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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第36話「ままごと」

 

 だが怖気付いてもいられない。

「だったらどうした?」


 俺は煙草を捨て、そいつの前に立つ。


「へぇ、随分強気だね。嫌いじゃないよ、そういう人」

 ニヤついたまま、その男は俺を見つめていた。


「でも君、Zクラスじゃん?だから僕としてどうでもいいよ。ここは穏便に取引だけ済ませようよ」


 男は俺の制服を指さした。


 あくまで自分が上だというスタンスを崩さないつもりだ。

 ムカつくが、まぁ彼の言うことは概ねその通り、さっさと終わらせるが吉。


「……お前から突っかかって来たんだろ」

 俺は捨て台詞を吐いた。


 彼は仕切り直しだと言わんばかりに、一拍、手を叩く。

「で、君らがクラシック・ボーイズって事で良いんだよね?」


「じゃなきゃ来ねェぜ」

 ビルが横で言う。


「いや、最近は色々厄介なんだよ。君らみたいな人達って皆同じに見えるし」

 いちいち鼻につく言い方をする野郎だ。


 企業人ってのは皆こうなのか?

 姉さん、よく我慢できるな。


 いや、それはアカデミーに通ってる俺も同じか。


「無駄口はいいからさっさと寄越せよ」

「おー、怖。はいはい、分かりましたよっと」


 そう言い、男はアタッシュケースを取り出す。

 中を確認しろとばかりに封を開け、俺らに見せた。


 確かにハリソン社製のサイバーパーツ、サイバーウェアの有象無象がそこに入っていた。

 ビルと目を見合う。


 スキャンして、真贋を確認したが確かにどれも本物らしかった。


「確かに」

 俺はそれを閉め、持ち帰ろうとする。

 だがケースに手を添えられ、お相手さんの待ったがかかる。


「なんだよ」

 俺が睨むと、彼は右手の親指と人差し指、中指を擦り合わせて見せた。


「は?おいビル。親父さん、金払ってないのか?」

 思わず振り返った俺の問い。


 ビルは不思議そうな表情で答えた。

「いや、払ってるはずだぜ。前金なんて企業相手じゃなきゃやらねェって文句言ってたからな」


「……だとよ。どういう事だ」

 再び前を見る。


「うん、確かに貰ったよ。……商品代はね。でもほら、手間賃を貰わないと。君たちみたいなの相手にするのも疲れるしさぁ」


 自然と拳に力が入る。

 これには温厚な俺も、堪忍袋の緒が危うい。


「……そんな理論が通用すると本気で思ってんのか?」

「こういうのは通用するとか、しないとかの話じゃないよ。やるか、やらないかだから」


 彼の目が変わった。

 はぁ、マジでやる気だ。


 肌で分かる。

 不良なんてやってると嫌でも。


 それに……。


「……テメェ、ナメてんのか?」


 いつもとは声色の違うビル。

 後ろからドスの効いたそれが聞こえる。


 うーん。こうじゃなきゃな。


 殴り会う前の雰囲気。

 ピリついたこの感覚。


「フフッ」

 思わずニヤける。


 そういや、今日は振り返るとモヤつく事ばかりだったかもしれない。


 丁度いい。

 ここらでスカッとするイベントが必要だ。


 俺はアタッシュケースを除け、彼のもとに歩を進める。


 すると4人。

 横からスーツの男が立ちはだかった。


「ハッ、殴られるのが怖ェか?こんな手下まで使ってよ!」

 ビルがついに声を荒らげる。


 しかし、こいつらが近くに来たことで、遠くからでは分からなかった事実に気がつく。


「お前ら……、企業の人間じゃないな?おままごとのつもりか?」

 そう。当然だが、スーツを着てりゃなんでも一緒って訳じゃない。


 これでも色んな人間を見てきた。

 この4人は……そうだな。


 言うなればスーツに着られてるって感じか。

 見る奴が見ればアホ丸出しに見える事だろう。


 良くてギャング。

 恐らくはチンピラ。


 少なくともあの1人佇む金髪アカデミー生とは訳が違う。

 あれは本物だろうから。


 そんな事に気づくと、やはりあの一際鼻につく野郎が言う。

「へぇー、やるじゃん。なかなかどうして!腐ってもおつむはアカデミー生ってね!」


「口の減らねぇ奴だな」

 怒りに身を任せ奴に向かいまた前進すると、遂にスーツの男が1人殴りかかって来た。


 これをゴング代わりに争いが始まる。


 さて、するりと体を屈めそれを躱し、相手の頭を思いっきり地面に叩きつける。

 うん。軽い。


 手に頭を……、正確には先程まで頭だったパーツの破片を手に持っていると感じる。

 どんなストリートでもこいつらは通用しない。


 どうやら本当にままごとらしい。

 楽勝だ。


 なんて悠長にしてると、しゃがんだ俺の頭上に気配を感じる。

「ビル!」


「おうよ!」

 すぐさま呼応したビルは俺の上でワンアクション起こした。


 何が起こったかは見えなかったが、相手の右腕がボロボロになってパーツが幾つか吹っ飛んだのは確かだ。


 相手のパンチにパンチを重ねた脳筋スタイルで吹っ飛ばしたんだろう。

 俺はそのまま上を見て、そいつの顎を目掛けて掌底。


 こいつも倒れた。


 よし、2人目。

 ストリート育ちを舐めるなってね。


 こいつらの正体がなんだか知らないが、企業人でも無い様なしょーもない人間のサイバーパーツの性能なんかたかが知れてる。


 日頃からシェルやパーツに気を使ってる俺らの前では無力。

 ……のはず。


 目の前を見ると、残りの2人が一斉に襲いかかってきた。

 やべっ。


 突然の事に身を構えていると、ひょいと体が宙に浮いた。

 後ろからビルに担がれたらしい。


 すると俺を持ち上げたまま、ビルは相手の拳達をわざと腹で受けた。


 あぁ、あれは痛いな。

 嫌な記憶が蘇る。


「行けェ!ユウトォ!」

 ビルは勢いよく相手2人に目掛けて俺を投げつける。


「うわっ!ちょっ、待て馬鹿!」

 俺は急いでバランスをとって、両足をそれぞれ相手の顔にぶつける。


 そのまま地面にドーンと着地。

 自身の無事と、敵全員のノックアウトを確認したところで振り返る。


「投げるなら先に言えよ!」

「それじゃあ、オレらの息が合って無ェみたいじゃねェか!」


「それを誰が毎回無理やり合わせてると思って――」


 俺の声を遮る拍手の音。


 それはいけ好かない男の手から聞こえていた。

 そうだ。こいつが残ってるんだった。


「ヒュー、やるねぇ」

「……やるねぇって、この程度で褒められてもな」


 俺は残骸を見ながらそう答える。

 本当に弱かった。


 この街で育った人間じゃないのか?

 いや、それよりもなにか根本的な……。


 だがその思考は次のビルの声でかき消されることになる。


「坊ちゃん、この街は初めてか?なら、ケガしねェように今の出来事を忘れねェようにな。ようこそ、ネオ・フランシスコへ」

 ビルが肩をひねらせ、皮肉を言い、こちらに来た。


「さ、どうする?2対1だぞ」

「……」


 流石の彼も、ここまで来ると黙った。

 次の手を考えているのか、逃げる手立てを考えているのか、それとも死を覚悟したのか。


 考えている内容はもちろん分からないが、5秒ほどの沈黙があったのは確かだ。

 しかし、待ちに待った返事は拍子抜けするものだった。


「うーん、降参!」

 そいつは両腕を上げた。


「「は?」」


「いやー、やっぱ本職には勝てないよねー。うんうん」

 彼はそのまま俺らの方に近づく。


「それあげるから許してよ!お金も返すからさ!」

 そう言うと懐からキャッシュを出し、ケースの上に放った。


「ったく。おい、どうするよ。ユウト」

「……まぁ、ここは許してやってもいいんじゃないか」


 本来ならこの街を二度と歩けないようにするところだが、代わりにいい案が浮かんだ。

 許すことにしよう。


「ま、ブラザーがそう言うなら逃がしてやるか」

 無敵のビル様もこれには溜息。


「おー、流石!話が早くて助かるよ!」


 本当にこいつは調子がいい。

 今すぐ殴りたいのをグッとこらえる。


「そういや、お前、名前は?」

 俺が思い出したようにふとそれを聞くと、彼はキョトンとした。


「え、知らない?」

「相棒。それはマズイぜ」


「え?なんだ?」

 わけも分からず、気づくとビルも呆れた顔をしていた。


「僕はアーサー。アーサー・C・ハリソン、ハリソン・コーポレーションの次期社長だよ。以後よろしく」


「は?」


 ……あー、そうか。

 思い出した。


 俺が見たのはアカデミー内なんかじゃない。

 テレビか!


 いやそれにしたって大物過ぎる!

 この街で生きていけないのはこっちの方じやないか!!


「おい!ビル!なんで止めなかったんだ!」

「知っててやってんだと思ってたぜ。それによォ、どうせ止めてもやるだろ」


 一理ある。

 あぁ!次からは身元が分かってから喧嘩を売らなきゃ駄目だ!


 いや、“次”なんてないか……。

 思いもよらず、逆にこちらが死を覚悟する展開となった。


「まぁまぁ、ここは穏便にいこうよ。ここではお互い何も起きなかった、ってことで」


 彼がそう言う時には、既に俺の背中を冷や汗が伝っていた。

 それを必死で隠す。冷静さを壁にして。


「……そうしよう」

「親父に怒られなきゃ、正直コッチはなんでもいいぜ」


 あぁ。それもそうだ。

 ここはこれで一件落着といこうじゃないか。


「じゃ、そういう事で!」

 一足先に軽い足取りで帰っていく御曹司。


 だからあんな言動なのかと出来事を反芻していると、彼は去り際にこちらを向いた。


「次は覚えとけよ」


 それを言う彼の目は本気で、俺は冷や汗が背中を伝う感覚を暫く忘れられそうになかった。




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