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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第2章-Awakening-

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第29話「対峙」


 信じられない。

 ハンナの家出から始まったであろうCKSFの監視。

 その全てにあらゆる対策を打ってきた。


 だがこの1ヶ月。

 この日が来るまで本当に何も無かった。


 ただ少しのアクションすら、あちらからはしてこなかった。



 そして現在、俺は窓が遮断されたバンに乗っている。

 横にはビルとハンナ。


 ビルは、相変わらず腕をまくり、薄茶色のショートコートを羽織った、ラインの入った坊主頭が特徴的な筋肉質の黒人大男だ。

 無骨な顔立ちと、外からでもはっきり見えるサイバーパーツが、彼の荒々しい存在感を一層際立たせている。



 あの頃と違うのはハンナの方だ。

 髪はショートボブに切り揃えられ、煌びやかなドレスとは打って変わって機能的なサイバースーツ。


 その所々に蛍光色に光るラインが入った外骨格の上から、ジーンズを履き、ルーズフィットでフード付きのグラフィックジャケットを羽織っていた。


 ……よくここまで逞しくなったもんだな。


 ビルはそこでノートパソコンの画面を見ていた。

 俺とハンナは宙に映し出された大きなホログラムでマップを見ていた。


「問題ないか。マイク」

「異常無し」

「了解」


 俺とビル、マイケルは脳内通信(ブレインコール)で、ハンナは片耳につけたヘッドセットで通信をしている。


「あと少しだ!気張れよ、マイケル!」

「あぁ、そちらも油断するな」

「任せとけ!」


 ……この1ヶ月でマイケルをCKSFに潜入させるために隊員試験に合格させた。

 これには二つの狙いがあった。


 1つ目に、潜入を堂々とする権利を得るため。

 まぁ、当たり前だな。

 その方が楽ってのが大きな理由。

 あとは帰りのルートだけ確保すればいい。


 2つ目に、相手の出方を見るため。

 俺らは奴らに監視されている。

 それなら逆にこっちから乗り込んでやろうって魂胆。


 当たって砕けろの精神だったが……。

 予想に反して、いとも容易くマイケルを入隊させた。


 これはこちらに対する挑発なのか、はたまた別の意図があるのか。

 とにかく俺らを内部に引き入れても問題無いとあちらさんは考えているらしい。


 何を考えているんだか……。


 正直、こんな状況なら全部捨て去って南国の青い海に溶け込みたくなる気分だ。

 それくらいグレイスの真意が理解できない。


 だが、その裏で燃えるのは成功への執念と、これまで積み重ねた努力への裏切りたくない思いだ。


 このためにあらゆる調査を行った。

 CKSF本部の全体の地図を作り上げ、配線の位置、人員の順路、交代時間、その全てのピースを揃えた。


 必要なものは今、全てこちらにある。


 そしてそのための努力は、不思議と大変では無かった。

 彼らの懐に入り込むのは想像より楽だったのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 今、俺とハンナの眼にはマイケルの位置情報が映っている。

 彼は、CKSFの平の隊員では知る由もない秘密の地下、その機密情報保管室に向かっている。


 いつの日かスミスが言っていたことだ。

 現代では紙の方が機密を守りやすい。

 金だって現金の方が跡がつかない。


 ……そして俺らはマイケルの逃走経路を確保しなければならない。

 そのために後方で待機している。


 ブリーフィングとして確認した大まかな作戦の流れはこうだ。

 まず、マイケルが人目を忍んで地下の機密情報保管室の前まで来る。


 ここでビルが遠隔で本部全体の電力を落とす。

 予備電力に切り替わるのに2秒かかる。

 この間に彼が部屋に侵入すれば警報は鳴らない。


 そこで俺らが監視されている理由を探る。

 見事それを手に入れ、出る時には予備電力を落とす。


 ここから復旧までどれほど時間がかかるか分からない。

 もしかしたら数秒かもしれないし、異変に気づいた部隊が地下に駆けつけるかもしれない。

 それか、案外誰にもバレず、簡単に出られるかもしれない。


 如何なる状況にも対応できるように、逃走経路のフォローを俺とハンナが担当する。

 あぁ、それとセキュリティカメラは全てハッキング済みだ。



 ……もうすぐマイケルが、辿り着く。


 さて……鬼が出るか蛇が出るか。



 ***



「ビル、始めろ」

 誰にも見られることなく、この地下室に辿り着いた。

 順調だ。

 経験上、順調なときほど気を引き締めなければならないものだ。


「オーライ!行くぜ!3……2……1……。ショータイム!」

 暗闇の中、脳内で響くやかましい声に合わせるように、目の前のドアのロックを壊す。

 静かにドアを開け、中に入り、再び閉める。


 ……一切の明かりが点かない。目の前に広がる漆黒の闇は、息を飲むほどの静寂と不安を孕んでいた。

 だがこの程度なら、こちらで対処はできる。

「潜入に成功した。これからこの部屋を調べる」


「よし!」

「よっしゃあ!」

「流石マイケルさん!順調ですわ!」


 通信の先で、3人の喜ぶ声が聞こえる。

 まるで全部が成功に終わったかのような喜び様だ。

 ……それが現実となるように事を運ぼう。


「だが、明かりが点かない。こちらは特に問題ないが、一応警戒しておけ」

「ま、好都合じゃねェか?」

「……気をつけろよ」


 暗闇に慣れてきた目で辺りを見回す。

 身長程の棚が複数置いてある。

 そこにはファイルが入った箱が陳列されている。


 歩きながらそのファイルのタグを見る。

 038、067、357、246、716。

 何を指しているか見当もつかない数字の羅列。


 ファイルを1つ手に取り、パラパラとめくる。

 CASE.087と書かれたファイルだった。

 ……鎮圧した暴動と、その作戦名、秘匿された理由。


 よくあるこの街の日常を難しく書いただけの代物だった。

 NFPDの仕事でよく見るものだ。


 ……この中から探すのか?

 そんなことしていたら日が暮れてしまう。


 更に周りを見渡すと、奥に光が見える。

 電力が戻っていないのに何故?

 恐る恐る近づいていくと、そこにはPCが置いてあった。


 ローカルネットのみに繋いであるPCだ。

 これで機密情報の管理をしているのかもしれない。

 杜撰なパスワードを潜り抜けて、ファイルを調べる。


「PCがついてる」

「え?」

「機密情報を管理しているPCがあった」

「……電気も通ってないのに?」

「あぁ」


 通信の向こう側でユウトが訝しんでいるのが伝わる。


 目の前に『最重要機密事項』というファイルが飛び込んでくる。

 そこをクリックすると、『Operation〔MAGNUM OPUS〕』という項目が現れる。

 その内容を読む。


「……なんだこれは」


 思わず声が漏れる。

 およそ人の所業では無い。

 全身に背筋を這う冷たい感覚が走った。

 まるで、遠くで眠り続ける悪夢が、今まさに目覚めようとしているかのようだった。


 この街の裏で蠢く悪事を是正すること。それだけを胸に刻み、今まで生きてきた。

 だが、私はあまりにも甘く見ていた。

 この街を覆う闇は想像を遥かに超え、底知れぬ深さで私を飲み込もうとしている。


 ――邪悪。


 その言葉がよく似合うおぞましいものだった。



「なにか分かったか?」

「いや……」


 気のせいだろうか。

 急に空気が重くなり、冷たい金属の匂いが漂ってきた。



 刹那、部屋全体が不気味な赤色に染まり、異様な空気が一気に広がった。

「っ……!」

 急いで後ろを見ると、部屋の壁に大きなモニターが埋め込まれているのに気づく。

 荒く、線が見える赤い背景の中に黒い人影がいるのが分かる。


「誰だ!」

 モニターに映っているそれに話しかける。


「やぁ、マイケル君」


 どうやら私の名前を知ってるらしい。

 相手の情報を可能な限り開示する。

 典型的な恐怖の植え付け方だ。


「マイケル!どうした!」

「イレギュラーだ。知らない男がモニター越しに話しかけてきた」

「オイオイ!気をつけろよ!」


 元よりそんなことは分かっている。

 イレギュラーが起きるから緒を締めるのではない。

 初めからそうすべきなのだ。


「そのファイルを調べたかい?」

「MAGNUM OPUSのことか」

「フフフ、話が早くて助かるな」


 そこまで会話を進めると、通信先がなにやら騒がしくなる。

 その中で微かにヨハンナ嬢の声が聞こえる。

「この……声、……お父様……?」



 お父様だと?

 ならば今画面越しで対峙している男が……。



「ヨハンナは元気かね?」



 エドワード・J・グレイス。

 グレイス財閥総帥って訳か。



「要求は何ですか」

「ハハハ!落ち着き給え、マイケル君!……ゆっくり話そうじゃないか」


 緊張と言う緊張が背中を走る。

 この状況では、袋の鼠。



 彼の言う事に従わざるを得なかった。





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