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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第37話「Carpe Diem」

 

「はああぁ……」


 彼の姿が見えなくなり、どっと疲れが出た。

 なんだってこんなことに。


 これなら家から出るんじゃなかった。

 久しぶりにこんなにハラハラさせられた。


 そう思いながらビルの顔を見ると、彼はいつも通りヘラヘラしていた。


「おい、よく笑ってられるな」

「だって見ろよ。お目当てのモノが手に入って、金も戻ってきて、オマケに悪党をおシャカにしてやったんだぜ?誇るべきだろ!」


「その代わりにあのハリソンを敵に回したけどな」

「ま!そりゃあそうだけどよ」

 ビルは高笑いした。


 全くどこがそんなに面白いんだ。

 本当にマズいぞ。


 というかあいつ、アカデミー生ってことだよな?

 だとしたら鉢合わせになる可能性がある……?


「あー、終わった。遺書とか書いとくか」

「オイ!こんな面白いこと、みすみす逃すつもりかよ!」


「どこが面白いんだ!こっから先、生きるのも命懸けだぞ!」

「……なーに言ってンだよ、相棒」

「あ?どういうことだよ」


 ビルの言った言葉に俺は戸惑う。


「オレらの生き方なんて、いつだって命懸けだろ?今までいくつ綱渡りしてきたよ。でもまだオレら生きてンぜ?今回も楽勝!なんたって――」

 ビルは両手の親指で自分を指す。


「……無敵のビル様だぜ、ってか」

「そういうワケ!」


 まぁ確かに。それもそうか。

 こんな街で生きてられてるんだ。


 少しくらい危険が増えたところで誤差、ね。

 誤差誤差。


 ……本当に誤差だろうか。


「なら、それで納得しとくか」

「オイオイ、まだ納得しねェのかよ!」


「いや、したって」

「してねェだろ。……ッたく、そんなら言うけどよ」


 勿体ぶったようにビルはやれやれと仕草した。


「なんだよ」

「最近、退屈だったんだろ?毎日毎日同じコトしてるだけー、って感じか?ま、オレにゃよく分かんねェけどよ!……でも――」


「今はスゲェ楽しそうだぜ、ブラザー」


 ビルに言われてハッとした。

 あぁ、そうだ。


 確かにさっき暴れた時は清々しい気持ちだった。

 いや、もっと言うと取引がスムーズにいかなそうだと分かった時、確かに胸が高鳴った。


 そうか。

 人には非日常が必要なんだ。


 世の中何もかもつまらない、つまらないと思っていたがそうじゃない。

 つまらなくしてたのは他の何でもない、俺だ。


 あーぁ、ビルに教わることになるなんてな。

 一生の不覚かな。


「……フッ、そうかもな」

 俺はケースの上に無造作に置かれたキャッシュの束を半分ビルに投げた。


「照れんなッ……て。お、なんだよ」

「取引、滞りなく成功したな」


「おう、大成功だったぜ。さっきも言ったろ?ブツも手に入って、金も戻ってきて――」

「いやいや」


 俺はビルの言葉を遮る。

 不思議そうな顔をした彼に告げる。


「大成功じゃない。俺らはただ“成功”したんだよ。なんのさしたるイベントも起こらずに、な」

 ニヤつきそう言うと、ビルは斜め上を向き考えた。


 数秒経ってから片眉を上げ、嫌な笑みを浮かべた。

「あー、そうだな。この金は“たまたま拾った金”ってヤツだな。こことはなんの関係もねェ」


「そういうこと」

「親父にバレたら殺されんぜ?」


 まぁそれはその通りだ。

 一理ある、確かに一理あるが……。


「だけど俺達、生きてる」

「ダッハハハ!やっとチョーシ戻ってきたぜ!それでこそだ!」


 背中をバシバシと叩かれ、身体が揺れる。

 それが終わるとケースと現金を持つ。


「ッしゃあ、行くかァ!」

「あぁ」


 俺はポケットからタバコの箱を出した。

 それを少しだけ見つめ、放置車両のボンネットにそっと置いた。


「いいのか?」

「いいんだ」


 また不思議そうにするビルの顔を見る。

「もっと面白い事、見つけたからな」


 俺らは笑いながらその場を後にし、そのままの足でSHINERに戻った。




 挨拶をして、結果やらなんやらを報告。

 ケースも渡した。


「おー、上等じゃねぇか。よくやったなガキ共」

「任せとけよ、親父!」


 ドン・シルヴィオに向けて胸を張るビル。

 まぁ確かに、それだけの事はした。


「またユウトが暴れて終わりかと思ったけどな」

 ジュニアが俺を茶化しに来た。


「馬鹿言うな、相手は企業の坊ちゃんだぞ。んな事するかよ」

 まぁ、したんだが。


「やっぱり来たろ?ガッハッハッ!お前と同じ所通ってるってからよ。仲良く出来んじゃねぇかってな!」

 シルヴィオに背中を叩かれる。


 仕草が年々ビルと大差なくなってきてる。

 どっちも勘弁してほしいな。


「えぇ、まぁ。……仲良くなれそうですよ」

「なーら良かった!良い顔になったな。俺のおかげだ!ぶわっはっはっは!」


 隣でビルが笑いながら俺を見た。


 ったく。

 どいつもこいつも。


 んな言う程最近の俺は嫌な顔してたかよ。

「……どうも」


「よし!じゃあ遊びに行くか!お前ら!」

 ジュニアが俺ら2人の肩に手を乗せる。


「お!さすが若!行くかァ!」

「どうせ拒否権もない事だしな」


「機嫌よくてもノリの悪さは変わってねぇじゃねぇか、こいつ!」

 ジュニアは俺の頭を叩いた。


「やめろ」

 俺は彼の手を払い除けた。


 そうやって盛り上がりながら3人仲良く外に出ようとすると、「ちょっと待て」と親父さんから声がかかる。


「ユウト、ビル。このパーツはお前らが付けるブツだ。付けてこい」

 葉巻を吸いながら彼は確かにそう言った。


「え?」

 俺とビルは聞き返した。


「2度も言わすんじゃねぇ。これはお前らが付けんだ。行ってこい」

 そう言うとさっきのアタッシュケースが手元に投げ込まれる。


「あ、あぁ、了解」

「おう」


 戸惑う俺らを横目に、ジュニアはヘラヘラとしていた。

「なぁ、親父。んなもん明日でいいだろ?今日は久々にこいつらと遊びてぇんだよ」


「じゃ、明日取りに来い」

「……分かった」


 俺はケースをバーカウンターに置いた。

 ジュニアに肩を組まれ、3人でSHINERを出た。




 俺らが外に出て、やる事は決まっていた。

 それはまず、ビリヤード。


「よし、これで俺の勝ちだ」

「若、手玉のスポットはダメだって何度言ったら分かんだ?」

「……やれやれ」



 お次にダーツ。


「おっしゃァ!ハットトリックだぜ!」

「おー、流石だな。ビル」

「よし、じゃあ、次は1のシングルじゃなくてブルを狙ってくれ、ビル」



 ゲーセン。


「どうだ!これが俺の実力だ!ビル!」

「やるな!若!だけどオレァしこたま練習したからな、負けねぇぜ!」

「2人とも、それデモプレイだぞ」



 とまぁ、大体はこの順で巡っていく。

 そして最後にはクラブに行くのが定番だった。


 なぜ最後か?

 それは勿論、ここで解散するからだ。


 大抵はここで引っ掛けた女と夜の街に消えることになる。

 この日もそうだった。


 いやぁ、でもこの日は最高だった。


 なんて言ったってビルが――


 ***


「ストップですわー!!!」

「おわっ!」


 ハンナの突然の大声で、時が今に戻された。


「な、なんだよ」

「私!私!ダーリンの過去の女性の話なんて聞きたくありません!!飛ばしてくださいまし!」


 彼女はもうかなり酔っていた。


「そ〜だそ〜だ〜!乙女の気持ち分からないなんてユウトってば最低〜!」

「こりゃ一本取られたな!相棒!」

「やはりモテないわけだな」


 もう言いたい放題だった。


「いや、でもこれ話さないとこの次が……」

「嫌ですわ!」


 ハンナは立ち上がって俺の前に来た。

「嫌!」


 膨れ上がった頬がなんとも愛らしい訳だが、この状況を納めなければ進めない。

 どうしたものかと彼女を見つめていると、腕が大きく開かれた。


「え」

「ぎゅってしてくださいまし」


 恥も外聞も無かった。

「いやいや、みんな見てるし」


「んー!」

 強情な彼女のことだ、ここまで来たらするしかない。


 こちらも腕を開き、彼女が飛び込んでくるのを受け止めた。

 背中をさする。


「これで落ち着いてくれるか?」

「んーーーー」


 胸に顔を埋め煮え切らない返事のハンナだが、俺はみんなのニヤついた顔が見えているわけで。

 恥ずかしいので、早々に終わりにする。


「隣座ってていいから、な?」


 そう伝え隣に座らせるが、彼女は駄々っ子のように首を横に振り続ける。

「俺の話聞いてくれない?」


「聞きたい、けど……」

 頬を膨らませたまま下を向く。


 そして数秒後、上目遣いになって肩に寄り添ってきた。

「……もう、他の女の子の話しない?」


「……分かった、しないよ。約束する」

 俺はハンナに手を回し頭を撫でる。


「……じゃあ、聞く」

「ありがとう」


 次いで俺は彼女の頬を撫でた。

 ……見られていることも忘れて。


「……なんかアタシたちお邪魔かも〜」

「オイオイ、ここでおっぱじめるのだけはやめてくれよ!」

Love Birds(バカップル)


「ッ……。話戻すぞ」


 ***


 次の日、寝不足のまま俺はアカデミーに行った。

 ジュニアとビルはSHINERに帰っていった。


 昨晩のビルは諸事情で寝れず、早く寝たかっただろう。

 早急に帰っていった。


 悪いがその“諸事情”はいつか本人に聞いてくれ。

 先程思考に制約がかかったもんでね。


 アカデミーに着き、いつもの席に座る。

 今日も高性能AIやらヒューマノイドやらの教師が教鞭を執った。


 最近はヒューマノイド教師と言えど、小賢しく小話などを挟んでくる。


 案外きちんと聞けば、授業って面白いよなーなんて考えていたころ。

 この時俺は既に忘れていたことがあった。


 さて、そうして休み時間になると、教室前の廊下が騒がしくなった。

 またくだらないことでも起きてるのかと思ったが、思い直した。


 そうだ。

 日々をつまらなくしているのは自分自身。


 何事も冒険、だな。


 そう思いガヤガヤしている廊下に野次馬に行くと、俺はすぐに後悔した。


「あ、いたいた!この前の不良くん!」

 彼は俺を指さす。


「……ハリソン」


 あーぁ、冒険なんてクソ喰らえ。




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