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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第1章-Angel-
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第4話「小さな期待、大きな機会」

 傍からみている分には短いのだろう。

 俺らには永遠とも思える、重たい時間の沈黙がそこにはあった。



「……」

「……受けるか受けないかの前に、まず理由を聞かせてくれないか」


「それには2つ答えよう。なぜ殺したいのか、そして何故君たちに頼みたいかだ」


「あぁ、そこが知りたい」


 流石は“ホンモノ”だな、企業の成金どもとは訳が違う。人心把握術に長けてるというか、相手の欲しいものが分かるようにできてるんだろう。相手の体温とかも分かるサイバーアイでもつけてるんじゃないかな。決して他人を侮らないんだ。



「話す前にひとつ前置きを言いたい。我々グレイス財閥は君たちを騙したり、陥れたりするつもりは一切ない。聞かれたことは答えるし、本心を語る。そしてだからといって信用して欲しいだとか、君たちも本心を語って欲しいなどと低俗な要求もしない。だからこれは我々の宣誓だ。怪しいと少しでも思ったならここで撃ち殺してくれても構わない。そのつもりで聞いてくれ」


「そのいくら撃ち続けても貫通しそうにない全身要塞(フルシェル)の皮膚を貫通させて殺せってことか?そりゃ対等な条件だな、どうも」

「目は弱い、目を狙ってくれ。そうすれば貫けるだろう」

「弱点までご丁寧にどうも」



 くそ、これはまずい。

 完全に相手の術中だ。会話に於いてこっちに何のアドバンテージも無い。


 奴らはその気になれば俺らを殺せるが、それはしない。

 そうすることでむしろ向こう側の格を上げているんだ。


 企業エリートのニセモノとは違う。

 彼らは生まれながらの勝者、誰もを警戒し、永遠に勝ち続けてきたんだ。ここは……。


「はぁ、分かったよ。おとなしく従おう。ビル、変な真似しないでくれよ」

「オレぁこんなとこで死んでられないからな、しねぇよ」



「……さて、君たちがどこまで知っているか知らないが、スミスがあそこまで登りつめたのは電子ドラッグの影響が大きい。4年前から流行っているものを知っているかい、そう『エンジェル』。これを世に広く流したのは彼の力だ。そのマーケティング能力を気に入られてカタオカに雇われている。悪いがこの電子ドラッグは他の物と比べて、酷すぎる効用だ。それを体験した者はウイルスに感染し、近くにいる人間を感染させる。チャットや脳内通信(ブレインコール)のようなツールに擬態して感染させるんだ」



「セキュリティの低い奴らが感染して廃人になるだけだろ?オレらは平気だろ。財閥様なら尚更だ、何を心配してるんだ?」

「……最近は一部企業の人間にも被害が出ている。どうやら人間を堕落させるにはぴったりの代物らしい。そして最終的にその中毒者は……死ぬ」


「それもよくある話だな、そんなに良いものなら電脳の回路がショートするだろ」

「……死に方でいちばん多いのが、飛び降り自殺。これが『エンジェル』のその名の理由だよ。そしてここまで言ったら君たちに頼んだ理由も分かるだろう」



「――姉さんの死因がそれだって言いたいのか」



「……その可能性があるという事だ。この依頼を受けて調査をしてくれたら、その関連性も分かるかもしれない。だから君たちに頼んだ。他のフリーよりも優秀で、尚且つこの件には真剣に取り組んでくれるだろう。しかも君たちはスミスの専属だ。これ以上ない好条件。どうだい、やってくれるなら私たちもサポートしよう。純正のサイバーパーツもいくらでも支給できる。勿論依頼が終わった後も返さなくて結構だ。君たちの今後に大いに役立ててくれ」


「……自分たちの息のかかった人間が死んでほしくないってことか?そうなる前に食い止めてほしいと?」



 俺は冷静に相手の出方を見る。こいつの真意を探りたい。


「……。そう思われても無理はない。だが、我々に協力してくれるような民間人は多くない。だからこの『エンジェル』も流行るまで気づけなった、もっと早くに対処すべきだった。私たちはこのような悪が世に蔓延ることを拒絶する。絶対にこの()()の実態を掴み、根絶やしにする。それが我々の信念だ」



「オレはこの話のるぜ」


 脳内通信をやめて、ビルが声をあげた。


「嘘かホントか知らねぇけどよ。こんな世の中で信念を大事にするなんていい話じゃねぇか。好きだぜそういうの。『正義』ってやつさ!やろうぜ相棒!」


 ビルらしい考え方だ、全く。たまに真面目に考えるのが馬鹿らしくなる。もっとも、本当はそれで良いのだろうが。



「お前がそういうなら……やるか!」


 俺もそれに呼応する。ビルがやりたいって言ってるのを無下には出来ない。

 それに姉さんの死因に近づけるならこれ以上のチャンスは無い。このために俺はここまで努力を重ねてきたんだ。みすみす見過ごせるか。



「ハッハァ!そういうと思ったぜ。これ以上無いビッグチャンスだ!よろしくな相棒!」

「おう!」


 そうして俺らは握手を交わす。



「良かった!本当にありがとう。君たちに頼んで正解だった。報酬の話はまた後日でいいかな。これから少し用事があってね。」

「おう!構わねぇぜ、ジョン。だけど最後に一個いいか?」


「ああ、なにかな?」

「オレらから見てスミスって奴はそんな悪事を働く奴には見えなかった。それとも裏ではずっとこんなやつなのか?」


「彼の経歴に傷がつくのはこれが初めてじゃない。擁護するわけじゃないが、そういう世界だ。当然そうだろう。しかし彼の裏なんてものは存在しないんじゃないかな。これも立派な彼の一面に過ぎないと思う。その辺も含めて、彼を探ってみてはどうだい。勿論、仕事のやり方には口出しはしないよ。自由にやってくれ。」



「……なるほどな。気を付けて帰れよ、ジョン」

「あぁ、今日はありがとう。また頼むよ。」


 そう言ってジョンという偽名の男は去っていった。俺らはその後ろ姿を少しの間眺めて、また元のカウンター席に戻っていった。




「はぁぁぁ、疲れた!酔いも醒めたぜ」

「オレさっき言ったがとっくに醒めてたよ、冒頭でな」

「実は俺も冒頭には血の気も引いてた」

「あの冷血漢のユウトがか!こりゃ珍しいね!ロブ!一杯ずつ持ってこい!」



 そういうと奥にいたロバートが酒を持ちながらこちらに来た。


「どうだった!交渉成立ってとこか?というか一体誰だったんだ!あいつ」


 そう言いながらウイスキーの注がれたグラスが俺らの前に出される。


「それは……」

「うーん……」


「「言えない」」

「よなぁ」

「だな」



「おいおい!嘘だろ!そんな大物なのか?それとも生き別れの兄弟とかか?ハッ!刑事か!?ジョン・マクレーンか!!」


 1人で騒ぐロブを横目に俺らはグラスを飲み干した。


「どの場面でもうるさいオヤジだぜ全く」

「フフフ、こうでなくちゃな」



 そうして俺は日常に突如舞い込んできたビッグチャンスを掴めた事に大きな喜びを感じていた。

 一筋縄じゃいかないだろうが、絶対ものにして見せる。


 そう固く誓った夜だった。


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