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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第2章-Awakening-

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第22話「CODE : LOVE&BROTHERS」

「ダッハハハハハ!!」

 最悪とも言える笑い声が隣から聞こえた。

 普段なら気にならないその笑い声も、酒のせいかやけに頭に響く。

「何度聞いても面白いぜ!……あの財閥のお嬢様となァ!ロミオとジュリエットかっての!!ハハハハハ!!」

 バシバシと俺の背中を叩きながらビルは大笑いしていた。

 はぁ、こいつもか。


「俺は何にも言ってないんだよ!こいつらが勝手に!」

 俺は感情のままにビルに声を荒げる。

「まぁまぁ、落ち着きなよ」

「そうそう~」

 ニヤつきながらアートとエミリーが俺を止める。

 アートは肩が揺れているし、エミリーは口元を手で隠している。


 ……俺らはあの後、ビルを連れてアートの家に来た。

 この広すぎる家の一角にあるバーカウンターに4人並んで座っている。

 この家に常駐している銀色ボディのヒューマノイドが無表情でそこにいる。それは給仕としてカウンターの奥に立っていた。


 俺はカウンターに顔を乗っける体勢で、グラスの中の氷が溶けていくのをぼんやり見つめていた。

 ……俺は今結構酔っている。

 こいつらにいじられすぎてやけ酒をしているからだ。


「……くそっ、どいつもこいつも馬鹿にしやがって」

「あ、これ大分出来上がってる」

「でもよォ、これお互いに気になってたとしても無理じゃねぇか?」

「やっぱ立場とか地位とかあるよね~」


 真面目な顔したアートがエミリーに向かって言う。

「うーん。でも僕は立場とか地位とか関係なく、君を愛してるよ。エミリー」

「でもそれって結構めずらしくない~?……なんかハンナ可哀そ~、与えられたものを与えられたまま受け入れないといけないなんて~」

 ……恋愛を語っているときのエミリーは偉く真剣で、アートとのお約束の茶番も無しになった。

 アートは目論見が外れて、あんぐりと口を開け驚いた顔をしていた。


「だけど聞いたら、オレらってグレイス専属になったんだろ?じゃあイケるんじゃねぇか?」

「厳しいと思うなぁ。企業の人間にとって、生まれと稼ぎ、地位の良さを持ってる人以外は全部使い捨ての駒だよ」

 目の前で見た事のように語るアートの真剣な目つきは、彼の半生を表すのに十分だった。


「……オメェ、ホントなんでこんな所でオレら相手にしてんだ?」

「さっき聞いたでしょ。僕は特殊なの。……とはいえ最近パパに怒られてるから、そろそろまた戻らないとまずいっちゃまずいよ」


 相変わらず俺はカウンターに顔を乗っける体勢でぼーっと話を聞いていた。

「そんな話は置いといて。……駆け落ちってのもありだよね」

「う~ん。逃亡生活ってどっちも幸せになれないと思う~。ロミオとジュリエットのエンディングは現実に起きたらダメ~」

「ぁン?アレってバッドエンドなのかよ!」

「そうだよ~今度一緒に観る~?」


 難しい顔をしたビルは、腕を組んだ。

「古い劇だろ?面白いモンかねェ」

「絶対ビル泣くと思う~」

「おいおい!ビル様が泣くワケ無いだろ?」


 良い機会だと思って、先ほどのいじりの仕返しをする。

「こいつ家電のCMで泣いたことあるぞ」

「おい!ユウト!余計なコト言うんじゃねェ!!」


アートとエミリーは目を細める。

「まぁ驚きはしないか……」

「泣いてそ~」

「……また話が逸れてるぞ!コイツの恋バナはどこ行ったんだよ!」


 俺はそれに勢いよく顔を上げて答える。

「だから!俺は何も言ってないって!勝手な事ばっか言うなよ!」

「ふーん。じゃあ少しも気になってないの?」

「……」

「例えばよ、全部のしがらみをとっぱらっちまってデートしよう、ってなったらしねェのか?」


 ビルのその言葉に一瞬怯む。

 ハンナのあどけない笑顔が浮かび、胸が苦しくなる思いがする。

 それ酒のせいだと言い聞かせつつ、自信の無い言葉が口から飛び出た。


「……する……けど」

「ほら」

「いいね~」

「いや、待てよ!それは……、誰に誘われたって一応はするもんだろ!」

 俺は必死の抵抗を無駄に試みる。


「あくまで人として気になるだけで~、恋心かは分からないってこと~?」

「まぁ、……そういう、ことかも」

 自分の心も理解できず、歯切れの悪い回答をする。

 それも当然だ。最近になるまで人生を腐してまともに生きてこなかったんだ。

 女と真剣に付き合うなんてしてこなかった。


 だから理解のできない振りをしているが、本当は分かっていた。

 これは恋心だ。俺の心臓を取り替えれば、産まれたばかりの赤ん坊も恋を知るだろうに。


「それが恋心かどうか判断するのにいい方法知ってるよ~」

「……どうやるんだ」

 そう言うと、俺はエミリーに耳打ちされる。


 聞くと信憑性に欠けていたそれは、とてもシンプルなものだった。

 少なくとも、言わんとしている方向性は見えた。

「何するって?」

「発散するの~」

「……あぁ」

「……なるほどな」


 野郎共はどうにも瞬時に納得した様だった。

「その後に~すぐに意中の人のことを考えるの~。それでもまだ会いたい!って思ったら~、それは恋だよ~」

「……なんで僕らが男なのに、自分らの扱い方をエミリーに教わってるんだろ」

「これが恋愛で男がオンナに勝てない理由かもな。駆け引きってめんどくせぇからなァ」


 しみじみしていたのも束の間。

 ビルは急に俺の背中を押して言う。

「っつーワケだ。ユウト、行ってこい」

「はぁ!?今からか!?」

「今がそのハンナの事を想ってるピークだろ?だったら善は急げだ!イってこい!」

「……マジかよ」

 俺は酔いとめんどくささでうなだれた。


「俺今そんな気分になれないって!」

「いや、そんな日は無ェ」

「僕らがいる限り何を言っても無駄だよ。行きな、ユウト」

 ……またこいつらこの展開を楽しんでやがる。

「分かった分かった!行ってきてやるけど、どんな結果になっても文句言うなよ!」


 ……はぁ、めんどくさい。

 酔いも醒めてきた気がする。

 そんな冷めた思いで、俺はこの家を後にした。


 少し経って辿り着いたネオン街でよさそうな店を探していると、エミリーからメッセージが飛んできた。


 ――生身だよ!


 は?生身?どういう意味だ?


 ――なんだそれ


 ――女の子!

 ―ヒューマノイドじゃダメ!人間の美人の女の子!絶対ね!


 ……あぁ、もう。今日は高くつくな!

 そう思いながら、このネオン街一番の店に入っていった。



 ***



「おい。閃いたぞ」

 俺は帰宅と同時にバーカウンターの方に勢いよく声をかける。

「え?なに?」

アートはグラスを置き、こちらを振り向いた。

「お前の苗字を借りればいいんだ」


「ちょっと待ってなんの話?」

 なにやらアートの目には不安が見えた。そうなるのも無理は無い。突拍子もないことを言った自覚はある。

「ハッハァ!オレの勝ちだ!正面からハンナに会う方法だろ?」

「あぁ」

 俺は恥ずかしげも無く答える。


「え、ちょっと待って、Post-Nut (賢者)Clarity(タイム)じゃん!うわー!負けた!」

「ほら~!やっぱり~!」

「おい、アート!寄越せよ!」

「うわー、後で送っとくよ」

「ゼッテー忘れんなよ!」

 ……どうやら俺がシた後も、ハンナの事を想っているかどうかで賭けをしていたらしい。

 アートの不安な顔つきの正体はこれか……。


「いやー、そっかー。あの娘良い身体してたからてっきり(シモ)のほうだと……」

 アートが悔しそうにくだらない反省をしていた。

 それを完全に無視して、ビルがこちらを向く。

「で?何て言ったよ、相棒」

「俺はハリソンを名乗る」

「え?それだけ?」

 アートも顔を上げた。


 俺は意を決して言う。

「俺は今からアートの兄弟だ。一個下の」

「いや、まぁ年齢的にはいけるけど。ちょ、ちょっと待ってよ!」

「ンだよ、ダメなのかよ」

 ビルが呆れたようにアートを見て言った。


「いや!そりゃ駄目!……じゃない……、の……かも」

 喋りながら考えたらしいアートは、徐々にその覇気を失っていった。


 次の瞬間には驚いたように自問自答の言葉を羅列した。

「え?嘘。これ駄目じゃないの?こんな無茶苦茶なのに?」

「ハリソンでNo.2のお前がOKを出してくれたらもうオフィシャルだ。後は社長の耳に入らなければ良いだけだが……」

「……忙しいパパがそんなもの自分で対処する訳ないし……。いけるか……」


「流石だな!ユウト!これで解決だ!」

「キャ〜、素敵〜!」

「えー。えー。嘘だー」

「って訳で乾杯」

 俺はこの流れのまま、スマートに駆けつけ一杯を飲み干す。


 ビルは少し真面目なトーンで改まって口を開いた。どうやら真剣な話らしい。

「……解決したところで悪ィんだけどよ。今日親父の所にいた感じ、やっぱり手伝い必要みたいなんだ。だから少しファミリーの手伝いしてきてもいいか?」


 今まで手伝ってくれたんだ。ジュニアのこともある。本当はすぐにでもこうさせたかったくらいだ。

「まぁ、でかい仕事も特にないし良いぞ。親父さんによろしくな」

 空いたグラスにもう1杯注ぐようにヒューマノイドに頼みながら、ビルに良い返事をした。


「え、じゃあさっきも言ったけど、僕もそろそろ戻らないと本当に怒られちゃうから、その間ちょっと本社で仕事してきてもいい?」

「じゃあ私も落ち着いたって言ってロバートさんの所に戻ろ〜」


 俺以外の皆は、ここ以外に帰る場所がある。

 それを亡くしてしまった俺としては少し羨ましい。

「ま、一度みんな各々の仕事をするか」

「ユウトは恋路を頑張れ〜」

「フフ、そうするよ。色々ありがとな」

ウチ(ハリソン)の名前は好きに使ってくれていいから」


「あぁ、助かるよ」

「それじゃ、一旦解散ってな!ハッハッハ!」


 そうした会話を終え、また俺らはアートの家で各々眠りについた。

 次の日、また少し会話して、俺らは解散した。


 本来このあと暇になる俺の日常も、不思議と寂しく感じなかった。

 これから始まるであろう非日常は、心を踊らせる忙しなさをもたらしてくれる予感がしたからだ。


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