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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第2章-Awakening-

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第21話「Fair Veil」

 彼女の人となりの輪郭を掴んだ後は、楽々と物事は進んだ。

 ティータイムを終え、ディナータイムへと時は運ばれた。


 運ばれてくる料理をマナー通りにこなしつつ、4人は様々な話をした。


「と、ということは、お2人はお付き合いしてるってことなのかしら?」

「そういうこと〜」

 エミリーはいつものピースサインで答えた。


「お、大人ですわ……」

「えー、やっぱり大人に見えちゃう?人よりダンディな感じ出ちゃってるもんね、僕」

「……」

「はぁー、素敵ですわー」

 目を輝かせたハンナには彼の声が届いているかどうかも定かではなかった。


 ……とまぁ、こんな話をしたり、他にも仕事の話をしたり。


「そ、それでその後どうなりましたの!?」

「あぁ、だから銃を突きつけ――」

 瞬間、背後からゴホンという咳払いが聞こえた。

 見なくても分かる。サムだ。


「……俺の類稀なる話術で説得して、相手方にもご納得いただいたってわけだ」

「まぁ!流石ユウトね!」

「ま、まぁな。ハハ」

 ……後ろからの視線に圧を感じる。


 こんな感じで話は進んでいたが、認知されただけで危険になるような存在であるご令嬢が、何故俺らをのうのうとここに招き入れたのか、ふと気になった。サムの言っていたことは事実なのだろうか。


「ところでハンナ。君はなんで俺らを招待してくれたんだ?慣れない同年代との会話なんて、大変だろう?」

 この質問に対し、彼女は改めるようにこちらを向いた。

「それは……、サミュエルを救って頂いたからです」

 今日一の真面目な顔で彼女は答えた。


「……それが理由?」


 凛として彼女は続けた。

「サミュエルの弟の死因を私は知らされておりません。ですが後ろで悪い事が起こっているということは伺いました。サミュエルはとても優秀で完璧な男です。今まで1度の欠勤すらありません。そのような男が今回、初めて休暇を貰いたいと言ったのです。……うちのサミュエルをそのような事に陥らせる程の死因。全く見過ごせるものなはずはありませんわ。ですから根本から消してしまいなさいと言ったのです」


 なるほど。ハンナの性格はサムから聞いていた通りらしい。善しを助け悪しをくじく、そんな女だということだ。


「そんな中、それを解決して下さったのが貴方々だと聞きました!……話を聞くと、若いのに優秀なお方達であると!しかもうちの大事なサミュエルを助けていただいたのです!これは私が直々にお礼を申し上げなければならないと思いましたの!……もしかしたらご迷惑かなとも思いましたが、その、……お友達になれれば良いな……とも思いまして……」


 この時点で、サムは泣きそうな顔で部屋から出ていった。あいつ、意外と涙脆いんだな。


「……部下や仲間を大切にしているやつに悪い人間はいないと俺は思っている。明らかに自分より地位が下の人間に対する行動は本心や本音が出やすい。そして、それはその人間の本性に近い。だから……、ハンナは良い人だ」

 俺は彼女に正直な気持ちを伝える。

「こちらこそ良ければ友達になってほしい。こいつらも、あとビルも貴女を歓迎します」


 この時に見た彼女の笑顔はきっと忘れないだろう。

 ネオンの輝きよりも、月の光よりも綺麗で、

 まるで陽の光のような笑顔だった。


「えぇ!是非!」

 そうして食事中にも関わらず立ち上がり、俺らの手を一人ずつ握りブンブンと振り回す儀式を始めた彼女は、いつの間にか戻ってきたサムに見事に制止された。



 そうしたことをしているうちに外は暗くなり、そろそろお開きという事になった。

 ……意外と楽しかった。少なくとも当初考えていたものとは打って変わって、めんどくさい社交ということは無かった。


「じゃあ、また」

「またね〜」

「バイバイ」

 俺らはそう言って屋敷を出ようとした。

 するとハンナはこちらまで来て、俺の右手を両手で握ってきた。


「また、会ってくれるかしら?」

 彼女は、本当に心配そうにこちらの様子を伺っていた。

 俺は微笑む。

「また連絡しますよ。サム宛にね」


 俺がそう言うと彼女は思い出したように、屋敷の奥に消えた。帰ってくると、なにやら手のひら程の紙を持ってきた。


「こ、これに私の電話番号が書いてあるわ。……これで連絡を取りましょう?」

 ……彼女が渡してきた紙を見た。

 ……確かに番号は番号だが、彼女はネイキッドだ。これは脳内通信(ブレインコール)の番号じゃない。

 ホログラムコールの番号だ。


 互換性はある。全く問題ない。

 ……だが私的に彼女と連絡を取ることへの問題は大いにある気がする。


 と、頭では思ったが、受け取らないのも悪いので笑顔で受け取る。


「ありがとう。必ず連絡するよ」

 そう言うと彼女は満足したようだった。


 再び俺らは別れの挨拶をする。

 真ん中に立っているハンナとその横にならんだ使用人たちに頭を下げられ、その屋敷を出た。


「さ、こっちだ」

 サムに連れられ、黄金郷の出口へと案内される。

 その道中、もちろん彼とも会話を交わした。


「……まずはお礼を言おう。君たちのおかげで、お嬢様はとても有意義な時間を過ごせただろう。ありがとう」

「……まさかネイキッドだったとはな」

「……こればっかりはどれだけ警戒していても、境外で言えることではなくてね。騙すつもりはなかった」

「……まーたそれか。騙すつもりが無く、騙しすぎだぞ」


 その会話にアートが割り込んできた。

「ねぇ、サミュエルさん。この情報を知ってるのって部外者で僕たちだけだよね?」

「えぇ。その通りです」

「……これってある種、僕たちを囲い込もうみたいな事じゃないですか?」


 確かにその通り。この情報を知っている部外者は俺らだけ。こんな事実を漏らした所で周りに信じては貰えないだろうし、漏らした俺らは殺される。

 だがより深刻なのは、グレイス財閥に濡れ衣を着させられるかもしれないということだ。俺らが用済みになれば、でっち上げの情報漏洩罪で消されることだって有り得る。

 となると俺らは今後彼らの機嫌を損ねないよう、あらゆる命令に従わざるを得ない。これが狙いならしてやられた。


 だが、なるほど。これは……体のいい……。


「……アーサー殿のような優秀な人間を、こちら側に付けないのは愚策だと思いますから」

「へぇ、僕に脅しですか?」

 アートが少しキレているようにみえる。


「……ですがそれは副産物です。……お嬢様があそこまで駄々を捏ねたのはこれが初めてでした。是が非でも叶えたい。しかし、双方の為にも会わせる訳にはいきません。そこでどうにか我が財閥の連中を納得させるシナリオを考えたのです」

「……」

 アートは未だ彼を鋭い目で見る中、サムは続けた。


「お嬢様の言うことは絶対です。ですが、それだけで会うにはあまりにも危険。そこで、貴殿らが我々を裏切れない状況に持ち込む事で手を打ちました。“彼らはこちらの機密を知っているが故に裏切らず、またそれは非常に優秀である彼らをグレイス財閥に引き入れる事と等しい”、これがシナリオです」

「……それが、副産物ですか?」

 まだ、アートの疑いが晴れない。

 鋭い視線が絶えず刺さるようだった。


「えぇ、これが副産物です。理屈っぽく見えますが、ただ事実の裏返しをそのままにしたものですから。本来絶対であるが故にお嬢様の意見だけでは実行するに弱く、ただ優秀な人材を引き入れるという理由だけでは脆い。しかしこの表裏を組み合わせることで、全く何も加えずに、周りを納得させる理由を作りあげたつもりです」

「ヒュウ。多少は説得力があるね」

 アートは口笛を鳴らし、賞賛した。



「アート、ちょっと待て」

 俺の声に応じて、彼はこちらを向く。


「サム。本当にそれが真実か?」

 恐らくこれは体のいい建前、そう感じる。


 彼は眉をひそめた。

「と言うと?」

 俺は先程覚えた違和感の正体を探った。


「……グレイスなら人を殺すのに理由はいらない。後からなんとでも作り出せばいい。そうすればそれが真実になるだろうに、何故わざわざそんなシナリオを作りたい?」

「……なるほど。……だが君は事実を1つ思い違っている。アーサー殿程の人間を消すには、例え我々でも名分が必要だ。勿論、その取り巻きであっても当然ね」


 だがそう言い終わったあと、サムはため息をついて続けた。

「……君達には敵いそうにないから正直に言うが、……こんな私を心底大事にして下さった主が、生まれて初めて我儘を言ったのだ。……私としてもどんな理由をつけてでも君たちを招待したかった。ただ、それだけの事だ」


 大財閥と感情と主。その全てに板挟みにあった男の哀愁が見て取れた。

「どちらも真か……」

「……まぁ、そういう事だ。巻き込んでしまって、すまない。だが悪い様にはしない。グレイス専属フリーになったとでも思っていてくれ。都合よく肩書きを使ってくれて構わない」


 怒りが吹き飛んだように飄々と、アートが口を開いた。

「ま、気には食わないけどさ。気にしてませんよ。いつだって用済みなら殺される環境にいるのは、ユウトに協力した時点で分かってますから」

「でも〜、それってこの街ならいつでもある恐怖だから〜、後ろ盾が財閥ならむしろ安全かも〜」

「そういう事!」


 話もまとまり、もうすぐ出口だと言うところで、サムが止まって俺らの方を向いた。

「……1つ完全に誤算があるとすれば、君だ。ユウト君」

「え?」

 突然後ろから殴られた気分だった。

 なんだ?俺は何かやらかしたのか?


 アートとエミリーは互いに目を合わせ、ニヤついていた。彼らにはその理由が分かっていたようだった。

「まぁ、あれはねー」

「ね〜」


 サムは項垂れて言う。

「……お嬢様が君に惚れてしまうとは……」

「ありゃ完全にホの字だったね」

「キャ〜」

「おい、待てお前ら」


「社交の場ですら滅多に話さないお嬢様が、君の前ではあんなに……」

「最後に番号も貰ってたでしょ?」

「私ら貰ってないのに〜」

「待て待て」


「……お嬢様に手を出したら君を消さざるを得ないぞ。ユウト君」

「ただヤるだけの女ならまだしも、万年シスコンのせいで恋愛的には女知らずだったユウトが彼女とはいい感じだったし、君も満更では無いでしょ?」

「あの娘ネイキッドだよ〜?なのに心のハッキングされちゃったの〜?」

「……っ」

 恥ずかしくなってきた。最悪だ。


 初めてお洒落を試みた時に、姉さんにいじられたあの時と同じ感覚だ。

 あぁ、顔が熱い。


 この後、ここであった事はくれぐれも口外禁止だという念を押され、黄金郷を後にしたはずだが、何故かそのあたりの記憶を全く欠いてしまった。




 ……恐らくはハンナの笑顔が頭から離れなかったせいだろう。



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