だ!オレらは何者にも縛られねェ!自由だ!」


 握りしめた拳や身振りを巧みに使い、ビルは最後に手を天突き上げた。

 ビルの演説の締めの言葉、それを聞いた周りから地の揺れるような歓声が聞こえる。


 そして歓声と同時に人々の手が高らかに掲げられた。

 次々と「殺してやる!」、「奴らに報いを!」、「自由を!」と多くの声の波紋を共にして。


 薄ら笑いをした汚れたコート姿の男や銀脚の男、金属製のパイプを手にした者も高々と振りかざす。

 幾重もの大きな音が1つになり、まるでこのパーキングがテーマパークのようになった瞬間だった。


 全く、誰に似たのか、口が上手い。

 俺は占星術なんて知らないが、こいつの向いている職業が独裁者ってのは分かる。


 ビルがこっちを向いて車上から下りてくる。

「ッし!こんなモンだろ」

「お疲れ」


 俺らは2人、ハイファイブをした。



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