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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第3章-Antecedent-

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第35話「Primera」

 

「ウチのユウトがまたなんかした?」


 先程に続いて再び余計な声が聞こえた。

 ……馬鹿らしい。


 “また”なんて言ってるが、俺がやらかした所なんて見た事あるのか?

 このなんでも見通している感じが嫌いだ。

 本当に。


 ともかく急いで自室を出る。

 声の聞こえる方に歩いていくと、「お出ましだな」とビル。


 後ろ頭をかきながら俺は悪態をつく。


「何しに来たんだよ」

「ナニって、時間だから呼びに来たぜ」


「お前に任せるってチャット送ったろ」

「そんなん言ってもよ。オマエ連れてかないで取引失敗したら、オレが親父に怒られちまうんだよ!」


「知るか!俺は今日はそんな気分じゃなくなったんだよ!……親父さんには謝っといてくれ」

「……そうかよ」


 悪い事をした気持ちになった。

 いや、実際なんて自分勝手なんだろうという感じだ。


「……悪いな」

 そう一言言って後ろを振り向くと、何かに首元を引っ張られた。


「おわっ!」

「ちょっとユウト!あんた何言ってるの!」


「なんだよ!離せって!」

「ダメ!離さない!私、そんな無責任に育てた覚えはないから!」


「姉さんには関係ないだろ!」

「シルヴィオさんに私達がどれだけお世話になったと思ってるの!ちゃんと約束は守りなさい!」


 いつの間にかヘッドロックをされている。

 客人の前でこんな所を見られる訳にはいかない。


 例えそれがビルでも。


「分かった!分かったから!やめろって!」

「よーし、いい子!」


 解除の際、頭をワシャワシャと雑に撫でられた。

 これじゃ、やめてもらった意味が無い。


 最悪だ。


「プッ、クククッ」

 すると全てを見ていたビルがここで吹き出した。


「ハッハッハッハッ!外ではあんなにイキがってるユウトサマも姉御の前じゃこの有り様だな!」


 な、最悪だろ?

 あーぁ、姉さんのおかげでまた1週間はこの話を擦られることになるな。どうもありがとう。


「あーもう!行くって!行くよ!ほら!さっさとしろ、ビル!」

 半ば自暴自棄で声を荒らげた。

 これが今出来うる精一杯の抵抗って所だ。


「ククッ、仰せのままに」

 完全に馬鹿にされている。


 もう無視を決め込むことにしよう。

 さっさと外に出ようとドアに手をかけるビルを急かす。


 ビルが外に出、俺もそれに続くと後ろから声が聞こえる。

「いってらっしゃい、ユウト。気をつけてね、愛してるわよ」


 ……これもいつも通りのことだ。

 無視無視。


「ビル!ウチのをよろしくね!」

 そう姉さんが言うと、ビルがヒョイと顔を出す。


「おう!任せとけ!」

「……さっさと行けって」


 ビルを小突いて、自宅を後にする。

 そうして、大通りに出たタイミングでビルが口を開いた。


「いやー、良いモン見れたなァ!正直コレを見るために行った所あるぜ!」

「……チッ。そんなことだろうと思ったよ」


「オレも毎回言ってやろうか?いってらっしゃい、愛してるわよ〜ユウト〜ってな」


 カチンときて、俺はいつも通りビルの腹に一発入れた。

 するといつもとは違う感覚に陥った。


 普段なら感じることの無い痛みが左手に走る。

 今まではこんなことなかった。


 なんだ、これ。この感触は……?

 ビルの方を見ると、してやったりという顔をしていた。


「ヘッ、どうだ?オレ様の腹筋は」

「……お前、何の皮膚(シェル)使ったんだよ」


 鈍痛のした手をプラプラと振りながら問う。

 ビルは腹をバシバシと叩いて答える。


「この為だけにいいヤツ入れてやったぜ、もうオマエのパンチも怖くねぇ」


 馬鹿すぎる。

 この為だけにとか言ったぞこいつ。


 だけど効いた。

 これは効いたぞ。


 俺は可哀想な左手をさする。

「クソ……。いつになく強気だと思ったんだ」


「どうやらオレ様の方が上みてェだな、“優等生”さん?」

「……こうなったら腕をブラスターにでも改造してやろうかな」


 俺は腕を伸ばしてビルに向ける。

「そうすりゃお前ごと吹っ飛ばせる」


 両手をボカンと爆発させる様な仕草をする。


「お、それいいな」

「本気で受け取るやつがあるか馬鹿」


 俺は煙草に火をつける。

 呆れながらも並んで歩く。


 こんなやり取りしているとふと思う事がある。

 こんな掛け合いも、もう人生で何度目かということだ。


 腐れ縁。


 まだガキの頃、いつからか身寄りのない俺ら姉弟に、いつも寄り添ってくれたのはシルヴィオだった。

 その時からコイツともジュニアとも悪友って感じだった。


 だから足を向けて寝る訳にはいかない。

 枕を北に置くのは良くないらしいが、これはそれよりも優先すべきことだ。


 そんなわけで、俺も、親父さんも、姉さんも、ビルも、ジュニアも、みんながみんな互いの事をよく知っている。


 あぁ、あとロブもだ。


 つまり俺らの親といえばドン・シルヴィオだし、ロバート・“ロブ”・バトラー、あとはこの街ってな訳だ。


 ――そう考えると


「逃げたくても逃げられねぇな」

 ふと、欠伸のような声が出た。


「お?」

「この街にいる限り、この境遇からは逃れられないんだと思ってな」


 すっかり暗くなった空は、どうやら心の奥まで入り込んできたらしい。

 こんな時にもこの街のまやかしの光(ネオン)は何の役にも立たない。


 所詮、こけおどしだ。


「おー、なんだそんなにこの暮らしがイヤになったのかよ、ブラザー」

「んー、嫌って訳でもないんだよな。なんていうか、うーん」


 当てはまる言葉が見つからず、沈黙が生まれた。

 だが少ししてふとその言葉が降りてきて、舌を跳ねた。


「つまらないんだ、多分」

「ハハハ!分かるぜ、それ!」


「嘘つけ、お前に分かるもんかよ」

「いや、ツマンネーってのはあんま理解出来ねェけどよ。相棒が最近つまらなそうにしてるってなァ分かるぜ」


「だろうな。隠せてないし、隠してもいないから」


 それを聞いた悩ましげなビルは、突如思いついたようにこちらに顔を向けた。

「へへ、ならよ。今回の取引、暴れてみるか?」


 ビルのおどけた提案に思わず笑みを浮かべる。

「フッ、まさか。真面目にやるって。ほら、着いたぞ。ここの地下だろ」


 雑談をしている間にも、ネオン街を差し置き、裏通り、そして地下駐車場に着いた。

 もちろん寂れているし、車も乗り捨てられたものばかりだ。


 暗いし、薄気味悪いし、ここにはネオンの影が写り込むばかり。まるで日陰者の住処。

 ここにいるとまやかしの光でも、それはまだ一応の“光”だったことに気付かされる。


 本当の闇ってのはつまり、こういう所を指すと思う。


 治安が悪いせいでここは浮浪者にも好まれない。

 まぁ今まさにその治安の悪さの一端を担おうってんだから驚きだ。


 紆余曲折していたせいで予定より5分ほど遅れてしまっただろうか。

 巷じゃ相手を10分以上待たせるのは、そいつへ何か“メッセージ”がある時だと言われるが、これならただの遅刻の範囲だ。


 道が混んでたとでも言えばいい。

 取引相手もどうせそこらのチンピラだろ。


 そうして2人で中に入ると、暗がりの中で奥に人が4、5人見えた。


 だがいつもと様子が違う。


 違和感の正体はすぐに分かった。

 ……やけに身なりが整っている。


 こいつらはチンピラじゃない。

 企業の人間だ。


Caramba(カランバ)。流石はアウトローだね、堂々と遅刻だなんて良い身分だ」


 真ん中に立っている男が口を開く。

 身長はさほど高くない、金髪で中肉、端正な顔立ちの若い人間だ。恐らくティーンじゃないだろうか。


 企業人のご多分にもれず、嫌味っぽい男だ。

 アウトローは十分お前らもだろうに。


 ……だけどこの風貌、どこかで見たことがある気がする。


 どこだ。

 俺はどこでこいつを見た?


 悩みながらも徐々に近づいていく。そうして相手の顔がハッキリと見える位置に来る。

 その金髪若人の、リーダー格であろう男が俺の服装を一瞥した。


 すると俺の顔を見据えて口を開く。


「……君。ギャングの癖にグッドマンに通ってんの?」



 ――あぁ、なるほど。

 見覚えのある訳だ。悩む必要も無い。


 アカデミー生か。



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