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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第2章-Awakening-

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第23話「自由の従者」

「あー、聞こえてるかな」

「え、えぇ!聞こえてるわ!」

「また会いたいと思って連絡したんだ。その……迷惑だったかな」


 ……俺はあの後どうすればいいか分からず、とりあえず純粋な気持ちを伝えることがいい案だと思った。

 あぁ、分かってる。自分でも思った。

 まさかこんなに、自分がチェリーボーイだとは思わなかった。

 ……こんなんじゃ、奴らがいじってくる万年チェリーの肩書きを否定できない。


「め、迷惑じゃないわ!えっと、その、私も……また、お会いしたいと思ってましたの」

「そ、そうか。じゃあ良かった」

 あんなに上手くいってた対面の会話も、意識し始めると緊張が止まらない。

 相手の言葉1つ1つにドギマギしてしまう。

 いや、そうじゃない。

 ハンナも俺に会いたかったという言葉が……特別に嬉しかったからだ。


 だから緊張する。

 だから、こんなにも胸が痛い。


「……ところでユウト。これってその……貴方の御顔は見えないのかしら?」

 彼女の使っているものはホログラム通信(コール)

 俺が使っているのは脳内通信(ブレインコール)だから、彼女のホログラムに俺は現れない。

 互換性はあるが、ホログラムはホログラム同士じゃないとお互いの顔は見れない。

 まぁ、構造上の問題だから、当たり前っちゃ当たり前だ。

 それをただ伝えよう。


「あー、俺は脳内通信(ブレインコール)で話しているから君のホロには表示されないんだ」

「ブレイン……?ホロ……?あ、えっと。その、とにかく見れないってことよね?残念だわ。貴方の御顔を見てお話したかったのに……」


 本当に彼女はサイバーパーツの事や、ハイテクの事を知らないらしい。

 彼女のことが気になるのはこういう所もあるのだろうか。

 男は女の初めてを欲しがるという言葉があるらしい。

 ……彼女が知らない事を教えたいと思うのも、そういう心理の1つなのかも。


 あぁ。考えれば考えるほど分からない。

 ……こういうのは理屈じゃないのかもしれない。

 苦手なんだ。感情の解放担当はビルやアートに任せてる。

 ……だが俺はビルに感情論が足りないって言われたばかりだ。


 だから、ああやってスミスとの対峙のような状況になると俺は感情の処理方法が分からなくなる。

 正直にならないと。とにかく、誠実に。


「……会えば、見れるよ」

「!そうね……、そうよね!」

「あぁ。会えば顔を見て話せる。会って話したい」

「で、では……、今から会える……かしら?私、丁度休憩中ですの……よ?」


 ……いつだってチャンスは目の前に急に現れる。

 それを掴めるか掴めないかは努力次第。

 最近のドタバタでの教訓の1つだ。


「……すぐ向かうよ。入れてくれるかな?」

「えぇ!サミュエルに通すように伝えますわ!」


 ……早く向かおう。

 昼間の繁華街を通り抜けるよう俺は走った。

 いつも楽しみに見ている最悪な街の様相は、その時は全く気にならなかった。



 ***



 黄金郷の誰も入れない門の前。

 何よりも大きい門、その前に立つ。

 すると間もなくして門の向こうにサムが現れた。

「……本当に会うのか?」


 サムは門を開けず、そのまま俺に語り掛けた。

 表情は見づらいがどうやら真剣な表情のようだ。


「……あんたの願いを聞いて彼女に会ったんだ。あんたにもこうなった責任があると思わないか?」

「だから君をここで追い返す。私が悪者になればいい」

「……主の命令に背くのか?付き人失格だな」


 あぁ、交渉人って大変だろうな。

 相手を威圧しつつ、逆上されないようにこちらの要求を通す。

 こちらのカードが少なくても、やるしかない。

 

「従う事ばかりが、真に良い従者とは言い難いものだ」

「俺は取引先の重役だぞ」

「……何を言ってる?」

「俺の名はユウト・ハリソン。アーサーって兄もいる」

「……」


 切り札を切る場面を間違えたのかもしれない。

 そこには変な緊張があった。


「例えそれが真実だとしても、我々は君を拒否できる。アポイントメントを取っていない客人は、例え大企業のご子息でもお帰りいただく」

「ハリソンの客人を上の許可も取らずに追い返すのか?おいおい。一介の従者の範囲を超えてるぞ、越権行為だ」


「……」

「……」

 双方1歩も引かないだろう。

 なるほど確かに決定打は無いが、引く理由も無いのだから。


「頼むよ、サム」

「……ここで君を通した所で、最終的に君たちが添い遂げる可能性は0%よりも低い。諦めた方が君のためでもある」

「……もし俺らの相性が良かったとして、その後一緒に居ることが無理かもしれないってのは、俺が1番分かってる。でもだからこそ、それは諦める理由にならない」


 俺がそう言った後、彼は俺の目を見た。

 真っ直ぐ見た。

 彼も本気だという熱い意思が伝わってくる目だった。


「……いいだろう、君をここに入れよう。……だが忘れるなよ。我々はやろうと思えば、今すぐにでも君を消せる事を」

「……ご忠告どうも。でもこの街で生きている人間は多かれ少なかれ、皆そう思って生きてるよ」


 そう。推測だが、みんなそう思って生きているはずだ。俺らみたいなフリーも、そこら辺の服屋の店員も、ヒットマンも、セクサロイドも、企業人だってそうだ。


「見てみろよ」

 俺は振り返って指を指す。

「あそこにいるヤク中、そこの門番のアンドロイド、あっちで母親に連れられている子供だってそうだ。全部お前らに生かされてる」


 そうだ。

 この街はなんだって権力と金に従う。


「街中を飛んでるNFPDだかCKSFだかのドローンに監視されてる恐怖、さっきすれ違った金持ちに殺されるかもしれない恐怖、そこら辺のイカれたやつらにただ通りすがっただけで襲われるかもしれない恐怖、企業の人間だって邪魔に思われたら仕事仲間に殺される恐怖がある。そんな恐怖を乗り越えて今を生きてるんだ。お前にも分かるだろ」


「……」

 サムは黙って聞いてきた。

 だが彼も分かっているはずだ。

 この街の根幹、全てを狂わせたもの。

 金、権力、行き過ぎたテクノロジー。


 それらは全ての倫理観を消し去り、資本主義を加速させ続けた。

 人類の自由は拝金に負けた。

 勝者は企業、財閥。しかもそのトップのみ。


 平民は奴隷の様に生かされて、死を約束されたまま動かされているマシン、ゾンビに過ぎない。

 現代にマルクスが居たらそれ見た事かと言うに決まっている。


「この街に飲まれたんだよ。俺の姉も、お前の弟も。勝者はお前んとこの総帥、敗者はその他全員。ゼロサムゲームってやつだ」


 俺は軽いため息をついて、彼を見つめ返した。

 折角門を開けてくれる様だったが、俺にも曲げられないものがある。


「……俺は奴らに屈さない。だから殺るなら今殺れよ。そんな脅しを受けて、はいそうですかと受け入れる程落ちぶれちゃいない」


 自然と拳に力が入った。

 俺にもプライドはあるが、それ以上にこんなくだらない所で死んじゃいられないという気持ちは強い。

 ……サムに勝てる見込みは限りなく薄いが、あっちがその気ならやるしかない。



 ……門がゆっくりと開いた。


 サムもまた、ため息をついた。

「……降参だ。私もバカじゃない。君を試しただけだ」

「……そうか」

「何があっても私がお嬢様を守る所存だが、いざと言う時は君も頼んだぞ」

「あ、あぁ」


 こうして俺は、最後が拍子抜けた黄金郷への切符を手に入れた。

 なんだか相手方の父親に結婚を許されたような気分だ。

 男としての心構えを問う質問攻めをクリアしたような、そんな気分だった。


 なんにせよ間一髪だった。

 これから先、毎回あんな問答をやるのだろうか。

 ……無いことを祈ろう。


 門を開けたサムに見向きもせず、俺は黄金郷の奥へと進んでいった。

 再び彼女に会える期待に胸を高鳴らせながら足を動かす。


 ……そういえば彼女がいつもどこにいるのかを知らない。

 メッセージを送ろう。

 そうして、黄金郷に入った旨を送信した後、やり取りをした。


 どうやら迎えに来てくれるらしい。

 ひらけた場所で、噴水を目の前にして待っていると遠くで彼女が見えた。


 俺はそれを見て、手を上げる。

 彼女もまた、手を振りながら近づいてくる。

 走っているみたいだ。

 ……そんなに急がなくてもいいのに。


 だが、ああやって走る程自分に会いたかったのだと分かって悪い気がする男はいない。

 転ばなきゃいいが。


「そんな服装で走ると――」

 俺も彼女の方に向かって歩いた。

 まだ話すには少し遠さを感じる距離で、彼女の体が前方にふわりとした。


 瞬間、俺はスカイシップを起動させ、前方に勢いよく跳ぶ。

 目をつぶりたくなるスピードの中、俺はハンナをキャッチして着地する。

「……転んじゃうよ?」

 俺は笑って彼女に伝えた。


 俺よりも一回り以上も小さい彼女は、小動物のようにキョトンとした顔をした後、いわゆるお姫様抱っこの状況に気づき、酷く赤面した。


……守るってこういう事で合ってるのかな。


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